奥森皐月も絶賛『M-1』約100万回再生の「女子小学生コンビ」「兄妹コンビ」とは?決勝前に見るべき予選動画【今月のお笑い事件簿】

文=奥森皐月 編集=高橋千里


年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、19歳・タレントの奥森皐月

今月は、12月24日に放送される『M-1グランプリ2023』決勝戦への期待や、奥森自身がおもしろいと思った予選ネタを紹介する。

お笑い好きにとって、一番幸せな季節がやってきた

毎年この時期が一番幸せかもしれない。年末年始に向けてお笑いの予定が目白押しで、楽しみな気持ちだけが渦巻いている。

自分の中の目安としては、『おもしろ荘』の最終選考メンバーが発表されるころがそのスタートラインだ。イルミネーションが始まるのと同じようなワクワク感。

(C)M-1グランプリ事務局
(C)M-1グランプリ事務局

今年の『M-1グランプリ』決勝戦はクリスマスイブの12月24日。例年のことを考えると、昼過ぎの敗者復活戦順番決めクジ引き配信から深夜の打ち上げ配信まで、丸々『M-1』に時間を費やすことになるので、私の中で今年のクリスマスは存在しない。

でも、クリスマスは来年もあるから大丈夫。『M-1グランプリ2023』は今年しかないので最優先だ。

学生時代、この口実でテスト勉強をサボっていたことを今思い出した。『M-1』は年に1回だけどテストは何回もあるので勉強をしない、と豪語しながら敗者復活戦を見ていた。何も成長していない。

『M-1』予選動画が約100万回再生!完成度の高いキッズたち

『M-1』3回戦からは徐々に、予選動画をひと通り見た人によるおすすめネタの投稿をSNS上で見かけるようになる。ワイルドカード投票に向けて、準々決勝の動画もよく拡散されていた。

もちろん全部観ることができたら最高なのだが、視聴期限もあるためすべてを見きるには相当な時間と労力がかかる。誰かが勧めている漫才が必ずしも自分の好みに当てはまるとも限らないため、予選動画を見ることをあきらめている人もきっといるはず。

そこで私が一番ありがたいと思ったコンテンツが、Leminoで配信されている『キラリと光るマヂカルスターを探せ!2023』だ。

『キラリと光るマヂカルスターを探せ!2023』予告

マヂカルラブリーのおふたりが、スタッフさん厳選の『M-1』1回戦の動画をひたすら観てコメントしていく番組。野田(クリスタル)さんと村上さんがいるという安心感が土台にあるので、どれほどパンチの効いたネタが繰り広げられても楽しく観られる。

#1では「家族」「キッズ」「ユニット」の3部門に分かれて1回戦の動画が紹介される。

毎年ナイスアマチュア賞を受賞している子供たちを見かけることはあるが、今年は規格外のコンビが現れた。女子小学生コンビの「ラブリースマイリーベイビー」が『M-1』の枠を超えるほど話題となり、YouTube動画は現在100万回近く再生されている。

ラブリースマイリーベイビー《今どきの女子小学生漫才!》【ナイスアマチュア賞】

これはラブリースマイリーベイビーがおもしろいのはもちろんのこと、『M-1』の予選という場所だからこそ起きた事件だと思う。ちなみにダウ90000のYouTubeで公開されている、吉原怜那さんのラブリースマイリーベイビーものまねも最高。

しかし私が今年の『M-1』で一番衝撃を受けたのは、番組内でも紹介されていたもうひと組のキッズだ。8歳の兄・たいがくんと4歳の妹・いおんちゃんによるコンビ「カットミドルベイビーズ」。このコンビがとにかくすごかった。

カットミドルベイビーズ《ねぇねぇ、私って何歳に見える?》【ナイスアマチュア賞】

まず、4歳のいおんちゃんの振る舞いに貫禄がある。堂々としているし、言葉もはっきりと聞き取れる。ネタを飛ばす様子も間違えるそぶりもなくて驚いた。『スベリ-1グランプリ』とは大違い。

その上、お兄ちゃんであるたいがくんのツッコミが美しい。何を見て学んだのかわからないが、間を置いてから話したり間髪入れずにツッコミを入れたり、ネタに緩急をつけている。

仮にご両親が長い時間をかけて練習させているとしても、ここまでの完成度にするのは相当難しいと思う。集中も続かないだろうし、嫌だったら泣いたりやめたりしてしまいそうなので、本人たちのポテンシャルが高いのだろうと思い知らされた。

緊張も見えずネタもおもしろいからか、きっちり3回戦まで進出していて本当にカッコいいと思った。4歳で『M-1』の3回戦まで進んだなんて、墓場まで自慢できるエピソードだ。

中学生コンビの「酢酸ペンギン」もおもしろかった。大学生や高校生のお笑いはわかるが、中学生はあまり聞いたことがあまりないので今後もっと見てみたい。

完成度の高いキッズたちを見ていたかと思えば、今度は白桃ピーチよぴぴさんとユビッジャ・ポポポーさんのユニット「よぴぴ&ポポポー」も出てくる。ほっこりした雰囲気からいきなり『あらびき団』風味になる高低差が楽しい。

出場者数を年々大きく更新し、今大会は過去最多エントリー8540組。マヂカルラブリーのおふたりも話していたが、以前までなら3回戦に進んでいたようなネタが2回戦までしか通らなくなってきている。

キッズだったり大人数だったりしても、きちんとおもしろさで評価されていることが予選動画からよく伝わってきた。

「ただおもしろいだけでは勝てなくなった」というフレーズを目にしたが、私は結局おもしろい人が勝てるというシンプルさが好きかもしれない。

ほんの少しでも予選動画を見るだけで、敗者復活や決勝戦が「あれらすべてを勝ち上がってこの場に来ている人たちの戦い」と映るようになって、より熱くなる。

マヂカルラブリーがチャンピオン目線ではなく、あくまでもいちお笑い芸人として対等にネタ動画を見ているところも素敵だ。決勝戦までに余裕がある人にはぜひおすすめしたい。

次世代のラジオスター発掘『GERA NEXT』がおもしろい

各ラジオ局でもPodcast配信が定番になり、いよいよ芸人さんのラジオがいつでも無限に聴けるような状況になった。すべて聴くわけにはいかないけれど、なかなか絞りきるのも難しい。

そこで私は単発のラジオを聴くようになった。今は単発のほうが好きと言ってもいいくらいには好んでいる。聴き続けなくていい上に、パーソナリティのよさが凝縮されているように感じられて楽しい。

以前なら『オールナイトニッポンR』、近年なら土曜日の『オールナイトニッポン0(ZERO)』や『オールナイトニッポンPODCAST』の枠は欠かせない。

特に好きなのはこれから活躍しそうな若手芸人さんの単発ラジオなのだが、これを今聴くならばお笑いラジオアプリ・GERAの『GERA NEXT』が一番だ。

定期的に何組かが選出されて4回限定で放送する「次世代のラジオスター発掘」がコンセプトの番組。過去には春とヒコーキが出演し、そこからレギュラー化した番組が今や大人気ラジオとなっている。

11月末から新たにとんかつ街道、鈴木ジェロニモ、ちぇく田、センチネルの4組の番組がスタートした。すべて聴いているのだが、戸惑ってしまうくらい全番組おもしろい。

『オールナイトニッポン』や『JUNK』などの王道のラジオから、RadiotalkやYouTubeの自主ラジオまで、芸人さんのラジオをわりと幅広く聴いてきたつもりだが、ここまでいいラジオ番組に出会えることはあまりないので感動している。

とんかつ街道の『GERA NEXT』

前コンビの赤もみじでGERAの番組も持っていた村田大樹さんが、元衝撃デリバリーのかつやまさんと今年結成したとんかつ街道。初出場の『M-1』でいきなり1回戦1位通過だったことからもわかる注目のコンビだ。

とんかつ街道の『GERA NEXT』は結成半年とは思えない息の合ったかけ合いで、まさに「芸人ラジオ」という風格がある。

村田さんのガツガツ進むさまはラジオの王様感があるし、かつやまさんのマイペースなところやメールの読み間違いは愛らしい。かつやまさんのミスを村田さんが訂正するやりとりも、村田さんがリスナーに向き合うところも、ラジオらしさが詰まっている。

コーナーにはしっかりネタメールが送られてきていて、『オールナイトニッポン』2部でも遜色のない鮮やかな流れだ。

短文の下ネタメールにひょうひょうとリアクションするかつやまさんと、真っ向からぶつかる村田さん、とにかくふたりのキャラクターが詰め込まれていて、すっかりこのラジオの虜になった。

小学生5年生のときに『三四郎のオールナイトニッポン0(ZERO)』に出会ったときと同じくらい楽しい気持ちに今なれている。楽しい。

鈴木ジェロニモの『GERA NEXT』

今年、YouTubeでの「説明」動画で話題を集めた鈴木ジェロニモさん。『R-1グランプリ』セミファイナリストで、特技の短歌では賞を受賞したり文芸誌に掲載されたりと、幅広い活躍を見せている、今、目が離せない芸人さんだ。

ネタや説明の動画のイメージから、フリートークをしているジェロニモさんの姿をあまり想像できていなかったのだが、とてつもないパーソナリティ力(りょく)を持つ人だと思い知った。

言葉を嗜み、操る人だからこその表現と心地よさでいつまでも聴いていられる。声も素敵で、ひとりしゃべりに必要な能力がすべて最大限に備わっている人だと感じた。

TBSラジオ『JUNK』のプロデューサーである宮嵜守史さんがおっしゃっていたことなのだが、ラジオというのは「そのパーソナリティがどう見て、どう感じたか」が重要らしい。たとえ自分が同じ映画を観ていたとしても「あの人ならなんて言うだろう」と思えるような、人としての魅力がラジオパーソナリティには必要だと。

ジェロニモさんはまさにそうだ。最初から最後まで、ジェロニモさんから見える景色をジェロニモさんの言葉で発信している。

コーナーではリスナーから短歌を募集しているのだが、これもたまらない。送られてくる31音から想像をふくらませてありとあらゆる角度で話している。技術的な部分も見えない背景も淀みなく広げていくので、いつまでも聴いていたくなる。

それどころか、最後にはリスナーに向けて「〇〇さん、気づかせてくれてありがとう」と言うのだ。今までにこんなラジオ聴いたことない。素晴らしすぎる。そして丁寧なのに案外アニキ的な側面もある。

本人は話されていないけれど、相当ラジオを聴いている人なのではないかなと勝手に思った。そうでないにしろラジオが好きな気持ちが伝わってくる。もともと芸人さんとして好きだったが、ラジオパーソナリティとしても大好きになった。

ちぇく田の『GERA NEXT』

「粗品が一番おもしろいと思ってる先輩」と言われているちぇく田さん。霜降り明星・粗品さんによるYouTubeチャンネル『粗品のロケ』に出演されたのをきっかけにその存在を知った人もいるだろう。

恥ずかしながら私もきちんとちぇく田さんを認識したのはここ数年なのだが、一度見ればすぐさま大好きになってしまう魅力的な人だ。

「エピソードトークがおもしろい」というのはとても乱暴な言い方だとは思うが、とにかく話がおもしろい。経験している出来事も話す切り口も、あますところなく聴いていて楽しい。

今回の『GERA NEXT』ではコーナー部分以外すべてエピソードトークをしているという、あまりにもハードな放送をしている。幼少期から順を追って話していくのだが、ずっと濃くておもしろい。

誰もツッコミがいないのに、短いエピソードの列挙だけでまるまるラジオができてしまう人はほかになかなかいないと思う。

前ふた組が「おもしろいラジオ」だとするならば、ちぇく田さんの『GERA NEXT』は「おもしろい人のラジオ」という感じがする。あまりにも感覚的な話だけれど。

ちなみに私は、ちぇく田さんと『大喜る人たち』のライブで一度ご一緒したことがあるのだが、そのときもあまりにもおもしろくて、同じ舞台上に立っているにもかかわらず我を忘れてお腹を抱えて笑った。

「おもしろい大喜利」をする人はある程度いるけれど、「おもしろい人の大喜利」を見られる機会はやはり少ない。私たちはちぇく田さんという芸人・人間をこれからもっと知る必要があると思っている。

1回10分くらいでもいいので、いつまでも聴いていたいラジオだ。深夜ラジオの5分枠とかで流れてきたらこの上ない幸せかも。もちろん長いトークも聴いてみたいけれど。

センチネルの『GERA NEXT』

『ゴッドタン』の「この若手知ってんのか!?」で紹介されたり、トミサットさんがドラマに出演したりと注目が高まっていて、ネタにも定評があるセンチネル。

ウガンダと日本のハーフというトミサットさんが「ハーフ芸人」というキャラクターをあまり使わないスタイルの漫才が個人的に大好きで、よく劇場でも観ている。

ライブシーンの芸人さんの中でもずば抜けて安定感があるコンビだと思っているのだが、そのすごみはラジオでもしっかりと感じられる。

淡々とラジオを存続させるための方法を説いているかと思えば、「若手で解散する芸人は全員不仲」と急に毒を吐いたり、スポンサーに媚びたり、とにかくトミサットさんの人間らしいトークがおもしろい。

それに対する大誠さんの対照的なリアクションとのやりとりも、不思議な居心地のよさがある。ハーフ芸人というのを一切抜きにしておもしろいのに、それに加えてハーフ芸人なんだよなと思うともう一度おもしろさが加算されるのが、センチネルの魅力かもしれない。

ネガティブも毒舌もあるのにどこか安心できる。話だけ聴いていると浅草の寄席で何十年もやっている芸人さんのような貫禄がある。『M-1』の決勝に行けば上沼恵美子さんも「達者」とコメントすることだろう。私はとっくのとうにファンだ。

コーナーもとてもいいので、一本のラジオとしての満足度が高い。これももっと聴いていたい。

ぜひ第1回だけでも聴いてほしい

『GETA NEXT』のシステム上、すべての番組が継続したりレギュラー化したりすることは難しいだろう。仕方ないけれど悔しい。4番組とも本当にいいラジオだと思っている。

お笑いライブは行くけれどラジオは聴かない人、ラジオは聴くけれど若手芸人はあまり知らない人、どちらにも第1回だけでいいから聴いていただきたい。

もちろん、お笑いを見ないしラジオも聴かない人も見つけてくれたらいいけれど。きっとそれも楽しいだろうなと思う。

このラジオに限らないが、おもしろいと思った人が「おもしろい」と言わないと、あっという間になくなってしまうことがある。

私は「あのとき言っておけば」という後悔がないように、なるべく残す努力をすることにした。拡散してそれが広まることが一番なはず。

そういえば最近、結婚しました

奥森皐月

お笑いを見ながら駆け抜けていれば、2023年もあっという間に終わりだ。

そういえば最近、結婚をした。今のところ変わったことはない。お菓子を食べながらTVerで『座王』を見て、電車移動中にYouTubeで『バキ童チャンネル』を見て、radikoで『東京ポッド許可局』を聴きながら散歩する。

これまでどおり西武新宿付近を歩いてお笑いライブに行き、新宿サブナードを通ってだらだら帰る。本当に何も変わらない。日常のお笑いはすでに飽和状態だったので、増えることはないが減ることも当分なさそうだ。

結婚に関してありとあらゆることを言われたが、私に「前半にたたみかけるな」と言ってきた人は見つからなかった。私はただお笑いの話がしたい。来年も勝手にお笑いを綴ることだろう。

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奥森皐月

(おくもり・さつき)女優・タレント。2004年生まれ、東京都出身。3歳で芸能界入り。『おはスタ』(テレビ東京)の「おはガール」、『りぼん』(集英社)の「りぼんガール」としても活動していた。現在は『にほんごであそぼ』(Eテレ)にレギュラー出演中。多彩な趣味の中でも特にお笑いを偏愛し、毎月150本のネタ..

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