外国人のケースだけを切り取る情報操作
まず、「名古屋地裁が強制わいせつをした外国人移民を『電車内で性行為をしない日本のルールを知らなかった』と無罪判決」と書かれているのは、2017年9月5日の名古屋地裁判決のことと思われる。これは当時、比較的報道が多く、判決に疑問を呈す記事もあった。
電車内で声をかけた女性に無理やりキスをしたり自分の下半身を触らせたりしたとして、ブラジル国籍の44歳男性が強制わいせつ罪に問われたが、「自分に好意を抱いていると誤信した可能性があり、女性の意思に反していたとまでは言えない」などとして無罪判決が出た。
中日新聞の同年9月6日付朝刊では、「特に被告は外国人であり、拒絶の態度を理解できず、女性がただはにかんでいると受け止めた。(被告に)好意があると受け止めた可能性は否定できない」と裁判所が判断したと書かれている。
被害者側に立てば、到底許すことができない判断だと思う。ただし、外国人だったから無罪判決が出たかのように誘導するのは間違いだ。
たとえば2016年3月には、ネットを通じて知り合った女性ふたりに対する強制わいせつに問われた被告に、「女性の同意があったと被告が誤解した疑いがある」として東京地裁で無罪判決が言い渡されている。ちなみにこの判決は、上記の名古屋地裁判決と同じ女性裁判長によるもの。
性犯罪の立証について、暴行脅迫や故意の認定が難しい場合があることは、ここ数年で周知されつつある。被告が被害者の同意があると思い込んでいたからという理由で無罪となった判決はほかにもある。
有名なのは2014年の福岡高裁宮崎支部判決。ゴルフ教室を経営する50代男性が当時10代の教え子を強姦したとされる事件だったが、一審で無罪に。高裁判決では被害者が抵抗できない状態だったことを認めたものの、男性が「弱者の心理を理解する共感性に乏しく、無神経の部類に入る」ため、被害者の拒否に気づかず、故意がなかったとして無罪となった。
フラワーデモのきっかけとなった2019年3月に相次いだ4件の無罪判決のうち、3月12日の福岡地裁久留米支部判決でも、「女性が抗拒不能の状況にあったとは認められるが、男性がそのことを認識していたとは認めることができない」という理由で無罪判決が下されている(高裁で逆転有罪)。
つまり、被告が外国人か日本人かに関係なく「同意と誤信した(故意がなかった)」という理由で無罪判決が下されているケースはある。外国人が被告となったケースだけを切り取るのは非常に悪意を感じる。
わざと?無罪の理由を誤解させるツイート
もうひとつの、「さいたま地裁は公衆トイレ内で強姦された女性の体から精液が発見されたが『言葉を知らず嫌というのがわからなかった』と外国人移民に無罪判決」はどうだろうか。
検索してもこのような事件・判決がヒットしないので謎だったのだが、どうやら2017年7月27日の東京地裁判決のようだ。判決を報じる記事の中で被告の居住地が埼玉県となっていたためなのか、A氏が「さいたま地裁」と間違えたらしい。
これは、トルコ国籍の男性が知人少年と共謀し、駅近くの多目的トイレ内で女性を暴行したとして準強姦未遂罪で起訴された事件。
同日付の朝日新聞記事では、無罪判決の理由について「被告も乱暴したとの共犯者の供述は変遷しており、多くの点で信用できない」、さらに被害者の尻についた体液が被告のDNA型と一致したことについて「(性交とは無関係の)何らかの理由で付着した可能性があり、犯人の裏付けにはならない」と判断されたと書かれている。
A氏のツイートを読むと、名古屋の事件と同様に同意の誤信があったための無罪という印象を受けるが、報道によればこの判決は、行為自体が認定されなかったための無罪である。
DNA型が一致したのに……というならまだしも、無罪の理由を誤解させるような書き振りはいかがなものか。これは故意ではないのか。
また、この場合は共犯者だが、被害者の証言が信用されなかったことで行為が認定されずに無罪となるケースは残念ながらある。もちろん、被告が日本人の場合でもだ。
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