最新のニュースから現代のアイドル事情を紐解く。振付師・竹中夏海氏がアイドル時事を分析する本連載。今回は「佐久間宣行Pアイドルプロデュースプロジェクト」を取り上げる。
『ゴッドタン』『あちこちオードリー』など人気番組を生み出し、2021年にテレビ東京を退社後フリーランスに転向した佐久間宣行。そんな彼が、自身が手がけた番組『青春高校3年C組』(テレビ東京)元メンバー5人からの声がけをきっかけに、新アイドルのプロデュースプロジェクトを始動した。
本稿では同プロジェクトの相談役を担う竹中氏が、アイドル業界のプロデューシング/マネジメント事情とその問題点を紐解きつつ、アイドルプロデューサー・佐久間宣行が“真っ当”である理由について綴る。
目次
「アイドルプロデューサー」が担うべき大きな責任
テレビプロデューサー・佐久間宣行がアイドルグループをプロデュースすることになった。それにあたり、オーディションを開催することを発表。しかしこのプロジェクト、これまで私が見てきたものとは明らかに異質な空気を放っている点がある。
「アイドルプロデューサー」という一見華やかな役職には、これまでもさまざまな人間が挑戦してきている。放送作家、ミュージシャン、元アイドル、タレント、芸人、YouTuber。2010年代からは名もなき「自称・アイドルプロデューサー」も急増し、「アイドル戦国時代」と呼ばれた。
常々思っていることがある。
(もちろん例外もいるが)なぜ多くの人が、そんなにもカジュアルにアイドルプロデュースに手をつけられるのだろう。人の人生を預かることと同じなのに。もしかしたら、誰かの運命を狂わせてしまうかもしれないのに。然るべきトレーニングとケアを施そうとすれば、莫大な予算が必要なのに。
毎月、毎週日本のどこかではアイドルプロジェクトが発足され、オーディションが開催されている。その運営陣はもれなく、それだけの労力と時間と予算をかける覚悟を持っているのだろうか。だとすればなぜ、心身共に疲弊し切ったアイドルたちはあとを絶たないのだろう。
22〜23歳でアイドルを始める上で“リスク”が生じてしまう現状
「佐久間宣行Pアイドルプロデュースプロジェクト」がほかと大きく異なるのは、この点だ。佐久間氏は、まずプロデュースを手がけると決めるまでおよそ半年以上も逡巡している。
このプロジェクトが立ち上がったそもそもの経緯は、佐久間氏のYouTubeチャンネル『NOBROCKドキュメント』にて配信されているとおり。自身がディレクターを務めていた『青春高校3年C組』(テレビ東京)の「アイドル部」という番組内ユニットのメンバーだった5人にプロデュースを依頼されたのだ。正直そこで断ることも、安易に引き受け名前だけ貸すようなかたちも取れたはずだが、彼は律儀に思い悩む。この時点でかなりまともだな、と思う。
私は相談役のひとりとして佐久間氏に呼ばれ、彼女たちのパフォーマンスを見ることになった。そのあとに、まだ会議とも呼べない話し合いはつづいた。
まず佐久間氏がこの“お願い”を早々に辞退しなかったのは、自分の番組内で成長を見守ってきた5人への愛情・愛着はあるからだという。だからといってやすやすと引き受けることはできない大きな理由のひとつには、彼女たちの年齢がある。アイドル界に蔓延るエイジズムかと構えるが、そうではない。現在20歳前後の5人がデビューをしてうまくいかなかった場合、20代半ばを過ぎて社会人をいちからやり直すのは大変なんじゃないかと、彼は心配しているのだ。まだ今から就活をすればそこそこの企業に採用される子もいるのでは、という意見は昨年までテレビ東京の社員だったからこその視点なのかなと思う。
確かに“芸能人未満”の所属者を多く擁する大手芸能プロダクションでは、ローティーン世代にアイドル活動を通じて芸能界のいろはを教えるケースは多い。そこでメンバーは自分の適性を知り、次の進路を考える時間がある。
そのタイミングがだいたい22〜23歳ころなのだ。つまりまわりが就活、就職をするタイミングである。その年齢からアイドルを始めるリスクを佐久間氏は憂慮している。
そもそもこの業界で働く者としての肌感覚で言うと、「アイドルを卒業したその後」までを考えている運営陣、マネジメントは本当に少ない。この点について、動画内で私は佐久間氏のことを「優しい」と表現したが、厳密には「真っ当」なのだろう。悲しいかなそれだけ道理の通らない人間を見てきたからこそ出る感想だ。
「いつかアイドルじゃなくなったときに」
その上で、だ。
20歳からアイドルに挑戦し、数年後にセカンドキャリアに悩むのと、志半ばでもアイドルになりたい気持ちは封じ、どこかの企業に勤めることはどちらが不幸なのだろう。
いちアイドルファンとしては推しが卒業後、「どこかで幸せに暮らしてくれていたらそれ以上のことは何も望まない」と思う。一方で教え子たちを支える立場としては、幸せを望むその先の具体案を考えなければならないと常々感じている。その取り組みのひとつに『アイドル保健体育』の出版や「アイドル専用ジム」の立ち上げなどがあるのだが、もっとシンプルな心がけもある。
それは「いつかアイドルじゃなくなったときに、この経験が彼女・彼らの糧に少しでもなるように」と思いながら日々接することだ。
たとえばライブはステージに立てばできるのではない。照明・音響技師の方が、ライブハウスやホールのスタッフさんが、支えてくれて初めて成立する。だからこそリハの前後ではまず自分たちから挨拶をしなくてはいけない。
そういう細かいこと一つひとつを、小うるさいと思われたとしても伝えつづける。少しでも想像力を培ってほしいからだ。MCだって、こちらで用意した台本を丸暗記してもらったほうが楽な場合もある。でもそれではいつまでも伝える力がつかないので、セットリストの意図だけを伝えて、あとはメンバーを信じ任せる。そうすれば最初は拙くても、必ず自分の言葉を持つようになる。
地味に思えてもこの意識がまわりのスタッフにあるかどうかは、彼女・彼らの将来を大きく左右するのではないだろうか。それだけアイドルの活動年代と人間性を磨き高める時期は重なっていると思う。
アイドルとして得られるスキルは、歌やダンスだけではない
今は違う業界で働く元教え子たちが口をそろえて言う。
「アイドル本気で何年かつづければ、何にだってなれるよ」
「あんなに大変なことを乗り越えてきたんだから、たぶん私がいま同僚の中で一番根性あると思う」
まわりの大人の気構え次第で、アイドル活動の中で得られるスキルは歌やダンスだけじゃなくなるのだと信じたい。
とはいえ、まずはどうしたらグループとして成功するかを考えねばならないので、そこは佐久間Pの手腕をいち視聴者として楽しみにしている。5人に再度自分の人生を考えてもらうという意味でも、全員が候補者に回帰するオーディションはどういう結果になるのだろう。
ここまで書き連ねてきたとおり、日本のアイドル業界はまだまだ不当で理不尽な扱いを受ける可能性が高い世界だと思う。「運営ガチャ」があるとしたら、あまりにも当たりの少な過ぎるくじ引きではないか。
そのため私は現在アイドルとして活動する子をケアしたり、セカンドキャリアを応援することはあっても、新規参入は手放しで歓迎できないでいる。
それでもきっと、この世界に夢を持つ若者はあとを絶たないだろう。ならばこんな真っ当な感覚を持ったプロデューサーが開催するオーディションがあるよ、とこっそり耳打ちしたいのだ。
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