テレビで活躍する芸能人がYouTubeに参入し、逆にYouTuberがテレビに出演する。そんな日はもはや珍しくなくなった。テレビとYouTubeで活躍する人々の垣根は、昔に比べるとなくなってきたのではないか。しかしその現実は、人によってさまざまな捉え方になる。お笑い評論家のラリー遠田が、『さんまのまんま』で明石家さんまがYouTuberのはじめしゃちょーに対して述べた言葉について考える。
「素人さん」の領域
テレビとYouTubeは対立するものだという考え方は、少なくともネット世論の中では古臭いものになりつつある。だが、地上波テレビなどの「オールドメディア」では、いまだにそういう価値観がまかり通っていることがある。
6月19日放送の『さんまのまんま35周年SP』(フジテレビ)でそれを象徴する場面があった。明石家さんまがトップクラスのYouTuberであるはじめしゃちょーをゲストに招き、YouTube談義を展開したのだ。そこで「最近、芸能人のYouTube進出が盛んになっている」という話題が出た。すると、さんまははじめしゃちょーに対して「ごめんな」と謝罪の言葉を述べたあと、こうつづけた。
「これはYouTuberの人に謝らなあかんねん。あれ、『素人さん』の領域やって。せやねん、あの、俺はそう区切ってて。素人さんがやって、自分で。まあ、素人さんって言ってもね、ここで生きていくっていう人たちがおもしろいことをいっぱいやる場やもんね。そこへプロが参入したらあかんと思ってたのよ。かわいそうやんか、こうして一生懸命やってきた人が」
さんまに言わせると、YouTubeは「素人さん」の世界だから、プロの芸能人がそこに割って入るべきではないというのだ。もっともらしく聞こえる話ではあるし、さんまと同世代の芸能人でそのように思っている人はほかにもけっこういるのかもしれない、とも思う。

だが、個人的には、この「素人さん」という言葉に違和感を覚えた。さんまはYouTuberの立場を尊重しているように見えて、実際には見下しているようなところがある。芸能人がYouTubeの世界に本格的に参入すれば、実力不足の「素人さん」は根こそぎ駆逐されてしまう。そう思っているからこそ、そのような言葉が出たのではないか。
もちろん、さんまに悪気はないのだろう。芸人や俳優などの芸能人が一般人のことを自分たちと区別して「素人」と呼ぶのは普通のことだ。そこに差別的な意識は含まれていないことが多い。
それでも、私がその表現に引っかかりを感じたのは、YouTuberがそうやって天然記念物のように保護されなければ絶滅してしまうようなか弱い生き物だとは思えないからだ。無限の荒野が広がり、ライバルも無数にいるYouTuberの世界は、たかが7〜8チャンネルの限られた時間枠を奪い合う地上波テレビの世界よりも、ある意味では遥かに厳しい競争が行われているともいえるのではないか。