旭川いじめ「主犯格」少女の言葉にある3つの既視感。ネットの荒んだ光景と無関係だろうか?
2021年3月、中学生が遺体で発見され、イジメがあったことを遺族が訴えている「旭川女子中学生いじめ凍死事件」。事実関係は今も調査がつづいている。ここでは、性犯罪などに詳しいライターの小川たまかが、主犯格とされる人物のインタビューから読み取れる“ネット上で見かける空気”との共通点を考える。今回の事件には“ネットの空気”が少なからず影響しているのではないだろうか?
目次
逮捕された迷惑ユーチューバーなど、素性を暴こうとする動きも
文春オンラインが4月から報道している旭川の事件が世間を賑わしている。
自慰行為の強要・撮影など、性的加害を含むイジメに遭った女子中学生が1年以上にわたってPTSDなどの症状に苦しんだあとに失踪。今年3月に凍死した状態で見つかった事件だ。イジメを行っていたとされる複数の生徒や、当時在籍していた中学校の校長、教頭や担任教師の対応に批判が集まっている。
今回、このテーマで書くことについて編集部から了承を得たものの数日間迷った。というのも、文春オンラインが最新の4月30日時点で報じたのは、この件について現地で突撃取材を行った「迷惑ユーチューバー」による被害が続出し、1名が逮捕された事実だったからだ。
文春がこの事件を報じたインパクトは大きく、だからこそ旭川市教育委員会が再調査を行うほどの動きとなったものの、一方でネット民たちの暴走は止まらない。事件とは無関係の未成年の名前や顔までもがネット上で「犯人」と名指しされ、関係があると決めつけられた人の元に電凸が相次いでいるという。
4月30日の記事では、亡くなった女子中学生の親族による「ネットリンチもまた、形を変えたイジメであり、我々は望んでいません」というコメントも掲載されている。
主犯格とされる人物のインタビューから読み取れること
イジメの加害者とされる未成年への憎悪感情が高まり、私刑やむなしかのような空気が醸成されれば、周囲の大人たちは彼らをさらに守る方向で動かざるを得ない。世論にできることは適切な批判によって教育委員会あるいは文科省を動かすまでであって、加害生徒の素性を暴き突撃することはあってはならないはずだ。
取り上げたいと思うのは、保護者同席の元で文春の取材に答えた加害側の少女・A子の言葉だが、彼女だけを批判の対象にしたいわけではなく、彼女の言葉とネット上で見かける空気に共通するものがあることをまず強調したい。
文春の記事によれば、A子がイジメの主犯格だったという証言があったようだが、本人はこれを否定した。そしてインタビューに次のように答えている。
ーーこれらの行為をイジメだと思いませんか?
「うーん……別にどっちでもないんじゃないです? 本人最初嫌がっていたとしても、どっちにせよ最終的には(自慰行為を)やってるんだから」
(略)
ーー爽彩さんに向かって「死ぬ気もないのに死にたいとか言うなよ」と言っていたという証言があります。
「それは言いました。周りに小学生いるのに死にたい死にたいとか、死ぬ死ぬとか言ってて、どうせ死なないのに次の日またあそこの公園に現れてたから。小学生にはそういうのはダメでしょ?と思って言ったんです」
「正直何も思ってなかった」自慰行為強要、わいせつ画像拡散のイジメ加害生徒らを直撃【旭川14歳女子凍死】
順番に見ていきたい。
ネット上でもよく見かけるニュアンス
まず(1)「別にどっちでもないんじゃないです?」について。
A子は文春記者から「爽彩さんが亡くなったと知ってどう思いましたか?」と聞かれ「うーん、いや、正直何も思ってなかった」とも答えている。
終始、まじめにインタビューに挑んだとは到底思えない回答であるため一言一言に突っ込んでもしょうがないのかもしれないが、「別にどっちでもないんじゃないです?」という、この言葉はとても気になった。
「イジメだと思いませんか?」という質問への答えは「イジメだったと思う」「思わない」のふたつしかない。イジメかどうかを聞かれて「どっちでもない」状態とは一体なんなのか。「どっち」とは何と何を指しているのか。
なぜこれが気になるかといえば、この「別にどっちでもない」というニュアンスはネット上でもよく見かけるからだ。「別にどっちがいいとか悪いとかではないでしょ」「どっちの味方をするわけではないけど」など。曖昧に答えるほうがスタンスを明確にするよりも有利に振る舞えることがネット上での「論戦」ではある。
また、この「どっちでもない」が前置きとして使われる場合、本心は「どっちでもない」わけではないことが多々ある。A子の場合、その後に言っていることから考えれば「イジメはなかった」と言いたいわけである。どっちでもない、わけではない。
「どっちの味方をするわけではないけど」など、一見中立のふりをしながら片方に寄っているというのは、ネット上でもよく見かけるやり方だ。
「最終的にはやってるんだから」という加害側のロジックに嫌悪感を持つならば
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