ゲームとしての『半沢直樹』考察。ツッコミどころは、良質なゲームが与えるスリルと似ている
『半沢直樹』新シリーズの勢いがすごい。アクの強い役者たちの演技バトルがクローズアップされがちだが、ゲーム作家・米光一成が着目したのは、脚本、演出、さらに放映スタイルに貫かれる「ゲームメカニクス」である。
わかりやすくルールを視聴者に伝える
TBS系ドラマ『半沢直樹』が大人気だ。視聴率も、第1話から第6話までずっと20%超え。先週放送第6話の平均世帯視聴率は24.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だ。
強引な展開、説明セリフ、暑苦しい大声の連発、パワハラ圧など、悪口はいくらでも言える。ツッコミどころも多い。でもおもしろい。なぜおもしろいのか。どうして盛り上がるのか。
『半沢直樹』に仕組まれているのは、ゲーム的なメカニクスだ。
ぼくは、講座『ゲームづくり道場』や大学で「ゲームのおもしろさはどこから生み出されるか」を教えている。そこで話している「ゲームのおもしろさを生み出すメカニクス」が、『半沢直樹』にガッチリぶっ込まれているのだ。
たとえばシーズン前半のクライマックス回である第3話。めちゃくちゃゲームっぽい回だった。
経営状況報告書をマスコミにリークし株価を暴落させる。安くなった大手企業フォックス株をスパイラルが逆買収に走る。半沢直樹(堺雅人)が「これが1撃目だ」と宣言。
ところが、金融庁の監視委員会が検査に乗りこんでくる。検査官の黒崎駿一(片岡愛之助)登場である。フォックスの買収計画書をクラウドの隠しファイルに移す半沢直樹。スパイラルの瀬名社長と電話で話す。
瀬名社長「うちが作ったパソコンデータ用の秘密隠し部屋ですよね」
半沢直樹「うちでは私と社長だけにしか存在を明かしていません」
リアリティを考えれば、すでに知ってることをふたりがわざわざわかりやすく言い直して会話する必要性はまったくない。
「これらが見つかったら相当まずい。営業停止間違いなしだ」とまで言っていて、ガッチガチの不自然な説明セリフだ。だが、そんなことは百も承知だろう。
不自然だろうがなんだろうが、ここで、わかりやすくルールを視聴者に伝える。「コンピューターの隠し部屋にあるファイルが見つからなければ勝ち、見つかれば負け」という勝利条件をしっかりと説明する。観ている側も、ルール説明だと思って観る。
コンピューターに侵入して消すのが速いか、黒崎が隠し部屋に辿り着くのが速いか。
黒崎側の進捗は、パスワードをしらみ潰しにチェックするパスクラッカーの画面として表示される。
コンピューターに侵入するのは、天才プログラマーの高坂(吉沢亮)だ。
タイムリミットを明確にし、高坂vs黒崎のレースを可視化する工夫だ。
パスワードは、zansin。
aからチェック、abcdeと段階を踏んでzに近づいていく。その画面が表示される。
高坂側、黒崎側、半沢側が、短いカットで、それぞれの表情が次々と映し出される。
黒崎が「あああー、半沢、まさかzになんかしてないでしょうね」と勝利条件を再確認するセリフを言ったり、パスワードzansinに近づく画面を挿入し、「yになります、もう!」とタイムリミットが迫ることを告げ、「だめだもう終わりだ」と盛り上げる。
「開いたぞ」
短いカットの積み重ねでレースを観せる。
パスワードが判明し、ファイルのアイコンが出てくる。
「これよこれ、開いてー」
黒崎が勝ってしまった!と思った瞬間に、高坂がデリートコマンドで、ファイルをひとつ消す。
「よしっ!」
ここに理屈はない。ただただ、ギリギリ間に合ったというだけだ。
「ちょっとどういうこと! 次いって次!」
登場人物それぞれの顔のアップがトントントンとつづいて、残るひとつのファイルもデリート。
「よっしゃー!」
全員の歓声とガッツポーズ。
ここにも理屈や秘策はない。ただただ、ギリギリ間に合ったというだけだ。
そもそも、バックドアを仕込むことがおかしいし、今どき「6桁小文字のアルファベット」のパスワードを使うのもあり得ない。ツッコミどころ満載だが、それも百も承知。
やってることは、高坂が猛スピードでキーをカチャカチャ打ってるだけだ。それで、こんなにも盛り上がるのだ。
どうなれば成功で、どうなれば失敗か。明確に示し、ギリギリで成功する(もしくはギリギリで失敗する)。そのスリルがおもしろさを生み出す。
わざわざ半沢が「1撃目だ」「2撃目だ」「3撃目だ」と状況の進行に合わせて宣言するのも、ラウンド数を示すことでプレイヤーの進行具合を可視化する技法のようだ。
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