規律を重視し過ぎる日本人。その高い意識が不快になってきた(中川淳一郎)

2021.5.28


「息子は自慰をしなくては死んでしまうのだ!」

私の通った高校はドアのついた個室便器であれば違法薬物を使う恐れがあるということで、腰の高さぐらいまでの壁が便器と便器の間に設置されているだけだった。だから、そこにしゃがんでいる生徒が何をやっているかは見ることができるのだ。

そんななか、彼の自慰行為は見つかってしまい、生徒は教師に通報。彼は停学処分を食らったのだが、親が激怒。「ウチの息子は自慰をしなくては死んでしまうのだ!」と言い張り、以後、彼の校内自慰は黙認されるようになった。ほかの生徒たちは彼をバカにする面もあったが、「あいつはそういうヤツだから仕方がない」といった扱いをしていた。

こうした比較的自由な校則で育っただけに、私は現在の規律まみれの日本の状況がどうにもなじめない。もっと柔軟でいいのではないか、と思うのである。昨年来コロナの感染者が多い国ではマスクが義務化されたが、今は多くの国、そしてアメリカの共和党系の多くの州ではマスクは外しても構わないことになった。

「自分の裁量かつ常識の範囲」が通じるアメリカ

日本の場合、義務化でもないのに、「マスク警察」の存在をはじめとした相互監視により、体感値として東京では屋外で99.5%の装着率を5月下旬現在達成している。見事なまでの規律徹底である。

この手の規律はファストフード店での注文にもよく表れる。マクドナルドで「塩を少しください」と言うと店長風の人に相談し「無理です」と言われる。「ポテト(S)の袋でもなんでもいいから入れてよ~」なんて言いたくなる。もちろん入れてくれる店舗もあるわけで、ここは店長ごとに柔軟な対応をしているのだろう。

アメリカのマクドナルドの場合は塩やケチャップはカウンターに置いてあり、それを自由に取れる。サンドイッチのサブウェイでは「ハラペーニョをたくさん入れてくれ」と入れるとニヤリとして「マジで辛くしてやったぜ」ととんでもない量のハラペーニョ(メキシコの唐辛子)を入れてくれる。

日本のサブウェイの場合は「1.5倍」と「2倍」があるが、それは「たくさん」という言葉では判断できないため明確な基準が必要なのだろう。当然アメリカのサブウェイにも「2倍プロテイン」と題して肉が2倍になったりはするが、これは追加料金が必要だ。「a lot of Jalapeno」と伝えた場合、自分の裁量かつ常識の範囲で客を喜ばせようということがファストフード店の店員にも染みついているのだな、とアメリカに行くたびに感じてしまうのだ。

さて、コロナをめぐり改めて露わになった高い日本の規律意識。最近とみに不快になってきた。


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