自虐・謙遜スピーチが通じるのは日本だけ
あと、かつて父親がアメリカで駐在員として働いていた関係で中高時代はアメリカにいたことがある。そんな時、新任の駐在員の歓迎会があった。主役は日本人のその新人駐在員だが、当然アメリカ人の役員やその家族も来ていた。日本人のほうが多かったため、日本語でスピーチしていたのだが、こんな展開になった。1990年代前半の話だ。
駐在員:ようやく私も「新宿プリズン」(同社本社のこと)から抜け出し、ゴールドラッシュを目指して夢の国・アメリカにやってきました。
参加者:パチパチパチパチ!
駐在員:さて、今回は私の家族も連れてきました。私の愚妻・ヨシエは、英文学科を出ているというのにまったく英語を話せず、皆様に多大なるご迷惑をおかけすることになるかと思います。彼女は映画を字幕なしで観たいと言っていますが、いったい何年かかるやら。4年間も英語を勉強してきてこのレベルですから、私の任期中にそうなるのやら……。
参加者:ドッ!
この時、50代のアメリカ人女性が「なんでみんな笑ってるの? 彼はなんてスピーチしたの?」と私に聞いてきた。私はこう訳した。日本語で書いても問題発言の連続ではあるが、英語の直接的な表現にするとその問題がより鮮明になるので、英語にしてみる。
My dumb wife, Yoshie speaks no English even though she used to major in English literature as a college student. She might make you annoyed due to that inability. She said she wants to watch movies without subtitles. Well, I’m skeptical about it because she couldn’t acquire that skill in 4 college years! I am worried if she can manage to speak within my term in the U.S.A.
これに対して彼女は「dumbなんて失礼ね」に始まり「何がおもしろいのかわからない。『しゃべれない』って言うけど、さっき私は彼女と挨拶したわ。彼女は英語しゃべれるじゃない」と言われた。
この駐在員は「身内をホメない」、「謙遜する」、「妻をバカ扱いする(本当は愛してるけど)」、「自分の“任期”という駐在員にとっての最大級の関心事について言及する」ということで、「ドッ!」を取りにいった。
だが、彼女は、この駐在員は公衆の面前で妻を侮辱した、と捉えたのだ。アメリカ人にとっては自虐・謙遜文化というものは到底理解できないもの。その後も日本の大学で台湾人留学生から「今のは何がおもしろかったの?」と聞かれたので解説しても「わからない」と言われるという同様の出来事があった。
失言と「愛想笑い」のセットはもうやめよう
これまで数々の政治家の失言が取り沙汰され、撤回や謝罪、辞任に追い込まれる例を見てきたが、いずれも「その場の力関係」「その場の空気を共有する者だけがわかるデリカシーの一切ないジョークめいたもの」が問題視される。
そして、不思議なことなのだが、これらの失言には「ドッ!」がセットになってくるのだ。この悪習を日本人はさっさとやめなくてはならない。そのためには、「他人からどう見られるか」など気にせず、素直に我が道を行く姿勢が重要である。
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