原作者逮捕で連載が打ち切り『アクタージュ』報道で思うこと(小川たまか)

2020.8.17

文=小川たまか 編集=田島太陽


『週刊少年ジャンプ』で連載中だったマンガ『アクタージュ』の原作者が強制わいせつ容疑で逮捕され、打ち切りが決定しました。

8月8日に報道が出て、その2日後に集英社は打ち切りを発表しています。

私は性暴力について取材すると共に、被害者支援の活動も行っており、このような報道が出るといつも被害者への二次被害が気になります。逮捕された人が有名人である場合は特に注目度が高くなり、二次被害が激しくなる傾向があるためです。

※二次被害……性被害の二次被害とは、被害者が第三者から心ない言葉で責められたりすることなど。「あなたに隙があったのでは?」「嘘をつくな」「黙っておきなさい」などがそれに当たる。ネット上でも、被害者の落ち度を詮索したり、不正確な情報が出回ることがある。


被害者を心配する声も多かったネット上のコメント

8日からは連休でしたが、特に予定もなく家にひとりだったこともあって、主にツイッターでのこの件に関する反応をウォッチしていました。

あくまで私の観察範囲ではありますが、ファンと思われる人たちのツイッター上の書き込みで多かったのは下記のような内容でした。

・作画担当者を心配する声(原作者と作画担当が別のため)
・打ち切り回避を願う声
・作品は好きだけれど被害者のことを考えれば打ち切りはしょうがないのではという声
・被害者を心配する声

作画担当者を心配する声が目立ちましたが被害者を心配する声も多く、思ったよりも被害を軽視したり揶揄するような書き込みは少なかったように感じました。

これが10〜20年ほど前であれば、「出来心だから許してやれ」「連載のストレスすごかったんだろう」「手が当たっただけかも知れないのに」といった擁護が今より多かったはずです。世の中の意識は、なかなか変わらないようで案外変わっているのかも知れません。

数年前に新宿駅で女性だけを狙ってタックルする男の映像がネット上で拡散しました。ここ数年の#metooの流れ以外にも、ああいった映像で「通りすがりに明確な悪意ある犯行が行われることがある」と、被害当事者以外にも把握されるようになったことが大きいのではないかと思います。

心ない声を防ぐために、詮索を招かない報道を

『アクタージュ』が表紙を飾った『週刊少年ジャンプ』2019年11月18日号
2019年11月には『週刊少年ジャンプ』の表紙も飾っていた『アクタージュ act-age』(逮捕されたマツキタツヤは原作を担当。作画は今回の件とは無関係の宇佐崎しろ)

一方で、一部の大人たちが「10代女性にわいせつ」という言葉から「援助交際」「児童買春」だと思い込んで茶化していたのは、なんとも残念な光景でした。

ただ、最初の数時間の報道では「10代の女性にわいせつな行為をしたとして逮捕」という情報のみが流れ、「路上で背後から自転車で近づき、追い抜きざまに胸を触った」「防犯カメラの映像が証拠となった」「付近でほかにも同様の被害が報告されている」「容疑を認めている」といった点が明らかになっていなかったということもあります。

現代はネット上で誰もが思ったことを瞬時に書き込んでしまう時代です。数時間後に情報を追記するのであれば、それを待ってからの報道でよいのではないかと思うことがあります。性犯罪については残念ながら二次被害が発生する可能性が高い現状があり、被害者への心ない声を防ぐために、あらぬ詮索をなるべく招かない方向での報道をお願いできないかと思っています。

もちろん、断片的な情報から連想ゲームをしたり被害者を疑うようなコメントをする人が残念であり、児童買春であったとしても茶化すようなことではないのですが。

著名人が性犯罪で逮捕されるたびに思うこと


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小川たまか

(おがわ・たまか)1980年、東京都品川区生まれ。文系大学院卒業後→フリーライター(2年)→編集プロダクション取締役(10年)→再びフリーライター(←イマココ)。2015年ごろから性暴力、被害者支援の取材に注力。著書に『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス)、『告発..

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