「第七世代」は初めからオンリーワンを目指す。芸人の世代間ギャップとお笑いの未来(ラリー遠田)

文=ラリー遠田 編集=鈴木 梢


霜降り明星、ハナコ、四千頭身、EXIT、宮下草薙――「お笑い第七世代」という言葉で括られるようになった芸人たち。あらゆるメディアで見ない日はないくらい、それぞれが活躍をつづけている。彼らが持つのはお笑いの新しさだけでなく、明らかに上の世代の芸人たちと異なる価値観や考え方を持つ点にもあると感じている人は多いかもしれない。

では、具体的に上の世代の芸人たちと「お笑い第七世代」にはどんな違いがあるのか。お笑い評論家のラリー遠田が、それぞれの特徴と違いからお笑いの未来について考える。


フワちゃんとEXIT兼近に見る、新しい世代の価値観

昨年あたりから「お笑い第七世代」という言葉が広まり出して、メディアでも頻繁に使われるようになった。その言葉が指している若手芸人が大量に世に出てきて、テレビでも快進撃をつづけている。

そして最近は、そのトレンドが次の段階に入った気がする。第七世代の芸人を単に「勢いがある」「おもしろい」「新しい」などともてはやすだけの時代が終わり、彼らと上の世代の芸人の価値観や考え方の違いに焦点を当てた企画が増えているのだ。

第七世代とそれより上の芸人の間には明らかに深い断絶がある。それを浮き彫りにするような企画をバラエティ番組でもよく見かけるようになってきた。

たとえば、2月18日放送の『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)では「芸人お悩み相談」という企画が行われた。相談者名を隠した状態で、第七世代の芸人が中堅芸人の仕事上の悩みに答えるというものだ。中堅芸人のウジウジした悩みに対して、第七世代の芸人が正論でビシッと答える様子が痛快だった。

また、新しい世代の価値観を象徴しているのが、絶賛ブレイク中のフワちゃんとEXITの兼近大樹である。フワちゃんは、芸人としてコンビ解散を経験し、YouTuberとしての活動を経てテレビの世界に返り咲いた出戻り芸人。先輩芸人にもタメ口でなれなれしく絡んでいく芸風でお茶の間に衝撃を与えた。

兼近はりんたろー。と共に「チャラ男だけど実はいい人コンビ」として世に出てきて、爆発的な人気を博した。彼はテレビやお笑いの世界の慣習に縛られず、思ったことを自由に発言している。

たとえば、『M-1グランプリ』などのお笑いコンテストでは「古き良きもの」が奨励されているような気がして、自分はそこに寄りかかりたくはない、という趣旨のことを話していたことがある。

昨年の闇営業騒動の際には自身のツイッターで「チャラ男なのでこれで変わらない会社ならとんじゃうよーー」「会社から芸人にしっかり説明求む!」などと、事務所に対して率直なメッセージを発信していた。

最近出たテレビ番組でも「収録時間がバカみたいに長い」「ワイプ芸とか意味わかんない」「ワイプなんか別撮りでいい」「正直、今はYouTubeが一番楽しい」と、バラエティ番組の暗黙のルールに違和感を表明した。

また、2月12日深夜放送の『お願い!ランキング』(テレビ朝日系)のレギュラー企画「太田伯山」では、太田光と神田伯山に対して宮下草薙の草薙航基が「すぐに嘘をついてしまう」という悩みを相談していた。

食事を食べるロケではおいしくなくても「おいしい」と言ってしまうし、共演する女性タレントについて、先輩芸人などから「好きなんだろう?」と振られると、思わず「好きだ」と答えてしまう。第七世代の芸人がテレビのお約束になじめないことを告白しているという点で、ここで語られていることの本質は兼近の話と同じだ。


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ラリー遠田

(らりー・とおだ)1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わ..

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