女子小学生にまで求められる“モテ技”。男はなぜ「さしすせそ」で気持ちよくなってしまうのか(清田隆之)

2020.5.16


女性たちが膨大な経験則から導き出した最適解

もちろん、人から認めてもらえるのは基本的にポジティブなことだろう。センスを褒められたり、すごいねって言われたり、話をじっくり聞いてもらえたりすることは、確かにうれしい。そこに男女差はないような気もする。しかし、「さしすせそ」はたいがい“女性向け”のテクニックとして紹介されるし、コミュニケーションで細かな気遣いを求められたり、人間関係においてケア役割を期待されたりするのは女性側であることがほとんどだ。この差は何に由来するものなのか。

先の会話例を元に、女子がこのテクニックを使わなかった場合の展開を想像してみる。「勉強してないけどテストできた」と言ってきた男子は、おそらく自分のポテンシャルを自慢しようとしている。実際に何点だったのかはわからないが、「勉強しないでもそこそこの点が取れた」「本気出せばもっといい点が取れる」というメッセージを含むこの言葉は、アピールにもエクスキューズにもマウンティングにもなってくれる便利なセリフだ。

しかし理屈で考えれば、「さすが○○くんだね!」という返答よりも、「今回はたまたまいい点が取れただけ」「のちのち苦労するかもしれない」「だったらちゃんと勉強すればよかったのでは?」といった返し方のほうがよっぽど理にかなっている。

もしも女子側がそんなふうに返したら、男子はどうなるだろうか。おそらく想定外の反応に驚くはずだ。あらかじめ女子側からの「さしすせそ」的リアクションを期待していただろうから、それが裏切られたと感じる可能性も大いにある。その結果ムッとして不機嫌を露わにするかもしれないし、「意味わかんねえし!」「そういうお前は何点だったんだよ!」と言い返してくるかもしれない。

もっとひどいケースになると「うるせえブス!」などと理不尽な攻撃を仕掛けてくる展開も容易に想像できる。そういう意味で、「さすが○○くんだね!」は男子をいい気分にさせ、女子的にも面倒なことを回避できるという、一挙両得な100点満点の回答なのかもしれない。でも、果たしてそれでいいのだろうか?

思うに「さしすせそ」とは、古今東西の女性たちが膨大な経験則から導き出した最適解ではないか。そこにあるのはおそらく、男子を喜ばせるためという積極的な動機ではなく、「こう言えば男たちは扱いやすいよ」あるいは「こう言ってあげないと不機嫌になるから面倒くさいよ」という消極的な動機だ。昔から論争のタネになる「飲み会でサラダを取り分ける」なども含め、世間で“男ウケ”するとされているテクニックのほとんどはこうして編み出されたものだと思えて仕方ない。

自尊感情を自給自足することができない

人から褒められてうれしいことに男女差はないはずなのに、「男の子はホメられるのが好き!」だけが自明のものとして扱われているのはなぜなのか──。これまでの話を総合すると、その理由は端的に言って「男のほうが幼稚だから」ということになる。つまり「男の子はホメられるのが好き!」というより「男の子はホメられないと機嫌を損ねる!」のほうが実態に近い。それが面倒くさいがためにこの構造が温存されつづけているにすぎない。

ではなぜ、男は褒められないと機嫌を損ねてしまうのか。これはもう、さすがに俺たち自身が考えるしかない問題だろう。いくら女性たちが褒めてくれ、気を遣ってくれ、サラダを取り分けてくれたとしても、その説明まで求めるのはあり得ない話だ。自分の内面は自分で言語化していくしかない。

この問題を考える上で個人的に大きなヒントになったのは、桃山商事のメンバーである佐藤広報の話だ。彼は「男の子はホメられるのが好き!」を地で行くタイプで、「人からすごいって言われたい」という思いがすべての行動の原動力になっていることを自認している。

モテとか愛され以外の恋愛のすべて
清田隆之が代表を務める恋バナ収集ユニット「桃山商事」による著書『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』

30代になって趣味でトライアスロンを始めたのだが、SNSでたくさんいいねをもらうため、どんどんトレーニングにのめり込んで最終的にアマチュア選手の日本代表として海外のレースに出場するまでになってしまった。また仕事でも、3度の転職を経て誰もが知る有名企業に入社したのだが、ステップアップのモチベーションになっていたのも人から褒められたいという気持ちだったそうだ。

いわゆる「承認欲求」というものなのかもしれないが、彼の話を聞いていると、そのようなシンプルな言葉では説明できない複雑な感情が見えてくる。いわく、人から「すごい」って言われたり、SNSでたくさんいいねをもらえたりすると、「自分は大丈夫だ」「ここにいてもいいんだ」という気持ちになれ、安心感を得られるのだという。裏を返せば、自分の中に漠然とした不安やうっすらとした恐怖が常駐しており、自尊感情を自給自足することができない。それで他者からの承認や賞賛を必要としているのではないかと自己分析していた。

男は自分で自分のことがわからない?

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清田隆之

(きよた・たかゆき)1980年東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。 『cakes』『すばる』『現代思想』など幅広いメディアに寄稿するほか、朝日新聞..

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