人気アニメシリーズスピンオフから人気ホラーのエピソード0まで!2023年3月のオススメ映画
映画ファン必見の3月公開予定作をラインナップ! 映画評論家・映画ライターのバフィー吉川がセレクト&推薦する、注目の映画作品をお届けします。
目次
ひとつのライブ再現を通してビリーの人生を描く『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson’s Bar & Grill』
監督:ロニー・プライス
脚本:ラニー・ロバートソン
出演:オードラ・マクドナルドほか
2023年3月10日(金)より全国順次限定公開
ストーリー
時は1959年、舞台はフィラデルフィアのとある寂れたジャズクラブ。これから観客の面前で繰り広げられるのは、死を4カ月後に控えたビリー・ホリデイによる最後のパフォーマンスである。本作は、10曲を超える楽曲の数々に、辛辣で時にユーモラスな回想を交えながら、歌姫の姿とその音楽的世界観を魅力的に描き出していく。ニューオーリンズのカフェ・ブラジルで有観客上演された舞台を収録した「レディ・デイ・アット・エマーソンズ・バー&グリル」を生収録。6度のトニー賞に輝くオードラ・マクドナルドがジャズ界の伝説的な歌姫に扮し、歴史に残るパワフルなパフォーマンスを披露する。
おすすめポイント
『ジャニス』や『パリのアメリカ人』など、ブロードウェイやイギリスで公演された貴重なミュージカル舞台を日本に届けてくれる「松竹ブロードウェイシネマ」の新作として、2014年に主演のオードラ・マクドナルドがトニー賞を受賞した舞台をHBO特別番組として収録した『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson’s Bar & Grill』が日本上陸!
ビリー・ホリデイといえば、近年にもアカデミー賞においてアンドラ・デイが主演女優賞にノミネートれた『ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ』(2021)やドキュメンタリー『BILLIE ビリー』(2019)など、多くの作品が制作されてきているが、今作を観ることでよりビリー・ホリデイの魅力や抱えていた闇が伝わるはずだ。
1959年3月にフィラデルフィアの小さなジャズクラブのステージを模したひとつの舞台を通して、ビリー・ホリデイの人物像に迫っていくという斬新な構成であることから、ライブでありながら舞台でもあるという、EX THEATER ROPPONGIでも上演された『ONCE ダブリンの街角で』(2007)の舞台版のような客席一体型による独特の雰囲気を演出したものとなっている。
そのため観ている側も当時の観客になったような体感型舞台となっている。幸いなことに日本ではスクリーンで観るという貴重な体験ができるし、「松竹ブロードウェイシネマ」で上映された作品は国内ではソフト化されない作品ばかり。ぜひ、この機会に観てもらいたい。
リブート版シュレックにつながるかも!?『長ぐつをはいたネコと9つの命』
監督:ジョエル・クロフォード
ボイスキャスト(字幕版):アントニオ・バンデラス、サルマ・ハエック、ハーヴィー・ギレン、フローレンス・ピューほか
3月17日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
ストーリー
長ぐつをはいたネコ・プス。剣を片手に数々の冒険をし、恋もした。でも、気づいたら、9つあった命は、ラスト1つに。急に怖くなり、レジェンドの看板を下ろして家ネコになることにしたが、「賞金首」であるプスを、刺客たちは放ってはおかない。そんな時、どんな願い事も叶う「願い星」の存在を聞き、再奮起。命のストックを求める旅の道中、プスが出会ったのは、ネコに変装したイヌ・ワンコと、かつて結婚も考えた気まずい元カノ・キティ。プスを狙う賞金稼ぎや、「願い星」の噂を聞きつけた手強い奴らもモチロンやってきて、前途多難な予感しかない。やれやれ、次死んだら、本当に終わりなのに……。
おすすめポイント
『シュレック』シリーズのスピンオフ作品として制作された『長ぐつをはいたネコ』(2011)と2014~18年にかけて放送された前日譚となるテレビシリーズの続編でありながらリブート的作品ともいえる今作。
ドリームワークスは『シュレック』のリブート企画も発表しているだけに、今後の『シュレック』シリーズにつながる可能性もちらほら。ちなみにシュレックの存在も言及されている。
昔から猫には9つの命があるという言い伝えがあるが、命知らずな冒険をつづけてきたプスが気づけば残り1回の命となったことから、死への恐怖をどう克服できるかという葛藤の中で巻き起こるアドベンチャー作品。
何か大切なものを得られるような王道的ストーリーながらハイテンションでスピーディーなアクションシーンの連続。
続編企画が発表されてから10年以上を経ての続編ではあるが、今の時代だからこそできた表現だといえるだろう。
どんな理由があったとしても親として加害者を赦すことなど可能なのだろうか…『赦し』
監督・編集:アンシュル・チョウハン
脚本:ランド・コルター
出演:尚玄、MEGUMI、松浦りょう、生津徹、藤森慎吾、真矢ミキほか
2023年3月18日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開
ストーリー
7年前に高校生だった娘の恵未をクラスメートに殺害されて以来、酒に依存して現実逃避を重ねてきた樋口克のもとに、裁判所からの通知が届く。懲役20年の刑に服している加害者、福田夏奈に再審の機会が与えられたというのだ。大切なひとり娘の命を奪った夏奈を憎みつづけている克は、元妻の澄子と共に法廷に赴く。しかし夏奈の釈放を阻止するために証言台に立つ克と、つらい過去に見切りをつけたい澄子の感情はすれ違っていく。やがて法廷では夏奈の口から彼女が殺人に至ったショッキングな動機が明かされ、澄子は裁判から身を退くが、殺意に駆られた克はある行動を起こすのだった……。
おすすめポイント
罪を犯してしまった者もやり直すチャンスがある。しかし殺人ならどうだろうか……。法律の問題や刑期の長い短いに関係なく、実際問題として自分の遺族や被害者遺族の重荷を一生背負うことになり、自由とはほど遠い人生になってしまうかもしれない。
それでも罪と向き合いながら生きていきたいと決心した夏奈の覚悟とそれを認めない被害者遺族の想いがぶつかり、7年越しの真実を知ったとき、止まっていた時間が動き出す。
そもそも、どうして殺人事件が起きてしまったのか……。たとえ、どんな状況だったとしても娘を殺された親の立場として加害者を赦すことなどできるのか……。本当の意味での救いなどあるのだろうか……。
自分がどの立場だったらどうしていただろうかとさまざまな視点から考えさせられるのと同時に、究極の問いを投げかけられているような作品だ。
また松浦りょうの表情一つひとつが、言葉にならない感情がにじみ出ているようでものすごい説得力に繋がっている。
親としてどうすることが正解だったのだろうか……衝撃の結末を直視できない『The Son 息子』
監督・脚本・原作戯曲・製作:フロリアン・ゼレール
出演:ヒュー・ジャックマン、ローラ・ダーン、ヴァネッサ・カービー、ゼン・マクグラス、アンソニー・ホプキンスほか
3月17日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
ストーリー
高名な政治家にも頼りにされる優秀な弁護士のピーターは、再婚した妻のベスと生まれたばかりの子供と充実した日々を生きていた。そんなとき、前妻のケイトと同居している17歳の息子ニコラスから、「父さんといたい」と懇願される。初めは戸惑っていたベスも同意し、ニコラスを加えた新生活が始まる。ところが、ニコラスが転校したはずの高校に登校していないことがわかり、父と息子は激しく言い争う。なぜ、人生に向き合わないのか? 父の問いに息子が出した答えとは……?
おすすめポイント
映画化もされ、第93回アカデミー賞において高く評価された『ファーザー』(2020)につづく「家族三部作」であり、日本でも2021年に舞台版が公演された『Le Fils 息子』を原作としているのが今作だ。
『ファーザー』同様に、原作者でもある劇作家のフロリアン・ゼレールが自ら監督を務めることで、舞台同様のメッセージ性と、映画だからこそできる奥行の表現によって、より重圧な人間ドラマとなっている。
家族ドラマである一方でサスペンス色が強かった『ファーザー』ではあるが、今作も同じく、時間の流れの残酷さと、それを受け入れる人生のサイクルを、けっしてハートフルなものではないサスペンスタッチに描いている。
子供を信じるべきなのか、俯瞰的な他者の意見を信じるべきなのか……。今回は「信じる」ことの決断に対しての不安や代償を容赦なく描いていて、心理サスペンス要素も強い。
また、両親の関係性が子供にどう影響するかという離婚率が高くなっている現代社会に生きる親たち、子たちが抱える不安を極端ではあるがフィクションだからとも否定することができない絶妙なラインで具体化したような問題にも直面することになるだろう。
父、母、子、父の現在のパートナー(ベス)……とさまざまな視点から描かれているがベスの視点が一番俯瞰的に観ることができる。両親の立場からの視点で観てしまうと、衝撃の結末を受け止め切れるのかが補償できない……。
児童文学をエンタメミュージカルに大変換!!『シング・フォー・ミー、ライル』
監督:ウィル・スペック&ジョシュ・ゴードン
脚本:ウィル・デイヴィス
声の出演<字幕版>:ショーン・メンデス(ライル役)
出演:ハビエル・バルデム、コンスタンス・ウー、ウィンズロウ・フェグリー、スクート・マクネイリー、ブレット・ゲルマンほか
声の出演<日本語吹替版>:大泉洋、石丸幹二、水樹奈々ほか
3月24日(金)全国の映画館で公開
ストーリー
ニューヨーク。ショーマンのヘクターは古びたペットショップで、魅惑の歌声を耳にする。歌っていたのはなんと、1匹のワニだった。ヘクターはそのワニのライルを相棒にしようとするが、ライルのステージ恐怖症が判明し、ショーは大失敗。ヘクターは去り、取り残されたライルはたった1匹、アパートの屋根裏に隠れ住むのだった。ヘクターが残していった音楽プレーヤーを握り締めて……。長い月日が経ったある日、ひとりの少年と家族がライルの潜む家に越してくる。その少年ジョシュもまた、ライルと同じく心に深い孤独を抱えていた。ジョシュを前に再びゆっくりと歌い始めるライル。やがてふたりは、歌を通して心通じ合わせていく……。
おすすめポイント
児童向け文学作家、バーナード・ウェーバーの代表作『ワニのライル』シリーズが初映像化。しかもただ子供向けなファンタジーではない。
『グレイテスト・ショーマン』(2017)や『ディア・エヴァン・ハンセン』(2021)、ディズニー版『白雪姫』の実写版『スノー・ホワイト』でも音楽を担当したパセク&ポールが参加したことで音楽性重視のエンタメミュージカルとしてアレンジされている。
ワニのライルを日本語吹替え版では大泉洋が声優を務めており、それはそれで違った魅力があるのだが、やはり注目すべきはオリジナル版声優がグラミー賞ノミネート歌手のショーン・メンデスということだ。甘い歌声のショーンがライルを演じることで怖そうな外見の内にあるキレイな心を見事に演出している。
エルトン・ジョンやスティーヴィー・ワンダー、ピート・ロドリゲスなどの世界的アーティストの楽曲カバーだけではなく、オリジナル楽曲も豊富。中でも「Rip Up The Recipe」のシーンでは、今まで映画やドラマでほとんど歌うことがなかったコンスタンス・ウーの歌唱シーンがあり、かなり貴重だ。
今回はパラサイトした家族側もヤバいかも!?『エスター ファースト・キル』
監督:ウィリアム・ブレント・ベル
脚本:デヴィッド・コッゲシャル
出演:イザベル・ファーマン、ジュリア・スタイルズ、ロッシフ・サザーランド、マシュー・アーロン・フィンランほか
3月31日(金)全国ロードショー
ストーリー
エスターは、コールマン家にやってくる以前に別のある一家で暮らしていたが、その家が全焼してしまう。そしてなぜか彼女だけが助かっていた。その「ある一家」が、本作の主戦場となるオルブライト家である。そこには、我々の常識を遥かに超え、さらに強烈な「エピソード0」の物語が待っていた……。
おすすめポイント
前作『エスター』(2009)の公開当時はまだ子役だったイザベル・ファーマンだが、現在は26歳。そんなイザベルが引きつづきエスターを演じて、さらに前日譚を描くことに違和感があったものの、その違和感自体がエスター完成過程の説得力として機能しているのは、計算なのか偶然なのか。
今作でエスターがパラサイトする家族の抱えている秘密もエスターと負けず劣らずといったところで、前作はパラサイトされる側の家族寄りの視点だったのが、今作ではエスター側の視点もしっかり描かれていて、ハーフ&ハーフな視点になっている。
それによって、エスターの狂気的な闇の中に隠れている悲しみというのが垣間見えるシーンがあるのも特徴的。つまり心理サスペンス色がより強くなっている。
実際エスターが犯罪に手を染めるようになったのは、時系列的には今作よりももっと前である。そこの部分はあまり描かれてはいないものの、エスターの表情から伝わる悲しみや怒りによってバックボーンが見えてくることから、演出のうまさとイザベルの演技力を感じるはずだ。
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