落ちこぼれ組から、さらにこぼれて…マシンガンズがチャンスを逃しつづけた25年「ある日気づいたんです、ネタの前がウケてるって」

2023.6.17
マシンガンズ

文=安里和哲 撮影=山口こすも 編集=梅山織愛


『THE SECOND~漫才トーナメント~』(フジテレビ)で準優勝し、一躍時の人となったマシンガンズ。若い世代の中にはこの日、初めて彼らの漫才を観たという人も少なくないだろう。芸歴25周年の彼らが見せたキレ芸とアドリブ満載の漫才は、紆余曲折を経て辿り着いた、彼らが一番輝くスタイルの漫才だった。

ブレイクしかけては、チャンスを逃してきたというマシンガンズとしての25年。どんな状況でも“マシンガンズ”を捨てなかったふたりのこれまでを聞いた。

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#自撮りおじさんの火つけ役・マシンガンズは「今、心底モテたい。本当にモテたい」

マシンガンズ、『THE SECOND』に出場して再燃した漫才へのモチベーション「ネタ作ってもいいなと思った」

落ちこぼれ組からもこぼれたマシンガンズの低迷期

──『THE SECOND』の登場前VTRで『(爆笑)レッドカーペット』(2007年〜2014年/フジテレビ)に出演されていたころが、“ファーストチャンス”だと語っていましたね。当時の心境は覚えてますか。

西堀亮(以下、西堀) 焦ってましたよ。『レッドカーペット』に出ても、トーク番組みたいな“上の仕事”には辿り着けなかったですから。

滝沢秀一(以下、滝沢) 『(踊る!)さんま御殿!!』(日本テレビ)とかに出させてもらいたかったな(笑)。

西堀 当時はネタ番組がまだそれなりにあって、プチブレイク的な芸人もすごく多かったんですよ。『レッドカーペット』とか『エンタの神様』(2003年〜2010年/日本テレビ)とかで少しはねても微妙で、そこでトップにならないと人気者にはなれなかった。僕らは芸風も見た目もキャッチーじゃないから、結局、ネタ番組止まりでしたね。

滝沢 流れ星とか三拍子とかちょっと芸歴が下の芸人たちが、もっと早くから『(爆笑)オンエアバトル』(1999年〜2010年/NHK総合)とかに出てて、僕らずっと焦ってたんですよ。それで9年目のときに、なんとかしようと思って、ダブルツッコミのスタイルに変えたら、『レッドカーペット』とかに出せてもらうようになって。これはいけるんじゃないかと思ってたのにダメだった。当時、一緒にくすぶってたのがオードリーとかナイツですよ。落ちこぼれの集まりで一緒にライブにやって「みんなで売れよう!」って言ってたのに……。

──そのふた組は『M-1グランプリ』決勝で爪あとを残して、今や超売れっ子になりました。

滝沢 そうなんですよ! つまり、僕らは落ちこぼれ組から、さらにこぼれた(笑)。やっぱり焦りましたねぇ。

──とはいえ、マシンガンズは漫才には定評がありましたよね。2007年、2008年と『M-1』準決勝に進み、間は空きますが、2012年と2014年には『THE MANZAI』の認定漫才師にも選ばれました。それでもブレイクし切れなかったのは、もどかしかっただろうなと思います。

滝沢 そうですね。でも、今思えば人気が出ないのも当然で。当時は生意気で、営業に行っても、「本当はテレビに出たいのに、なんでこんなとこで漫才やらなきゃいけねぇんだ」とか思ってましたから。目の前の仕事を一生懸命やらなきゃいけないっていうのにねぇ。そういう苛立ちも、焦りから来てたんでしょうけど。

マシンガンズ
滝沢秀一

──太田プロの先輩からアドバイスはありましたか?

滝沢 『レッドカーペット』と『エンタ』が終わってからは、「何が当たるかわからないから、キレ芸以外もやれよ」って言われました。でも、向いてなかったね。

──そうなんですか。

滝沢 いろいろやり出して思い出したんですよ。これ全部やってきたなって(笑)。だってそもそも、ずっといろいろやってきて当たらなかったからって、ダブルツッコミをやり始めたんですよ。ダブルツッコミに辿り着くまでの9年でさんざんいろいろやってきたのを忘れてた。

西堀 結局、アドバイスってそんなにあてにならない(笑)。でも最近特に思うんですけど、ある程度のところまでは自力で登っていかないと、誰も助けてくれないんですよね。たとえば有吉(弘行)さんくらい力のある人でも、僕らみたいな無名の芸人はなかなか引き上げ切れないでしょう。僕らに説得力がないのに、無理やり引き上げたら、スタッフからも視聴者からもそっぽ向かれますから。だから『THE SECOND』以降はいろんな人が番組に呼んでくれるようになりましたもんね。

マシンガンズ
西堀亮

ネタ合わせをやめたらウケた?

──ダブルツッコミもそうですが、『THE SECOND』で視聴者を惹きつけたのは、アドリブ満載の漫才スタイルでした。寄席やライブの“生感”をテレビの賞レースで観られたことに興奮しました。

滝沢 アドリブというか、ネタ合わせをやめただけなんですけどね。ダブルツッコミはやっと見つけたスタイルだったから捨てたくなかったんですよ。そこで、もっと気楽にこれをできる方法がないかなっていうのはずっと考えてて。そこでネタ合わせをやめてしまった。やっぱり我々、サボり癖があるんで(笑)。

──『M-1』挑戦者は1年かけてネタを洗練させますよね。「ネタを叩く」ともいいますが、マシンガンズはむしろネタを叩かなくなったと。

滝沢 「今までネタ合わせしてきたからダメだったんだ!」って都合のいいように解釈しましたね。

西堀 ほんとそうだよな。

滝沢 ネタ合わせしてたころって、どんどんお客さんに飽きられていったんですよ。

──「キレ芸」はパッションだから、ネタ合わせしてる感じが出ると冷めちゃうのかもしれないですね。

滝沢 そうなんです。ウケないなーと思いながらつづけてたんですけど、あるとき気づくわけですよ。「ネタに入る前のおしゃべりのほうがウケるな」って。

──落語家でもマクラのほうがウケる人いますよね。

滝沢 本当にそんな感じ。俺らはネタ入ると急にスベり出す。『THE SECOND』の最後のネタもそんな感じだったでしょ?(笑)

──いっそのこと全部マクラでいこうと。

西堀 今時の漫才の作り方とは全然違いますよね。『M-1』に向けて、4分尺の完結した漫才を作るなんてもう無理ですよ。

滝沢 今思うと、俺たちはそういうネタ作りが苦手だったんだよな。『レッドカーペット』の1分が限界。1分でもめちゃくちゃ緊張するんだから。ちょっとでもセリフ間違えたら全部終わり。

西堀 俺、同じボケ2回したことあったけど、そのままテレビに流れてたよ。怖いよなぁ(笑)。4回手挙げて終わりだっけか。

滝沢 うん。ギリギリまで詰めて4個。

西堀 扉が開いたら飛び出してって。

滝沢 覚えたこと全部バーっとしゃべって。

西堀 そのままベルトコンベアで連れてかれる。あのスピード感ったらなかったね。

滝沢 久々に見返したらめちゃくちゃテンポ早いんですよ。あれはもうできないな。

西堀 うん。あと、お笑いやる人間の顔じゃないよな。あんなに目がつり上がってる芸人で笑えないよ(苦笑)。今はもうずっとニヤけてるでしょ。

──キレ芸とニヤけ具合がマッチして、今の愛嬌あるマシンガンズになったんですね。

西堀 年取っちゃって、キレ漫才がボヤキ漫才になっちゃったんじゃないですか? そんなに攻撃的な風貌ではなくなってきたし。そもそも今はもうそんなにキレてない。

滝沢 世の中に対して思うことも何もないしな。

西堀 なんにもない。許せてきた。

滝沢 ニヤニヤしながら生きていきたいだけ。

──ふたりが楽しそうに漫才してる様がいいなと思って観てました。

 西堀 確かに俺たちも楽しくやってたね。

 滝沢 それはそうだね。

キレなくなったマシンガンズ

マシンガンズ

──世の中とか他人に対しての不平不満もなくなりましたか。

滝沢 ないねー。俺ももう漫才で何も言ってないから。「あー」とか「うー」とか言ってばっかり。

西堀 あっはっは。これがウソじゃないんですよ、滝沢はね、「あー」と「うー」が絶品なの(笑)。

滝沢 西堀の話に「あーうんうん、おーおー」って相づち打ってな。伴奏のギターみたいなもんですよね。

西堀 俺がしゃべってるときに、滝沢もしゃべってるような顔して、「あーうー」とか言って溶け込むんですよ。それがバレないんだよね。

滝沢 全然バレない。

──「世の中に怒ることもない」という心境の変化はなぜ起こったんですか。

滝沢 俺の場合は子供の存在がでかいかもしれない。子供のやることなんて、ある程度許さないと生活回んないから。それやってたら、わがままな大人に会っても「この人は子供なんだなぁ」って許せるようになりましたね。

──確かに子供にキレてもしょうがないですもんね。

滝沢 そうそう。子供同士でしゃべってるの見てても、よくマウントの取り合いしてるんですよ。だからマウント取り合ってる大人を見ても「子供なんだなぁ」って思うだけ。昔だったら腹立ってたんでしょうけど。

西堀 俺は単純に加齢だな。怒る体力もないのかもしれない(笑)。

──コンビ間でキレることはないですか。

滝沢 まぁそういう時期はどのコンビもありますよね。

西堀 漫才がうまくいかなかったら、責任のなすりつけ合いしてた。

滝沢 『オンバト』の舞台袖でケンカしたな。

西堀 スベり過ぎて、キスするんじゃないかってくらい顔近づけてケンカした(苦笑)。スベるのがイヤだからケンカするんですよ。ウケてたらそんな言い合いにならない。

滝沢 まぁ今はもうスベっても別に怒らないけどね。

西堀 そうだな。昔は噛んだり、間が違ったら怒ってたけど、今は心配になりますよね。疲れてんのか?って。

滝沢 20時以降の収録は大変ですよ、もう眠くてしょうがないから。

何があってもマシンガンズは残そう

マシンガンズ

──今年でマシンガンズ結成から25年です。滝沢さんがゴミ清掃員でブレイクしたり、西堀さんが役者業をしたり、それぞれの方面で活躍してきました。コンビの解散や芸人引退を考えたことはありませんでしたか?

滝沢 とにかくお金がなかったんで、子供ができるとこの先、芸人つづけるの厳しいなーっていうのはありましたね。本当に困ってたころはクレジットカードを10枚近く作ってやりくりしてましたから。新しくカード作ると「5000ポイントプレゼント」とかあるじゃないですか。あれにつられてカード契約しまくってました。そのポイントで子供のおむつ買ってましたからね。こんな生活がつづくんだったら厳しいな、とは思ってましたね。

西堀 でも「何があってもマシンガンズは残しておこう」って話はしてたんだよね。

滝沢 あぁ、そうそうそうそう。

西堀 解散とか引退とか、俺たちがわざわざ決めなくてもいいなって。芸人なんて仕事がなくなったら、なんとなく存在が消えていくもんだよなと。普段、お互い違う仕事してても、仕事の依頼があって、タイミングが合えばマシンガンズで仕事すればいい。人生が次のステップに行くときに、すっきり精算したいタイプの人もいるけど、俺らはそういうのは全然なかったですね。

──じゃあこれからも活動スタイルは変わらないですか。

滝沢 そうですね。求められればなんでもやりますし。

西堀 こうしようって何も決めてないよね。タイミングが合えばなんでもやる。

滝沢 マシンガンズのYouTubeもやるしね。

西堀 最近は芸人も情けない部分だったり、苦しんでるところを全部見せるようになってきたじゃないですか。「すべてさらけ出す」文化になってきたから、昔よりできることの幅も増えてきたよね。

──昔はさらけ出せなかったですか?

西堀 そうですね、昔はいい年して土木作業のバイトしてるのも言いたくなかったんですよ。どっかで見栄を張ってたんでしょうね。滝沢は子供も生まれたっていう事情もあって、わりと早くからゴミ清掃のことも言ってたけど、俺は最近まで言いたくなかったかもしれない。

──意外です。

西堀 やっぱり「西堀かわいそうだな」って思われるのがイヤだったんでしょうね。でもここ数年でそれすらなくなってました(笑)。まぁどう思われてもいいやって。笑ってもらえるんだったら、全部言っちゃったほうが気も楽ですしね。

──苦労してきたふたりですが、芸人としての収入もどんどん上がっていきそうですね。

西堀 まだ給料に反映されるのは先ですけど楽しみですね。締め日が30日だからなぁ。来月の給料が5月の締め日だから……。

滝沢 なんで太田プロの給与体系話すんだよ!

西堀 月末締めの20日払い。これから太田プロに入る後輩のためにも、載せておいてください。なんかアルバイト誌みたいだな。

滝沢 「太田プロは自由な職場です」って書いといてください(笑)。

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安里和哲

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安里和哲

(あさと・かずあき)ライター。1990年、沖縄県生まれ。ブログ『ひとつ恋でもしてみようか』(https://massarassa.hatenablog.com/)に日記や感想文を書く。趣味範囲は、映画、音楽、寄席演芸、お笑い、ラジオなど。執筆経験『クイック・ジャパン』『週刊SPA!』『Maybe!』..

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