平成の恐怖体験「赤い部屋」とは?懐かしの「おもしろフラッシュ」で見つけた肝試し

文=長井 短 編集=高橋千里


演劇モデル・長井 短。平成5年に生まれ、平成を生き抜いてきた彼女が、忘れられない平成カルチャーを語り尽くす連載「来世もウチら平成で」。

今回は、平成のインターネット黎明期に現れた「おもしろフラッシュ」を振り返る。

インターネット黎明期の「堂々たる偽物たち」

先月、数年ぶりに速度制限がかかった。昔は毎月のように気にしていたパケット。もう何年も速度制限がかかることはなく、悠々自適なインターネットライフを送っていたのに、どうして今……。

おそらく理由は、偽『スイカゲーム』のやりすぎだった。『スイカゲーム』、偽物とかあるんですね。友達が「それ、本物の『スイカゲーム』?」と問いただしてくれたから気がつけた。

たしかに変だとは思った。すごい広告入るし、電池の減りが異常だし、なぜかいちごのキャラだけエロ目だし。本物の『スイカゲーム』さん、申し訳ありませんでした。現在はもちろん削除済みで、本家を購入させていただいております。

ずいぶん本物面をした偽物だった。いや、私が無知だっただけかもしれないけど。

※画像はイメージです

でもインターネット黎明期の偽物たちって、もっと堂々と偽物じゃなかった? 「サザウェさん」とか、「まさお コンストラクション」とかさ。本物だなんて思わないじゃないですか。

ここまで書けば、あとはわかるな? 今回は「おもしろフラッシュ」の話だよ!

振り返るためにネットでおもしろフラッシュの動画を検索したらニコニコ動画がヒットしたんだけど、ニコ動で広告を見せられる未来なんて……知りたくなかったよ……。

「おもしろフラッシュ」ってなぁに?

東京生まれおもしろフラッシュ育ちとは私のこと。小学校中学年のころ、友達の家のWindowsで来る日も来る日もおもしろフラッシュを見た。

家にインターネットが通ってからは、自宅のパソコンでも見まくった。「おもしろフラッシュってなぁに?」と思っている健全なあなたのために、まずは概要を説明しよう。

おもしろフラッシュとは……Flashアニメーションを集めてくれていた一番おもしれーサイトの名前

わかった? 私にもよくわからないんだよ、あれがなんだったのか。「Flashアニメ」ってものがどういうものなのかもよくわからないし。

まぁでも、今でいうYouTubeとかTikTokみたいなもんで、短いアニメーションがたくさん掲載されているサイト、ってことでいい?

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そこにはたくさんのアニメーションがあった。そのほとんどが、著作権的に問題があったし、表現として間違っていたものも多い。暴力的だったり性的だったり差別的だったり、きっと今見たら顔をしかめてしまうものばかりだろう。

でも、あのころの私にはわからなかった。10歳そこらのガキには善悪の判断なんてつかなくて、それよりとにかくムキムキのドラえもんが世界で一番おもしれーじゃんね!!

誰が流行らせたものなのかさっぱりだけど、おもしろフラッシュは瞬く間にクラス中に、学年中に、街中に広まって、おそらく2000年代初頭の黒板にはほぼ確実にムキムキドラえもんがいた。ムキムキサザエさんも。

私は「まさお コンストラクション」が大好きだった。家にあるゲームは片手で数えきれるくらいなのに対して、「まさお コンストラクション」は両手に収まらないほどのシリーズがあったから。子供ながらに「これが無限かぁ」と思ったものだ。

おもしろフラッシュを代表する名作「赤い部屋」

数々の人気作があった。その中で「これを見た奴はすごい」って位置づけだったのが、言わずと知れた名作「赤い部屋」だ。

「あなたは赤い部屋が好きですか?」でおなじみのこのFlashアニメは、見知らぬ男が「赤い部屋」という都市伝説に興味を持つというお話で、このストーリーがほんと、すごくシンプルだけど見事に自分とリンクしているのだ。

赤い部屋は好きですか? 【都市伝説】(YouTubeチャンネル『キヨ。』より)

2000年代初頭も今は昔。とはいえ、すでに街から自由は減りつつあった。お父さんお母さんが子供のころに体験したような肝試しをできる環境は(特に東京の)子供に残されていなかったし。見知らぬ空き地や廃墟に忍び込むなんて冒険は、少なくとも私の子供時代にはすでに過去の話だったのだ。

だから、90年代生まれの私にとって「赤い部屋」は、ついに見つけた肝試しだったのである。もしかしたら、おもしろフラッシュ自体がそうだったかもしれない。

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実際「赤い部屋」に登場するポップアップのような不穏な広告はいくつもあったし、Flashアニメも再生するまでどんなアニメーションなのかわからない。クリックして突然グロ画像が出てくるなんてものもあった気がする。

「勝手に入ってはいけません」「ここで遊んではいけません」大人たちの目が光る街と対照的に、当時のインターネットには規制線が少なかった。

子供のほうが大人よりも、早いスピードでパソコンを使いこなしていったから、私たちが放課後パソコンで何を見ているかなんて親はよくわかっていなかったと思う。誰に習ったでもなく履歴消すし。Yahoo!の検索履歴まで消すし。

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午後の柔らかい日差しで満たされた自宅、もしくはお呼ばれした友達の家のリビングで、カントリーマアムを食べながらマウスを操作。おそるおそるクリックしては目を細め、怖いFlashじゃないかを確認する。

そんなに怖いなら、すでに流行ってるFlashしか見なきゃいいんだけど、やっぱりみんなが知らないおもしろを見つけたいから。それでクラスに流行らせたいから。ディグってディグってディグりまくった。なんて懐かしい日々……!

思い返すと、宮崎吐夢もラーメンズもBUMP OF CHICKENも、出会いはおもしろフラッシュだった。

知っているものと知らないもの、怖いものと怖くないものが闇鍋みたいにごった煮されていたあの空間は、間違いなく今の自分の礎になっている、なんて言うと大げさかしら。

今の子供たちにも「肝試しできる場所」がありますように

今の子供たちはどんなサイトを見ているんだろう。あのころと違って、インターネットでも大人の目は光っている。誰もが親しむ場所へと変貌を遂げたことで、罠だって増えただろう。

そりゃもちろん心配だけど、子供にはたったひとつ、ひとつだけでいいから、肝試しできる場所があってほしいと私は思う。

それは自転車で30分行ったところにある工事現場でもいいし、向かいのマンションの非常階段でもいい。InstagramでもTikTokでもいい。

少しの恐怖と大いなる冒険心を持って、薄目で世界を見る瞬間、伸びるアキレス腱に幸あれ。

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長井 短

(ながい・みじか)1993年生まれ、東京都出身。「演劇モデル」と称し、舞台、テレビ、映画と幅広く活躍する。読者と同じ目線で感情を丁寧に綴りながらもパンチが効いた文章も人気があり、さまざまな媒体に寄稿するなか、初の著書『内緒にしといて』を晶文社より出版。

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