まさに「野球狂」水島新司マンガから生まれた発明の数々

2022.1.21
水島新司

文・編集=QJWeb編集部


野球マンガのパイオニアである水島新司が1月10日に亡くなっていたことが報じられ、多くの著名人やファンから悲しみの声が上がった。

水島新司が生み出し、現在のマンガでは当たり前になった表現も数多い。2020年12月に「漫画家引退」を発表した際に行った、オグマナオト(ライター/水島新司評論家)と、ツクイヨシヒサ(野球マンガ評論家)の対談(ショック!水島新司、漫画家引退徹底討論)で、その多大な功績が語られている。


「説明できないことは描かない」という哲学

野球マンガ評論家として「あだち充評論」を得意とするツクイヨシヒサ(上)と「水島新司評論」を得意とするオグマナオト(下)
野球マンガ評論家として「あだち充評論」を得意とするツクイヨシヒサ(上)と「水島新司評論」を得意とするオグマナオト(下)

ふたりがまず挙げるのが、擬音の特徴的な使い方だ。

「手塚治虫は静寂の擬音『シーン』を生み出したといわれますが、水島新司はその真逆のうるさい擬音を生み出した」「160キロ以上のストレートを操った藤村甲子園(『男どアホウ甲子園』)や中西球道(『球道くん』)が投げる際に描かれる『うおおぉぉぉ』も、この擬音があるからこそ球が速く見える」「ほかの野球漫画でも『うおー』を背負って投げる描写が多いのは、全部水島先生の影響では」(オグマ)

「球聖・岩田鉄五郎が投げる際の『にょほほほほ』とか、普通は考えつかない」(ツクイ)

さらに、岩鬼正美(『ドカベン』)の打球音「グワァラゴワガキーン」も独特だ。岩鬼の破壊力を表現したこの擬音について、ツクイは「『飛ばす』『運ぶ』スイングじゃない、『壊すスイング』を描きたかった、ということなんでしょう」と推測している。

野球へのこだわりは細部の表現にもある。そのひとつが、スパイク裏に刃を描いたこと。水島新司の野球マンガ第1作『エースの条件』では、第1巻からスパイクの刃が描かれている。島本和彦の『アオイホノオ』によれば、このスパイクが描かれるようになったのは水島新司以降、と指摘されているという。

30作以上ある水島野球マンガのなかでも記念すべき第1作『エースの条件』(原作:花登筐)。1969年に連載開始。全5巻
30作以上ある水島野球マンガの中でも記念すべき第1作『エースの条件』(原作:花登筐)。1969年に連載開始。全5巻

さらに、70年代は主流な表現だった「魔球」を描かなかった点も特徴。それは「原理を説明できないことは描かない」という哲学から来ていたと両氏は語る。

水原勇気(『野球狂の詩』)の「ドリームボール」は、原理を紐解けば下手投げからのスクリューボール。里中智(『ドカベン』)の「さとるボール」は下からのシンカー。のちに西武・潮崎哲也の決め球として現実のプロ野球で実現しているのだ。

ほかにも、ルールブックの盲点をついたプレーを描く、努力だけで天才を凌駕する描写がほぼないことなど、リアリティを追求しながら“野球の真髄”を描こうとしていた。

最盛期とされる1977年、38歳ごろに連載していたのは、『ドカベン』(6年目)、『野球狂の詩』(6年目、この年でいったん連載終了)、『あぶさん』(5年目)、『球道くん』(2年目)、『一球さん』(3年目、この年で連載終了)。さらに、野球マンガ専門誌『一球入魂』を創刊して責任編集長まで務め、この雑誌上で『白球の詩』の連載も開始するなど、驚異的な執筆量だった。その多忙の中、年間で何十試合も草野球に励んでいたとされる。

マンガのための取材で、プロ野球選手や関係者たちと月に200万円近くの飲食費をかけて時間を共にしていた時代があったと過去のインタビュー(『週刊文春』88年11月24日号)で明かしたこともあるという。

まさに「野球狂」とは“水島新司”本人のことだったのかもしれない。

『野球狂の詩 水原勇気編』<1巻>水島新司/講談社
『野球狂の詩 水原勇気編』<1巻>水島新司/講談社

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