「オクトーバー・サプライズ」はこれから?
H 10月5日、トランプは「今晩6時30分に退院し、ワシントンに戻る。気分は非常にいい! コロナを恐れるな。あなたの命をコロナに支配させるな。我々はトランプ体制のもとで、いくつかの実に素晴らしい製薬と知識を開発した。私は20年前より気分がいい」とツイートする。
そして、その日の午前中に、病院の周囲をSUVを連ねて、車中から沿道のファンに手を振るという寸劇を演っていた。これは、いかにもトランプらしい演出だが、あらかじめツイッターでファンを集めておいてから演ったパフォーマンスにしてはおそまつだった。
T 映画批評的に見ると、たしかにディティールが甘かった。たとえば、SUVに同乗せざるを得ないシークレットサービスの感染の危険についての配慮の演出はまったくなかった。本当は、このシーンはもっと深刻なはずでしょう。彼らはトランプのマスクよりも見るからに高度の防菌マスクをしてはいたが、陽性の患者と密室に同席させることに対する意識がトランプにないために、その表現が省略されてしまった。また、こういう寸劇は老トランプが無理をしているという印象しか与えない。
S 『BBC News』によると、SUVの中から手を振った「トランプ」は、身代わり(ボディ・ダブル)だという噂があるというんだが、そうだとしたら、SPへの感染には気を配ったことになるな。
T “トランプ劇場”の寸劇と見ても、ディティールがダメという点では、主治医ショーン・コンリーの不十分な発表でトランプに処方されたとみられる薬剤は、専門家の判断では、薬品名から判断して、彼の「元気さ」とは裏腹の症状の際に投与されるべきものだという。今後の経過次第だろうけど、Covid-19の発症までには5日から7日ぐらいかかると言われているのに、我々が知らされている情報では、いつ罹ったのかもわからない。これって、おかし過ぎません?
H おかしいというのなら、一番は彼のツイートじゃないかな。トランプは病院からツイートしたことになっているが、彼のサイトでチェックすると、時間がずれているんだ。更新すれば変わるのが当たり前だが、最初の発信時間がわからないようにするための更新なんだね。そもそも、トランプが入院した部屋は、大統領専用の特別室で、なんでもできそうだが、感染に「本当らしさ」を盛り込みたければ、ツイートなんかやらないほうが説得力があっただろう。
S トランプがホワイトハウスに戻ったあと、彼のツイッターアカウントにアクセスしてみたら、確かにとんでもない回数のツイートをしている。10月15日に予定されているバイデンとの第2回「ディベート」にも出ると宣言している。そもそもトランプに限らず、彼のツイートがプロ集団による「代作」であることは公然の秘密だとしても、感染し、治療中の患者がこんなペースでツイートするという設定は、「作劇」上マズイのではないか? 感染をホントらしくしたいのなら、大人しくしていたほうがいいだろう。
H 見方によっては、最初は「これだ!」とばかりに「感染」劇場を打ち上げてみたが、その反応がいまいちなので急にやめたくなったのかもしれない。トランプは、大統領役に飽きたのではないかという説もある。ツイートの問題は、確かに、カギかもしれない。彼は、病院内からは2度のツイートしかしていない。
代理ツイートはリモートでもできるが、病院内から外への彼の連絡の機密は保証できない。軍の施設だから、バケバケの可能性がある。軍は、この間トランプに対して反発を抱いている。最初は「自己隔離」の標準である2週間、そこにいてリモートで自在な情報コントロールをしようと思ったが、それがままならぬことに気づいて、3日で引き上げたという解釈もできる。
T でも、トンデモ仮定かもしれないけど、トランプは実験中のワクチンで抗体を作っていて、そのうち、「ほら、すごいだろう!」って驚かせる魂胆かもしれない。そうなれば、ホントの「オクトーバー・サプライズ」だな。
まだまだ議論はつづくが、紙幅の関係でここで切る。トランプのこうした「末期症状」に、彼の落選を予測する向きもあるかもしれないが、なかなかそうならないところがアメリカの現実だ。トランプに愛想をつかしても、野党にはくだりたくない共和党としては、トランプかその代理を当選させなければならない。
まあ、来年は、誰が大統領になっても大変であることは間違いないから、トランプを大統領にして、また「弾劾裁判」でもやるというほうが民主党にとっては得かもしれない。大詰めの2週間が楽しみである。
粉川哲夫の「クイックジャーナル」は毎月上旬ころ、月1回の更新予定です。
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