「Bookstore AID」の内部から考える、コロナ後の社会で守りたいものを“支援する”意味(花田菜々子)

2020.5.15

苦しみの正体を考える

自分の感じている苦しさの内訳はなんなのか。ひとつには、なぜ苦しい状況にある店が支援を受けようとしないのかということだ。震災時、家族を失った人が「被災者の中には一家全員を失った人もいるから、ひとりしか失っていない自分よりもっと苦しい人がいる」と自分の苦しみを語れずにいる話を聞いてやりきれない気持ちになったが、それと同じではないか。だが、そう憤る自分こそがこの1カ月、会社員という恵まれた立場にあるのだからという理由で「苦しい」と言うことも思うことも自分に禁じていたことにやっと気づいた。やっぱり私も「自分がそんなことを言う資格はない」と思っていたのだ。

自分の店や会社がどうなってしまうのだろうかという不安もあったが、それよりも小さな本屋や飲食店を営む知人友人の苦しさを考えて苦しい、というのが、見間違いのない自分の苦しみの正体だった。そして今日やりとりした、たくさんの本屋の人たちそれぞれのリアルな苦しみが、自分の苦しみでもあった。

だが真夜中にあれこれと考えをめぐらせるうちに、とにかく支援を受けてほしいと考えるのもまた違うな、と思い至った。それぞれの書店には違う顔の店主がいて、本屋を始めたいきさつも、働き方も、哲学もすべてバラバラなのだ。そのストーリーに整合しない行動を無理やり押し付けることはできない。「エゴでやってる店だから受け取れない」という理屈を理解できたわけではないが、床に転がっているうちに「そう言うならそうなのだろう」と、じわじわと腑に落ちてきた。

本屋の頑固オヤジ2.0を生きる

里山社の清田麻衣子さんがこんな記事を書いていた。

一人で書店をやっている人が(かならずしも)、ほっこり系の「いい人」なわけがない。いやもちろん表向きはそんな顔をしている個人経営の書店主も、その根っこには、どこかアウトロー気質というか「はみ出し」気質がある、と、私は睨んでいる。

個人書店の通販リストを作ってみて、いま思うこと 里山社代表・清田麻衣子さん寄稿 |好書好日

というのが、身にしみてとてもわかる気がした。みんな頑固でひねくれ者で面倒くさい人たちなのだ。支援であれなんであれ、大きなものに組み込まれたくない、というのもあるだろう。考えてみれば昔から『ドラえもん』でも古本屋のオヤジというものは偏屈でムスっとしている。私たちは頑固で偏屈な本屋のオヤジ2.0なのかもしれない(女性店主含め。もちろん自分も)。そう思うとこのバラバラな書店主たちの言葉も生き方も、頼もしく愉快に思えてきて、ミニシアター・エイドよりまとまりがないのも「らしく」思えて、やっぱり本屋は最高だな、と心から思った。そして、だからこそなんとしても存続させたいものだった。

すべての書店を救えるわけではないし、すべての人に納得の行く方法ではないかもしれない。けれど、これが今思いつく限りの最善のやり方で、「何かの役には立っているはずだ」と自分は心から信じている。

ふと顔を上げてみれば応援や賛同のメッセージもたくさん寄せられていた。「なんとかしたい、なんとかなってくれ」と祈るような気持ちでいるのは自分だけではない。

コロナ後の社会で、守りたいものを「支援する」ことの意味

自分自身、この1カ月で考えが変わったことがいくつかある。

まず、以前は「書店が閉店する」というニュースをいちいちSNSなどに上げ、いい店だったなどと残念がる人たちを鼻白む気持ちがあった。書店が潰れるのは書店の勝手だし、ラーメン屋や居酒屋が潰れることと変わらないのに、変なロマンを持ち出すな、と「書店の神格化」のようなものに憤っていた。

HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE
花田菜々子が店長を務めるHMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE

だが、今回ばかりはそうも思えない。コロナのために感染を防ぐ行動はもちろん大事だが、補償のない自粛要請とかいうわけのわからないものに責任を負わされて、閉店を余儀なくされるなんて絶対に嫌だ、というはっきりした気持ちがあった。それが自分の知らない書店でも、あまり個人的に好みではない書店だったとしても、絶対に閉店に追い込まれたりしてほしくなかった。それは今まで感じたことのない「本屋全体」への愛だった。

それから、今までは、本の購入にAmazonを使いたい人は使えばよいと思っていた。だが、書籍の取り扱いをかなり制限している現状を知り、「本屋がなくても本を買うことはできる」は誤りだったのだと痛感した。Amazonに頼ることはこんなにも危険なことだったのだ。個人や、信頼できる販売元から購入することが社会をよくすることにつながる。

そう考えると、ちょっとした生活用品をAmazonプライムで購入したこともあったけど、これからは少し不便だったとしても、実店舗のあるオンラインストアや応援したいECサイトで買うべきだなと考えを改めた。

私たちはお金で支援することにまだ慣れていない、と思う。あげることももらうことも、なんだか申し訳ないような気持ちが入り混じるし、お金を渡すことは下品、失礼なことというイメージもある。だが、クラウドファンディングは知ってのとおり、受け取る相手に尊厳を持って応援の気持ちや助け合いたいという意思を伝える手段のひとつだ。

コロナの問題を転換点として、社会はまた大きく変わっていくことだろう。正直どうよくなってどう悪くなるかまだ想像も及ばないが、自分が信じられるものを信じ、それを守るための行動をすること。それはどんな時代に変化したとしても自分の足元を照らし、社会をよくする一手になることは間違いないだろう。



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花田菜々子

(はなだ・ななこ)書店員。ヴィレッジヴァンガードほか複数の書店勤務を経て、現在はHMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE店長。著書に自身の体験を元に綴った『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』『シングルファーザーの年下彼氏の子ども2人..

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