「第七世代」は初めからオンリーワンを目指す。芸人の世代間ギャップとお笑いの未来(ラリー遠田)


「ナンバーワンになりたかった世代」と「初めからオンリーワンを目指す世代」

いま挙げたものだけが第七世代の共通認識であるとは思わないが、彼らの言動は先輩芸人との世代間ギャップを象徴的に示すものであるのは確かだ。

上の世代の芸人にとって、「お笑い」とは自分が売れるため、稼ぐため、モテるための手段だった。そして、そのためには芸人としての王道の成功ルートを目指すべきだと考えられていた。その王道とは「ゴールデンタイムで自分たちの名前の冠がついたコント番組を持つこと」である。

彼らがそこにこだわるのは、実際にそのルートに乗ってスターになった芸人をたくさん見てきたからだ。「お笑い第三世代」と言われたとんねるず、ダウンタウン、ウッチャンナンチャンは、それぞれがゴールデンタイムに冠番組を持ち、その中でコントを演じていた。その華々しい活躍を見て、下の世代の芸人は憧れを抱いたのだ。

第三世代と第七世代の間の芸人の多くは、「ゴールデンの冠番組」を目標として位置づけて、そこを目指して戦ってきた。芸人にとっての成功とはそれ以外に考えられなかったのだ。

だが、実際には、その夢を成し遂げられた芸人はほとんどいなかった。時代が変わり、芸人の数が増えて競争が激化した上に、ゴールデンタイムにコント番組をやること自体ができなくなっていたからだ。

第七世代のすぐ上の世代(第六世代と言ってもいいかもしれない)の中には、夢破れて思い切った方向転換に踏み切る者も続出している。西野亮廣は絵本を描き、又吉直樹は小説を書き、中田敦彦は音楽ユニットを結成し、村本大輔はスタンダップコメディを始め、梶原雄太はYouTuberになった。

彼らは決して敗北者ではない。テレビの世界で売れっ子になり、文句なしの結果を残した者ばかりだ。それでも、かつて思い描いていた「頂点」には手が届かないことを悟り、別の方向に大きく舵を切ったのだ。いわば、彼らは「ダウンタウンになれるならなりたかった世代」である。本気で夢を追っていたからこそ、大きな挫折感を味わい、それをバネにして別の道を探すことにしたのだ。

でも、第七世代には初めからそういう感覚がない。彼らはもともとテレビに夢を持っていない。ゴールデンタイムのコント番組を見て育っていないから、そこに対する憧れがない。それよりは、単に自分たちがおもしろいと思うことをやりたい、という気持ちを大事にする。テレビもYouTubeも彼らにとっては大差なく、自分のやりたいことを実現するための手段に過ぎない。

「ナンバーワンになりたかった世代」と「初めからオンリーワンを目指す世代」。その違いは大きい。芸人としての「王道」が失われた今、誰もが「世界に一つだけの花」を目指す時代になっているのだ。


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ラリー遠田

(らりー・とおだ)1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わ..

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