「見る目がありませんでした」と詫びなければならない
この本の別な楽しみ方は、ドラフト当時の「編集部によるドラフト採点」と「振り返り採点」のギャップにある。良くも悪くも点数に大きなズレが生じているのだ。
それは、『野球太郎』編集部の「見立ての甘さ」とするのはあまりにも酷。むしろ、それほど選手(人)の能力の見極めは難しい、という証左でもある。そして、その意外性こそプロ野球の魅力のひとつでもあるはずだ。
それでも、当時と今とであまりに点差が開いてしまった場合、『野球太郎』編集部はその見立ての甘さについて潔く謝る。「謝ったら負け」とばかりに証拠となる文書改ざんまでする輩がいる時代において、この謝罪力はむしろ清々しい。
顕著なのが昨季、育成出身で初の盗塁王を獲得した周東佑京を筆頭に、育成枠から5人の支配下選手が生まれた2017年のソフトバンク・ドラフトだ。《ドラフト直後に誌面で55点という低い採点をつけた件については、編集部を代表して「見る目がありませんでした」と詫びなければならない》と率直過ぎる詫び文を入れ、振り返り採点で「95点」の高評価をつけている。
また、直近のドラフトでも、2019年の楽天はドラフト当時が65点。だが、新人王を争った小深田大翔を筆頭に、早くも1軍で活躍する選手が続々と出ている現状を踏まえ、《まだ1年が経過しただけで今後の推移を注意深く見守らなければならないものの、すでに採点担当一同、謝る準備はできている》と謝罪に前のめり。楽天ファンならずとも2019年ドラフト組のさらなる奮起を期待したくなってしまう。
もちろん、予想外・想定以上に躍進した選手がいる一方で、期待どおりの活躍ができずユニフォームを脱いだ選手たちも。開幕前のこの時期だからこそ、本書を読むことで、選手たちにより一層、温かい眼差しを送りたくなるはずだ。
「パ・リーグはなぜ強いのか」検証のヒントにも
昨今、野球ファンの間で盛んに議論が交わされたテーマといえば、「パ・リーグはなぜ強いのか(セはなぜ勝てないのか)」。この件では、球場の広さ、DH制度の有無などがよく槍玉に上がるわけだが、いやいやちょっと待ってほしい。結局、プレーをするのは「人」なのだから、そこにあるのは「人材の差」であり「育成力の差」であるはずだ。
この点の検証材料としても本書は大いに参考にすべき点が多い。『野球太郎』編集部が何度も予想を外すように、想定以上の「選手の成長」がチームの躍進につながっていく。
上述した2017年のソフトバンク以上に、「当時の評価」と「今の評価」にギャッップがあるのが2010年のソフトバンク。柳田悠岐という球界の顔を生み、育成指名で千賀滉大、甲斐拓也の黄金バッテリーと牧原大成というレギュラー候補を生んだ、伝説のドラフトだ。
当時の採点はなんと50点。そこから一転、振り返り評価では99点。《「育成のホークス」の源流となったドラフト》という見立てはまさにそのとおりだ。
もちろん、ソフトバンクだってうまくいかなかった年はある。それでも、失敗を恐れずにチームにとって欠けているピースを探そうという姿勢、その選手をどう育てていくかという長期プランがあるからこそ、成功確率は上がっていくのだろう。
ソフトバンクに限らず、パ・リーグ勢はこの「大当たりドラフト」の回数が総じて多い。90点以上の採点を獲得した「大成功ドラフト」の上位3チームは、西武の9回、ソフトバンクの8回、日本ハムの6回。85点以上の「中成功ドラフト」でも、上位3チームは同じ顔ぶれだ(西武11回、ソフトバンクと日本ハムが9回ずつ)。1位重複指名抽選の運・不運も絡んではいるだろうが、「セとパの格差」の要因のひとつではあるはずだ。
そしてここから、今後の伸びしろが期待できそうなチームも見えてくる。2015年以降で2度も「チーム・オブ・ザ・イヤー」を獲得しているオリックスだ。以前は「社会人の即戦力指名」が定石だったが、ここ最近は素材型の高校生を求める傾向が強まっている。
これは筆者の見立てだが、大まかな傾向として「大当たりドラフト」の5年後くらいからチーム成績が上がってくる印象を受ける。上述したソフトバンクも、広島もそうだった。
オリックスといえば、12球団で最も優勝から遠ざかっているチームではあるが、そろそろ台風の目になる日がやってくるのか!? 解説者やスポーツ新聞の順位予想では、オリックスはBクラス、なんなら最下位予想とする向きがすでに目立つが、解説者諸氏も『野球太郎』を見倣って、謝る準備をしておいたほうがいいのかもしれない。
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