最大公倍数の俳優を目指したい
――俳優は「身体派」と「精神派」、どちらかを極めた人がトップに立つ印象を受けるのですが、直近作や、主演作『銃』を観て村上さんは両者をつなげてトップに立とうとしているなと感じました。
村上 ああー、なるほど。ありますね。ハリウッドスターたちが学んでいる演技法があって、3人が別々のことを提唱しているんですね。簡単に言うと1人目が「行動」、行動すれば感情がついてくる。2人目が「内面」、内面から作れば行動が生まれる。3人目は「なにもするな」、相手の言ったことを素直に受け取ればいいと。
僕は「全部必要じゃない?」って思っちゃう。もっと言うと、公約数じゃなくて最大公倍数を目指したいですよね。全部の最高値をとりたい。
――それはどうして?
村上 単純に高みに行きたいから。
――シンプルですね。
村上 体質改善って、本当は4カ月くらいかかるんですよ。でも海外と違って、日本では昨日クランクアップして明日別の撮影にクランクインなんてことがよくあるんです。できる限り役作りを頑張るけれど限界がある。そういうときになにで補うかというと、思考力や内面だと思います。少し前までは感覚に頼ることが多かったけど、最近はひたすら考えていますね。それが楽しいから芝居もさらに楽しくなって、イコール生きるのが楽しい。
常に力が入っている生き方は好きじゃないので、基本はダルんとしていて必要なときにシャキッと。酔拳みたいな感じです(酔拳のポーズ!)。周りを見ていても、やっぱ身体と脳、それと心も同時にフル回転しているんですよ。役と自分を切り替えるタイプですけど、『銃』は主人公の家に住んで、役に浸りましたね。
以前、西田敏行さんから「人は芝居の鎧で100パーセント固めたときに初めて自然に見える」と言われて。自然な演技は身体も頭も心も全部作り込んだ結果、技術だと思いました。長いこと剣道をやっていたんですけど、若いから体力はあっても師範には勝てないんですよね。そこはお芝居と似ているなと。
――いい意味での「欲望」を村上さんから強く感じるのですが、仕事で勝ち負けのようなことは考えますか?
村上 勝ち負けはありますよ。そういう考えは好きじゃないけど、ある。舞台セットとか台本とか全部大事ですけど、俳優の役割は作品の中で大きい。観終わった後にどの俳優さんがよかったか、みんな話すじゃないですか。そういうときに「よかった」と言われたいですよね。
死ぬまで自分の演技に満足することはないんでしょうけど、自分が自分に課した期待を越えたいっていつも思っています。見たことのない自分を見たい。でも、なかなかそうなれないですけどね。
親父とかは欲を絞るタイプで、僕は知らない時代ですけど彼はアルコールがないと生きていけなかったらしいんです。でも、もう何十年も飲んでない。「俺は一生分飲んだ。次飲むのは、もしかしたら虹郎が結婚したときに家でひとりで飲むかもな」って。超泣けました(笑)。