まさかの登山映画『トリプル・フロンティア』
暴力と黒い血=石油、骨太なアメリカ物語『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』を撮った実力派J・C・チャンダー監督の麻薬犯罪もの。ベン・アフレック、オスカー・アイザック、チャーリー・ハナム、ペドロ・パスカルにギャレッド・ヘドランドという面々を見て、相変わらずゴリゴリで渋いアメリカ映画を撮っているなあ、と思ったのは前半までだ。
米陸軍特殊部隊だった仲間を集めて、麻薬王を襲撃。大金を強奪したのはいいが、札束が多すぎてヘリがアンデス山脈を越えられないという珍事から、マッチョ5人が重い札束をかついでボヤきながら登山するという展開に。ひたすらに重いブツとしての札束ひとつによって、手堅い活劇からシュールで滑稽なサバイバル劇への変貌は、監督の妙味か、気の迷いか。
実にヘンテコな映画で、チャンダー監督作の中で最もつかみどころのない本作は、その計り知れなさゆえに埋もれさせたくないと強烈に思わされ、大穴狙いで配給するのも一興だ(実のところNetflix映画のため配給は難しいが……)。こういう映画に限って、気づいたら監督の最高傑作なんて言われる日がくる……かもしれない。
インディペンデント精神あふれるすべてのものたちへ『ルディ・レイ・ムーア』
『ハッスル&フロウ』、『ブラック・スネーク・モーン』、『フットルース 夢に向かって』と、音楽で救われる人々を描き続けてきたクレイグ・ブリュワー監督の新作は、70年代に活躍した実在のミュージシャンでコメディアンのルディ・レイ・ムーアをエディ・マーフィが演じた伝記映画だ。ブリュワー監督作にとっては絶妙な題材で、これだけで配給!となるのだが、Netflixオリジナルだから打つ手なし(でも作ってくれてありがとう)。
ブリュワー映画の主人公である持たざる者たちは、貧者だからこそのアイデアによって、身の回りにあるものを組み合わせ、作り変え、オリジナルを生み出していく。だから始まりはいつも自宅だ。再起をかけて自らを作り変えるとき、自分のみならず世界が輝き出す幸福な瞬間こそ、インディペンデントがもたらす、なにものにも代えがたい恩恵だろう。このままでは終わるはずがないと野心を抱くインディペンデント精神あふれるすべての者たちとともに、ムーアが実際に監督した『ドールマイト』シリーズ映画祭の開催が待望される。