写真を撮ることにこだわりを持つアーティストや俳優・声優による連載「QJカメラ部」。
土曜日はアーティスト、モデルとして活動する森田美勇人が担当。2021年11月に自身の思想をカタチにするプロジェクト「FLATLAND」をスタート、さらに2022年3月には自らのフィルムカメラで撮り下ろした写真をヨウジヤマモト社のフィルターを通してグラフィックアートで表現したコレクション「Ground Y x Myuto Morita Collection」を発表するなどアートにも造詣が深い彼が日常の中で、ついシャッターを切りたくなるのはどんな瞬間なのか。
宝探しの先には……
第88回。
帰り道にふと見つけた看板というか暖簾というか手作りの“それ”。
やけにフォトジェニックを感じ、撮影。
オールドスタイルな深みのある緑に味のある「BAR」の文字。
室外機の動きに合わせて小刻みに揺れる“それ”はギラついた看板よりも、ノスタルジーな提灯よりも、よっぽど私に宣伝効果があった。
小学生のころ、公園の至るところに記された宝のありかを示す落書きを思い出しながら、矢印を頼りに進んでみた。
なかなか入口が見つからず苦戦したが、それは2Fへの階段がひと目では見えない奥まった場所にあったのが理由であった。
ようやく見つけた1Fの入口は、電球によるイルミネーションが施された建物の間と、間にある長い通路。
年季がすごい。
灯りをつけているのに薄暗い。
少し足がすくむような寒さを感じたが、好奇心に任せて歩を進めてみた。
行き止まりまで歩いてみると右手にイルミネーションが昇るように続いていて、ようやく2Fへの階段を見つけた。
正直ここまでで満足した気持ちにもなったが、とりあえず玄関まで行ってみようと階段を登ってみた。
鉄製の錆びた階段は歩くたびにカンカンと音を立てて、建物の向こうの甲州街道の喧騒が薄くなるほどに、今いる場所の不気味さが洗練されていく。
心音が少しずつ加速するのを感じながら玄関の前に立った。
都会のこぢんまりとしたBARの扉はいつも緊張してやけに重たいのだが、階段を登りきったせいか身体がノっていたので勢いで扉を開けてみた。
ジャランジャラン。
ズンチャッズンチャッズンチャッズンチャッ。
レゲエが流れ込んでくる。
イルミネーションは中にも続いている。
相変わらず薄暗い。
酒だけが妖しく光っている。
その前でシルエット気味に酒を作るビーニー帽の中年男。
カウンターに座ってみる。
「いらっしゃい」
落ち着いた低い声とようやく見えた顔から感じるどことない細野晴臣感。
レゲエにハマった細野晴臣はこんな仕上がりになるのかな、なんて心の中でひとり言。
「うちはラムをウリにしてる」
甘いのは苦手だなと思いながらも郷に従いラムロックを頼んだ。
おいしい。
クセはあるが味わい深い。
飯には合わないがBARで飲むには適してると感じた。
「これは比較的飲みやすい。こっちなんかはより匂いが抜けてまたおいしい」
本当だ。これ好きかもしれないです。
ズンチャッズンチャッズンチャッズンチャッ。
あーこれはまた強いなぁ。
ズンチャッズンチャッズンチャッズンチャッ。
マスターはここ何年やられてるんですか?
ズンチャッズンチャッズンチャッズンチャッ。
……。
ますたぁおかいけいでぇ〜。
ごちそうさまでしたぁ〜。
ジャランジャラン。
カンカンガガッ!!カンカンカンカン。
ブーーーン。パパーッ。
ブォオオーン。
の、飲みすぎた……。
からだが真ん中を保てない。
ボンネットに腰かけタバコを吸うタクシーの運ちゃんに構わず手を上げた。
ぎりぎり乗せてもらい帰宅。
俺はジャマイカには行けなかった。
20歳、夏。
NAOYA(ONE N’ ONLY)、中山莉子(私立恵比寿中学)、セントチヒロ・チッチ、工藤遥、RUI・TAIKI・KANON(BMSG TRAINEE)、森田美勇人、南條愛乃が日替わりで担当し、それぞれが日常生活で見つけた「感情が動いた瞬間」を撮影する。