「人物」と「場所」に焦点が合った“死角のない”映画『ブラインドスポッティング』

2020.1.15

「ルビンの壺」という多義図形がある。ふたりの人物が向き合っているようにも、ひとつの壺にも見える不思議な図形だ。映画においても同じような現象が起きる。映画における「人物」と「場所」、それぞれが強烈に浮かび上がるのだ。

映画評論家の轟夕起夫さんは、映画『ブラインドスポッティング』を、その「人物」と「場所」のどちらも焦点の合った“死角のない”映画と評した。果たしていったいどんな映画なのだろうか。


この映画、「死角」なし!

登場人物たちを生々しく描きながら、同時に、彼ら彼女らが住んでいる「場所」をグーンと際立たせる映画がある。

例えば『トレインスポッティング』だったり、 『SR サイタマノラッパー』であったり。主人公の立っている“その場所”が決定的な意味を持ち、しかし決して、特殊性の一語では収まり切らない──ここに紹介する『ブラインドスポッティング』も、そういう作品だ。

舞台となるのはカリフォルニア州オークランド。導入部からすぐに、物語に引き込まれる。

一体なにをヤラかしたのか2カ月間の刑務所生活を終え、仮釈放となったドレッドヘアーの黒人青年(ダヴィード・ディグス) 。要するに保護観察の身で釈放の条件は当然厳しい。自宅ではなく、更生施設で1年間過ごさねばならず、門限は夜11時、郊外への移動は禁止で、キチンと定職に就くのもそう。さらには日々、観察官から指定の雑務を課せられている。

映画は、11カ月と27日を無事に乗り切った彼の、最後の3日間をクローズアップしてゆくのだが、1日目、一緒に引越し業者として働いている幼馴染のボンクラ仲間(ラファエル・カザル)が拳銃を購入し、まずこれがイヤな予感を募らせる。

此奴は妻子持ちの気のいい白人だけれど、短気なトラブルメーカーでもあるのだ。おまけに門限ギリギリで施設へと戻る途中、黒人男性が白人警官に(無防備なのに!)背後から射殺される現場を目撃してしまい、残り2日間、「自由へのカウントダウン」に暗雲が立ち込めていく……と書けば、とてもシリアスな作風を想像するだろう。が、ユーモアのスパイスが絶妙に効いていて(特に黒人青年が刑務所へ入った理由を明かすシーン!!)、硬軟のバランスが実に素晴らしい。

脚本を手がけたのは、主演のダヴィードとラファエルのふたり。共にオークランドで育った親友同士で、09年に地元で起きた「オスカー・グラント射殺事件」が大きなキッカケだったという。地下鉄車内での喧嘩に巻き込まれた黒人のオスカーが、通報を受けてやってきた白人警官に手錠を掛けられ、ホームにうつ伏せ状態で無抵抗のところ、撃たれてしまった惨い一件だ。

さて重要なタイトルの意味は劇中、「ルビンの壺」を使って説明される。顔にも壺にも見える絵。つまり錯視するとき、人間は“盲点”を作り出すと。それをカルロス・ロペス・エストラーダ監督は初の長編で巧みに可視化してみせたのだ。人物と場所、どちらにも焦点の合った「死角のない映画」にして。こりゃあスゲぇ!


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  • 映画『ブラインドスポッティング』

    監督:カルロス・ロペス・エストラーダ 
    脚本:ダヴィード・ディグス/ラファエル・カザル
    出演:ダヴィード・ディグス/ラファエル・カザル
    (C)2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED
    配給:REGENTS
    公式サイト


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轟 夕起夫

(とどろき・ゆきお)1963年東京都生まれ。映画評論家。近著(編著・執筆協力)に、『好き勝手 夏木陽介 スタアの時代』(講談社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督 塚本晋也』(ぱる出版)など。読む映画館 todorokiyukio...

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