「夫婦別姓は犯罪が増える」というトンデモ発言は“男性特権”が生んだ無知の末路(清田隆之)

2020.3.24

県議員の発言は無知の末路

選択的夫婦別姓について考えることは、男性特権について考えることにもつながる。考えなくてすむということは知らずにすんでしまうということだ。しかしそれは、言い換えれば「無知」ということでもある。はたして、俺たちは無知のままでいいのだろうか?

民法の改正が国会で判断されるものである以上、選択的夫婦別姓が実現されるためには賛成する国会議員を増やすしかない。反対派の安倍政権がつづく限り道は険しいと言わざるを得ないが、野党はくり返し民法改正案を提出しているし、国会の外でもさまざまな運動が起こっている。

同姓にしたい人は同姓に、別姓にしたい人は別姓にできるわけで、望まない形での結婚は確実に減る。私の知人には、一度同姓婚をしたものの、アイデンティティを奪われた気持ちになったため、形式的に離婚という形をとって旧姓に戻り、パートナーシップがより固まったという女性もいる。となると、理屈で考えれば家族の絆は全体としてむしろ強まることになる。反対派による反論にはつくづく理はない。

選択的夫婦別姓が実現しないのはおそらく、反対派の抵抗もさることながら、この問題に関心を寄せる人が増えないというのも大きいはずだ。その“無関心な国民”の大部分を構成しているのは「考えなくてもすむ」という特権を持っている俺たち男かもしれない。背景には既存のシステムに乗っかって生きることの楽チンさがある。でも、それをつづけている限り俺たちは無知のままだ。

考えずにすんでいることを改めて考えるのは確かに大変だ。しかも、知れば知るほど知らなきゃいけないことが増えていき、面倒は確実に増す。しかし、無知のまま生きるよりよっぽどマシではないだろうか。「選択的夫婦別姓は犯罪が増える」という愛媛県議員の発言は、男性特権が生んだ無知の末路だと私には思えて仕方ない。そんな人間にだけは絶対になりたくない。

※記事初出時、地名に一部誤りがありました。お詫びして訂正いたします。



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清田隆之

(きよた・たかゆき)1980年東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。 『cakes』『すばる』『現代思想』など幅広いメディアに寄稿するほか、朝日新聞..

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