「香港国家安全維持法」とは? 香港×台湾×沖縄の若者と民主主義を考える

2020.7.13

文=神田桂一


6月30日に施行された香港国家安全維持法。それを受けて『7月11日 香港×台灣×沖縄の若者と考える 「香港国家安全維持法」をめぐって』と題した討論番組が、「Choose Life Project」のYouTubeチャンネルでライブ配信され、4名が出演した。彼らは、香港の現状をどう捉えているのか、「香港国家安全維持法」の懸念点、香港と台湾・沖縄の共通点、香港のために日本政府に求めるステートメントなどを発表した。本記事では、番組内の各出演者の発言を抄録する。香港の、そして民主主義の未来は。

出演者
阿古智子(東京大学教授)
伯川星矢(フリーライター)
小松俊(台湾清華大学・大学院生)
元山仁士郎(一橋大学・大学院生)
司会:安田菜津紀(フォトジャーナリスト)


「香港国家安全維持法」とは?

安田 今日の大きなテーマの軸のひとつになっていくのが6月30日に成立した国家安全維持法です。歴史を踏まえた上でまず阿古さんにお伺いしたいのですが、今回施行された国家安全維持法、改めてこれはどういう法律なのか、どういったところに懸念点があるのか、そのポイントを教えていただけますか?

阿古 国家安全維持法というのは、5月28日に突然、中国の全国人民代表大会で可決されて、その約1カ月後である6月30日の深夜に施行が決まったんですけれども。内容は香港政府が設置した国家安全維持委員会に、それは行政長官がトップなんですけども、中国政府が顧問を派遣するということ。そして、中国政府が国家安全維持公署というものを設置します。これまでヴィクトリアパークに集まってデモに参加する人たちがいろんな活動をしてきたんです。その公園を見渡すことができる大きなホテル、銅鑼湾(コーズウェイベイ)にあるんですけども、そこを事務所にしてもうすでに設置されています。

安田 これが中国政府の出先監視機関ってことなんですか?

阿古 そうです。そして、国家安全維持法に抵触する犯罪は主に4つあるんですけど、ひとつ目が国家分裂、国家の分裂を図った場合。ふたつ目が政権転覆、中央政府の転覆を企てた場合です。そしてテロ活動、外国勢力との結託という4つの犯罪が想定されています。最悪は終身刑にもなるということなんです。

安田 これが香港の市民だけではなく、外国人も対象になってくるということなんですか?

阿古 そうです。外国人でも、たとえば香港の民主化団体、民主化に積極的な団体と資金を集めたり、イベントを企画したり、インターネットで中央政府を激しく批判するような文章を書くなど、具体的にこれからどのあたりが犯罪とされるのかはわかりませんが、外国人も対象になると明記されています。

安田 どのあたりが犯罪になるのか、曖昧なところが非常に強いと思うんですよ。たとえば、先ほど挙げていただいた国家分裂だったり、政権の転覆ということも、権力側が「それって国家転覆だよね」って言えば、いくらでも恣意的に解釈できる余地があるんじゃないかって思うんですけど、そのあたりはいかがでしょうか?

『7月11日 香港×台灣×沖縄の若者と考える 「香港国家安全維持法」をめぐって』より

阿古 そうですね。そのとおりだと思います。私は中国の研究が専門なんですけど、すでに中国の本土では国家安全維持法の罪で多くの人が逮捕され、服役をさせられているんです。普通の弁護士さんが社会的弱者の弁護を担当しただけで逮捕されると。国家の分裂を図っただとか政権転覆を図ったとなるので、まあ解釈はいかようにもできますね。

安田 これ、そもそもの話に戻ってしまうんですけども、これだけ深刻なものを含んだ法律をなぜこれだけ急ぎ足で、なぜ今(可決したん)でしょうか。

阿古 まあ本当にどうしてなのかというのは、香港の人たちもびっくりされてると思うんですけれども、世界の中で中国の統治モデルと民主主義の考え方がかなり激しく対立してると思うんですね。監視を通して社会を安定させる、と。監視メカニズムが機能しているようなかたちで中国政府は主張しているところがあるんです。でも、そうするとたとえばいろいろな意見がたくさん出て、民主化運動、まあ香港の場合、かなり激しく対立してしまっていて経済にも影響を与えていますので、そういったことが社会の不安定につながるんだと。そして、中国が世界の中でも中国モデルで統治をリードしていくという意味でも、香港にまず楔を打つというか、そういった狙いがあったのではないかなと思います。

危機感を強める台湾の現状

安田 香港と台湾では社会的なバックグラウンドが微妙に違ってくるとは思うんですけど、ただやはりこういった香港での動きがあると、次は台湾へもっと圧力が行くのではないか?ということも指摘をされるわけですよね。台湾に対する風当たりが強くなるという危機感はありますか?

小松 正直、けっこう、危機感は高まってきています。実際は窓口も設置していて、それこそある種の運命共同体だと、香港と台湾は言われているんですけれども、やっぱり最近の世論調査でも中国政府は台湾の友達ではない、と73%もの人が思っている。中国政府による香港への仕打ちが原因で、台湾の人たちもどんどん危機感が高まってきているという状態です。

安田 これまでは香港と台湾でいろんな運動をしている方同士のやりとりや情報交換も盛んだったかと思うのですが、そのパイプを可能な限りでどう維持できるのかということも問われるのかな?とも思っています。

小松 はい。そのとおりです。

声を上げても届かない辺野古での経験

安田 元山さんにも伺いたいんですけど、やはり沖縄と香港だと社会的な背景は違うところもあると思いますが、大きな権力に対して自分たちの地域から声を上げるという意味では共鳴・共感するところが多々あると思うんですけど、どんなふうに捉えていますか?

元山 はい。今回香港と台湾と沖縄の若い人たちと考えるということで、自治・自由・民主主義、この3つがテーマに挙げられています。私自身は直接体験したことはないんですけれども、沖縄もかつて1945年、第二次世界大戦のあとから1972年の5月15日まで米軍の統治下にあって、沖縄の人たちは自治を求めていろんな運動を行ってきたわけです。1968年に主席公選を勝ち取って1972年に日本になるわけです。
今の香港の状況っていうのは、かつての沖縄と重なる部分が大きいと思っています。また沖縄で私自身、昨年2月24日に行われた辺野古の基地建設の埋め立ての賛否を問う県民投票をやりましたけど、その声がまったくと言ってもいいほど反映されていないっていう状況を見ると、香港でも声を上げているのに届かないっていうのと同じような状況がまさに今の沖縄にもあるんじゃないかって見ています。

香港のために日本政府や民間企業に求めること


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