2019紅白で起きた奇跡 2丁目から大御所ババアが消えた日(ブルボンヌ)
2019年の『NHK紅白歌合戦』は、第2部が1989年以降で最低の視聴率だったことが報じられた。しかしSNSなどでは、氷川きよしのパフォーマンスやレインボーフラッグの登場により、例年以上に話題を呼んでいた。それらを、当事者たちはどう見ていたのか?
新宿2丁目などでMIXバーをプロデュースする、女装パフォーマーでライターのブルボンヌが、紅白における「桃組」の歴史と、2019年の大晦日を振り返る。
星野源がいち早く言及した「男でも女でもない」
もう1月も終わろうってのに、紅白歌合戦のネタですよ。だってアタシ女装のおじさんだからね。令和初の紅白で起きたミラクルだけは、どうしても書いておかなきゃいけないの。
ミラクルといっても、水森かおりさんが演歌を歌いながら楽しそうに人体を切断してた衝撃映像のことじゃないのよ。紅組トリを務めた歌姫MISIAさんが、大晦日の日本にレインボーフラッグをぶっこんでくれた快挙ですよ。「紅=女」「白=男」と、男女をくっきり分けて戦わせるテイの紅白が、70年目にして「紅でも白でもどっちでもいいじゃん!」ってなメッセージにあふれてたんですから。
この紅白放送の少し前、『女性自身』さんから「紅白 男女対抗やめるべき4割」と題された記事が配信されました。「ジェンダーフリーの時代、男女対抗チームなんて」「男女混合のグループもあるし、性別を分けられたくないアーティストもいる」などと、今の時代らしいコメントが多く寄せられた様子。
その記事でも言及されていましたが、実は1年前の紅白内企画コーナーでは、女装風味のおげんさんこと星野源さんが「おげんさんは男でも女でもない。紅白もこれから、紅組も白組も性別関係なく、混合チームで行けばいいと思う」と言っちゃってるんですよね。本家の放送中に紅白チーム分けに異議申し立てをしちゃう源ちゃんスゴイ! ちなみに彼は2017年に『Family Song』を披露した『ミュージックステーション』内でも、「両親が同性同士の家族だったりも、これからどんどん増えてくると思う」と新時代なコメント。さらに先日公開された最新MV『Ain’t Nobody Know』でも女性同士、男性同士のカップルを登場させてくれて、もう惚れ惚れしっ放しです。
実はラジオ局でご本人を見かけた際に、「LGBTへのステキなメッセージ、最高ですぅ!」と直接お声をかけたこともあるのですが、突然近寄ってブツブツ話しかける不審な中年女装に、ちょっと源ちゃんヒイてましたね。あ~ん。
「紅・白・桃」色分けの歴史
そもそも、紅白における「男女とは」問題は、10年以上前から見え隠れしていました。2005年に、ガレッジセールのゴリさん扮する女装キャラ「ゴリエ」は、ソロ歌手としてなんと紅組から出場しているのです。多分、このころは今のようなジェンダー意識はなく、純粋に遊び心で、芸人さんの女装キャラを紅組で出せば盛り上がるだろ、くらいの仕分けだったと思われます。
その翌年、2006年にはメディアでの「オネエ」ブームのきっかけと言われるバラエティ番組『おネエ☆MANS!』の放送が始まり、紅白にも2007年、2008年とIKKOさんやはるな愛ちゃんらオネエ界のレジェンドたちが立て続けに登場。2009年には美川憲一先生の『さそり座の女』応援隊として「桃組」が結成され、2014年にはクリス松村さんやKABA.ちゃんも出演して「桃組によるプロデュース企画」を行いました。つまり紅白自体も、時流から「中間色」の存在を認め採用したわけ。ただ、このあたりはすべてオネエキャラのイメージ同様、笑いと茶目っ気としての桃色アピールでした。
ところが同時期に、茶化すものではない目線としての「性的少数者」像もクローズアップされていきます。オネエチームの出演が始まったのと同じ2007年に、トランスジェンダーのシンガーソングライター中村中(なかむら・あたる)さんが、戸籍に記載された性が男性であるままに、紅白史上初めてソロで紅組として出場したのです。彼女が登場した際は、紹介VTRに加え、お母様からの手紙も読み上げられる丁寧な演出で、楽しいだけではない性の少数者の一面を伝えられた貴重な瞬間でした。
後日談ですが、このときの番組進行はかなり押していて、現場スタッフから中村さんの紹介部分をカットする指示があったそうです。が、当時の司会の中居正広さんがそれを拒否し、中村さんの紹介を押し通してくれたとのこと(後日、茂木健一郎さんがブログで証言)。そのメッセージが社会にとってどれだけ重要なものかを、誰よりもわかっていたのであろう中居くんのセンスに、また惚れ惚れしちゃう……!