34歳・男性ミュージシャンが、ひとりぼっちで免許合宿に参加してみて感じたこと(トリプルファイヤー吉田靖直)

2021.11.10

文=吉田靖直 編集=森田真規


バンド「トリプルファイヤー」で作詞とボーカルを務め、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)やテレビドラマへの出演、エッセイ『ここに来るまで忘れてた。』(交通新聞社)の執筆など、音楽活動に留まらず幅広い分野で活躍中の吉田靖直。

2021年10月、彼はAT限定免許を取得するために山形での免許合宿に参加していた。知り合いゼロの環境でスタートする2週間にも及ぶ合宿の最終日での目標は、「吉田さん、吉田さん」と年下の若者たちから慕われていることだというが……。

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公立中学校のゴッタ煮感を求めて免許合宿へ

数年前から、学生時代の試験で落第しそうになり焦っている夢を見ることがある。目覚めて少しホッとしたあとで、現在の自分の年齢を思い出して絶望する。そうだ、私に学生時代はもう二度とやってこないんだった。

しかし年を取っていたとしても、学校っぽい環境を追体験することはできる。それが私にとっての免許合宿だった。

免許合宿には、「免許を取る」という目的が一致しただけの雑多なタイプの人たちが集まる。ヤンキーっぽい人や暗い人、K-POPが好きな人もいれば、史跡巡りが好きな人もいるだろう。そのゴッタ煮感はたぶん、公立中学校のそれに似ているのではないか。

大人になってから仕事で出会う人たちとは、それなりに似た価値観を共有できる場合が多い。たとえば子供にキラキラネームをつける人やラテアートの写真をインスタに上げる人は、自分のまわりにはいないと思う。それはそれでコミュニケーションが楽だが、少々物足りなくもある。

自分とまったくタイプの違う人たちと積極的に出会おうともしていないのに同じ場所に集められる、今から思えば学校の魅力はそこにあった。だから、免許を取るなら通いではなく合宿で取りたいと思っていた。ただ心配だったのは、免許合宿に参加するにしては私が少し年を取り過ぎていることだ。

吉田靖直、34歳。職業、ミュージシャン

目標は、合宿最終日に年下の若者たちに慕われていること

免許合宿に行くのはたいていは暇な学生やフリーターで、一般的に働き盛りとされている34歳の男が参加することは少ないだろう。価値観がどうこう以前に「あの人、働いていないのかな」と若者たちから距離を取られ、孤立してしまう可能性はじゅうぶん考えられる。

つい先日、群馬で免許合宿を経験した先輩ミュージシャンのimaiさんによると、よほど社交的な人でない限り、ひとりで免許合宿に参加するのはかなりキツいものがあるらしい。imaiさんはご友人(※お笑いトリオ「グランジ」五明拓弥氏)と一緒に参加したのでなんとか合宿を乗り越えられたと言っていた。

あまり社交的なタイプとは言えない私は、一緒に行ってくれる友人を探した。しかし、私と同年代で免許を持っておらず、その上、2週間も合宿に行ける大人はまわりに見つからなかった。このままではいつまで経っても合宿に行けないと思った私は、どうせならリスクの高い状況のほうが予期せぬ出来事も生まれやすいだろう、と覚悟を決め、山形で行われる免許合宿に単身で乗り込むことにしたのである。

最近一緒にYouTubeを始めた友人の佐藤さんにそのことを伝えると、それは何かが起こりそうだ、と合宿最終日に山形まで動画を撮りに来てくれることになった。最終日の私はどういう状況になっているだろう。経験から考えれば、誰とも会話をせず、ひとりで鬱々としている可能性が最も高い。教習所の愚痴でも言っていればそれなりに動画として成り立つかもしれないが、それでは今までと何も変わらない。

YouTubeチャンネル『ブチ抜く吉田』で初回にアップされた「トリプルファイヤー吉田の断捨離とDIY 前編」

せっかく珍しい環境に身を置くのだから、今までと違うことをしたかった。相談した結果、合宿最終日に私のことを心配してやってきた佐藤さんの前に、私が年下の若者たちを何人も引き連れて登場し、「吉田さん、吉田さん」と慕われて調子に乗っていたらおもしろいね、という話になった。それを実現するには幾多の困難が想像されたが、とりあえず一応の目標はできた。

山形の教習所は近くにコンビニやイオンモール、大きなスーパーなどもあって、想像と違いそれなりに開けた場所だった。

吉田氏が通った山形の教習所

1日目、昼ころに教習所に着き、細かいルールの説明などがあったあと、そのまま教室で授業や適正診断を受ける。学校は18時に終わった。けっこう疲れた。予想外だったのは、私と同年代、もしくはかなり年上に見える教習生も何人かいたことだ。もっとも、彼らは仕事の都合でトラックやバスの免許を取りに来た人たちで、私のようにAT普通車の免許を取ろうとしている人は誰もいなかった。

帰りのバスに乗り込むと、たまたま隣に座った中年女性が話しかけてきた。今日来たことを伝えると、「心配しなくても絶対友達できるから! 喫煙所でタバコ吸ってればみんな仲よくなれるよ」と言ってくれた。私はその言葉に安心するというより、「やっぱ免許合宿って友達できないとツラい感じなんだ」と再認識させられ不安になった。

久しぶりに思い出した“クラス替え直後の疎外感”


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