『ゴッドファーザーPARTII』の「私たち」
こういう「私たち」には、個人的に見覚えがあった。それはちょうど20年前、まだワールドトレードセンターが建っていたころ、ニューヨーク旅行中に、エリス島で目にした「私たち」だ。
エリス島は長らくヨーロッパからの移民を受け付ける移民局が置かれていた小さな島だ。『ゴッドファーザーPARTII』の冒頭は、イタリアから渡ってきた子供のヴィトー(のちのドン・コルレオーネ)が入国審査を受けるシーンだが、あのシーンの舞台となっているのがエリス島の移民局だ。
移民局の建物は現在は移民博物館になっている。この博物館に入ってすぐのところに大きな世界地図があったと記憶している。そこには、どの地域からどれぐらいの移民がやってきたかが矢印つきで書かれていた。そしてその世界地図のタイトルが「私たちはどこから来たのか」だった。
英語の言い回しがどうだったかは覚えていない。もしかしたら、ゴーギャンよろしく「Where do we come from?」だったかもしれない。いずれにせよそこには主語に「We=私たち」が使われていた。それを見た瞬間、「移民の国、アメリカ」というお決まりのフレーズを直感的に理解することができた。
どこからやってきても、それは皆、「私たち」であるという姿勢。(建前ではあるが)そこに境界線を引かない姿勢。それがアメリカという国なのだ、と。そしてこの「私たち」は、そのまま民主主義の担い手としての「私たち」でもある。大統領就任式で多用された「私たち」とは、そういう境界線の向こう側を目指す「私たち」なのだ。
翻ってギレン・ザビの「我々」は、境界線をあえて越えようとしない「私たち」だ。むしろ積極的に境界線のこちら側を目的地にして、向こう側との距離の開きを強調する。同じ「私たち」でもその目的地の設定によって、意味合いは正反対になってしまうのだ。
『宇宙戦艦ヤマト』古代進の「我々」
『宇宙戦艦ヤマト』第24話「死闘!!神よガミラスのために泣け!!」には、境界線の向こう側を目的地にした「私たち=我々」が出てくる。この話数に出てくるのは正確に言えば長ゼリフであって、演説ではないのだが、視聴者に語りかけるようなこの長ゼリフは、実質的に演説と言ってもいいだろう。
地球を救う使命を帯びた宇宙戦艦ヤマトは、目的地に到達する直前、地球を侵略してきたガミラス帝国の本星に捕らわれる。ヤマトはガミラスとの決戦に臨み、辛くも勝利をするが、戦いが終わってそこに広がるのは破壊し尽くされた惑星の風景だった。主人公の古代進はそれを見て衝撃を受ける。
「勝つ者もいれば、負ける者もいるんだ。負けた者はどうなる。負けた者は幸せになる権利はないというのか。今日まで俺はそれを考えたことはなかった。俺は悲しい。それが悔しい。ガミラスの人も、地球の人も、幸せに生きたいという気持ちに変わりはない。なのに、我々は戦ってしまった。我々がしなければならなかったのは、戦うことじゃない。愛し合うことだった。勝利か、くそでもくらえ!」
勝利の虚しさを突きつけられたその衝撃が、敵味方の境界線を越え、古代の「我々」は地球・ガミラス双方のことを指すようになる。それは、ガミラス侵略の被害者であった古代の視線が、戦いの虚しさを経由して、「同じ戦争の被害者」としてガミラスを再発見したということでもある。
『戦艦大和ノ最期』(吉田満)には「敗れて目覚める」という言葉が出てくる。虚しい戦争に何か意味を求めるとするなら、 自分たちが死ぬことが、日本が「敗れて目覚める」契機になることを期待するしかないという文脈で使われていた言葉で、兵士たちの諦念の果ての希望を象徴する言葉だ。古代は戦いでは勝者だが、やはり戦いの虚しさそのものを経験し「目覚める」。そのときに、境界線を越えた「我々」が出現したのだ。
惜しむらくは『ヤマト』の中で、このように境界線を越えた「我々」が出てくるのはここぐらいなのだが、それだけにこのシーンの印象は鮮烈ではある。
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