マシンガンズ、『THE SECOND』に出場して再燃した漫才へのモチベーション「ネタ作ってもいいなと思った」

2023.6.16
マシンガンズ

文=安里和哲 撮影=山口こすも 編集=梅山織愛


5月に開催された芸歴16年以上の漫才師による賞レース『THE SECOND~漫才トーナメント~』(フジテレビ)。関西の実力派コンビ・ギャロップが見事優勝したが、彼らに決勝戦で敗れたマシンガンズもまた脚光を浴びた。

決勝トーナメント前の記者会見で、西堀亮が言い放った「報われない奴を救済するという大会の趣旨に、俺たちが一番合ってる」という言葉を体現するかたちとなった。

最初は出場を渋っていたふたりだが、最終的には漫才が楽しくなり、ネタへの思いも再燃したという。漫才に帰還するきっかけとなった『THE SECOND』をマシンガンズに振り返ってもらった。

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滝沢「超新塾がジャルジャルとCOWCOWさんを倒すなんて!」

──ベテラン漫才師にとって、新たな賞レースに参加するのはリスクも大きいように思えましたが、おふたりはどうして『THE SECOND』に出場したんですか?

滝沢秀一(以下、滝沢) 俺たちも最初は乗り気じゃなかったんですよ。そもそも西堀は予選の前に手術するって言ってたからね。

西堀亮(以下、西堀) 副鼻腔炎の手術で入院することになってて。

滝沢 じゃあ『THE SECOND』はまた来年考えればいいんじゃないかと。

西堀 出場回避したい方向だったんです。ただ、たまたま入院前日に予選が始まることがわかって。なんだよこれ、出られるじゃないか……ってな。

滝沢 だとしたらやらなきゃいけないなぁ。

西堀 やるだけやるかぁ。

滝沢 そんな感じですよ、本当に記念授業みたいなつもりだった。そしたら勝っちゃって。だけど、回数を重ねていくたびにおもしろくなっていって、決勝が一番おもしろかったですね。

西堀 うん。

滝沢 楽しかったんだよなぁ。

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滝沢秀一

──これまでの人生では味わったことのない高揚感でしたか?

滝沢 そうだね。予選もそうだけど、決勝トーナメントでも1回戦より準決勝、準決勝より決勝ってどんどんおもしろくなっていった。みんなにとって初めての大会だから、最初は探り探りだったんですよ。

──観てる側もずっとワクワクしてました。実力も伯仲していたし、大会の雰囲気的にも誰が優勝してもおかしくない空気感があって。

滝沢 そうだね。決勝も俺たち以外の7組は全員優勝を狙ってたんじゃないかな。

西堀 誰が優勝しても「えー?」ってならない感じだったじゃないですか。裏を返すと、ずば抜けたヤツがひと組もいないってことだけど。ずば抜けたヤツはとっくに『M-1(グランプリ)』獲ってるもんね。

滝沢 俺、大会前はジャルジャルが優勝するような大会だと思ってたんですよ。あと、こういうのって磁石あたりがうまいことやりそうじゃないですか。

──確かに(笑)。

滝沢 それが蓋を開けてみたら、超新塾がジャルジャル倒して、COWCOWさんにまで勝つでしょ。当初は、考えられなかった(笑)。そういう意味では、人の闘いを観てても興奮しましたね。みんなすげぇな!って。うちらもガクテンソクに勝てるなんて夢にも思わなかったし。ましてやランジャタイなんてな?

西堀 こないだまで『M-1』に出てた活きのいい漫才師に勝てるとは思えない。芸歴だって10年も違うんだから。でもこうやって「いい大会だったなー」って振り返ることができるのも、たまたま決勝でネタやらせてもらえたからですよ。もっと早い段階で負けてたら「クソみたいな大会だったな!」ってグチッてただろうな(笑)。

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西堀亮

賞レース初の“時間稼ぎ漫才”の真相

──決勝の漫才で西堀さんが「ネタがないのにここに立ってるメンタルってすごくない?」と言っていました。ほぼ丸腰でゴールデン帯の賞レース決勝に立つのは確かにすごいです。

西堀 あのセリフが一番沸いてましたね。ネタに入ると笑いがしぼむ、しぼむ(笑)。全部その場のアドリブでやったほうが、お客さんもスッキリ見られるのはわかるんですよ。ずっとテキトーにしゃべってたところに、用意してきたネタを見せられても冷める。それはわかる。でもそれじゃ6分は持たないんです。丸腰で6分立っていられるほどの実力も度胸もないですから。

滝沢 たぶん、俺のネタの振り方がヘタなんでしょうね。もっと自然に振っていれば、アドリブとの差も目立たなかったかもしれない。

西堀 それはそうだな(笑)。

──ネタに行きたがる滝沢さんと、時間を気にしてアドリブを引き伸ばそうとする西堀さんの対比もおもしろかったです。

西堀 時計をかなり気にしてたから、滝沢が振ってるのに気づけない瞬間もありましたね。もうずっと時計見てましたよ。「まだ2分か……」なんて思いながら。

滝沢 ある程度組んでた漫才が終わったとき、まだ4分半しか経ってなくて。だけど、5分以上はやらないと減点されるから、そこからは時間を埋める作業だった。

西堀 あのときは本当に根っこからパワー使ったよな。

滝沢 たぶん、賞レース初ですよね、ただただ時間を稼ぐ漫才(笑)。

──その根っこからパワー使ってる必死さは、テレビの画面を通しても伝わりました。『M-1』の完成された漫才を観るのとはまた違うおもしろさでした。

西堀 結果的に毛色の違う大会になってよかったよね。

滝沢 まぁ俺らはネタがなかっただけなんですけどね(笑)。逆にいうと、4分間に詰め込んだ漫才なんて覚えられないですよ。

──作れるかどうかじゃなくて、そもそも覚えられない。

西堀 そうだね。決勝が決まっちゃったから、滝沢がノート引っ張り出してきて「これとこれとこれ、やろう」って言うんだけど、「急にそんなに覚えらんないよ!」って言ったから(笑)。

──ネタ自体は昔からあったものですよね。

西堀 昔からあったとはいえ、さすがに本番前に一回くらいやっておきたいもんなんですよ。本当は前日のライブで試す予定だったんだけど。

滝沢 俺が前日に喉やられちゃって。寝て治すしかないってことで、ライブを休ませてもらってたんです。でもまぁ、そんなの言い訳にならないか。決勝が5月なのはわかってんだから、その前からやっとけって話だ(笑)。

西堀 仕込んでたネタが2、3個あったから、せめてあれをできてれば……。

滝沢 時間は埋まったよな!

──「勝てた」じゃなくて「時間が埋まった」と言うのがマシンガンズらしいですね。

西堀 いや、だって冷静に考えてくださいよ。我々が賞レースで勝てるわけないんですよ。実際、審査員は最後に「これは漫才の賞レースだ」って思い出して、ちゃんとネタやったギャロップを評価したし、俺らは決勝トーナメントの最低点を叩き出した(笑)。本当にお笑いを知ってるお客さんが審査員なんだなと思いましたよ。

マシンガンズ

お祭りが終わって寂しい

──『THE SECOND』は、打ち上げも楽しそうでした。出場された芸人たちがほとんど集まっていましたね。

滝沢 楽しかったですねー。(スピードワゴンの)小沢(一敬)さんのおかげですよ。もともと打ち上げの予定なかったのに、小沢さんが声かけたらあれだけ集まって。みんな小沢さんに吸い寄せられてました。

西堀 でも、みんなおじさんだから出てきた肉を全然食えない(笑)。

滝沢 ほんとにびっくりした。

西堀 滝沢だけはよく食べてたよなぁ。

滝沢 俺は食べるし、飲むよ。

西堀 みんな「滝沢さんは若いな〜」って羨望の眼差しで見てた。

滝沢 「カルビ食うとるやん! すごっ! 若っ!」って肉食ってるだけで褒められる(笑)。

西堀 お前も46歳になるのに、あんなに肉食べてて俺は誇らしかったよ。あとさ、打ち上げで忘れられないのが、超新塾のサンキュー(安富)の「金とかどうでもいいから、毎日こうやって暮らしたいな〜」って言葉なんだよ。

滝沢 そんなこと言ってたの? いいねぇ、芸人だねぇ。

西堀 楽しくネタやって、終わったらみんなで酒飲んで毎日過ごしたいって。かといって、そのために努力はしたくないって(笑)。

滝沢 芸人のはしりは、そんなもんだっていうよな。河原で暮らしてるヤツが、家を訪ねて芸見せてもらった金でその日暮らし。

西堀 そうなんだよ。だからサンキューが言ってること、なんかわかるなーって思った。

滝沢 『THE SECOMD』は本当に祭りだったなー。

西堀 うん、まぁ。あくまでも祭りだからパッとやってパッと散るんだけどね。祭りやるとみんな仲よくなっちゃうから、終わるときは少し寂しくなってね。

滝沢 囲碁将棋とか、普段会えないもんな。

大会に出たら、ネタを作りたくなった

マシンガンズ

──もし来年も祭りが行われたら参加したいですか? ちょっと前は「ネタもないからもう出ない」と言ってましたが。

西堀 うん。最初はもう出なくていいかなって思ってたけど。ちょっと心境の変化あるよね?

滝沢 あるねぇ。なんならネタ作ってもいいなと思ったからな。漫才協会に入って、浅草(東洋館)にも出ることにしたんでネタ作っていこうかなと。やっぱり『THE SECOND』で漫才やってみておもしろかったんで。

西堀 不思議なもんだよね。大会に出たら、ちょっとやる気が出てきた。

滝沢 単純に今までは目標がなかったのかもしれないな。なんのためにネタやるのか、わからなくなってた。芸人だからネタをやるのは当たり前なんですけど、モチベーションがなくなってた。

──長くつづけているとそういう時期もありますよね。

滝沢 コロナのとき、ライブにまったく出なくなったんですよ。だから、急にテレビ収録が決まったときだけ慌ててネタを作るようになって。そうすると当然うまくいかないんです。これはよくないなと思って、月に1~2回ライブ出るようになったけど、これもしんどいんですよ。

──どういったしんどさですか。

滝沢 いつオファーが来るかわからないネタ番組のために、新ネタ作って毎月ライブに出るのは、なかなかつらいんです。モチベーションがつづかない。でも、毎年決まった時期にでかい祭りがあるってわかってたら、そのために新ネタ作るのは楽しいかもしれないと思った。

西堀 わかるわかる。あとさ、スピードワゴンさんの存在は大きいよね。

滝沢 そうだねー。

西堀 あれだけ活躍してる人たちが、俺たちと同じ条件で漫才やるってやっぱりすごいよ。本当に漫才が好きじゃないとできないと思う。

滝沢 あれだけ忙しくてもネタ作りつづけてるわけだもんな。

西堀 吉本だったらシステム的に劇場の出番があるから作らざるを得ないんだろうけど、スピードワゴンはホリプロでしょ? 別にお金にもならないのに、自力でライブを開催して漫才をつづけるのは、心底、漫才が好きだからですよね。そんなふたりの漫才を見てたら、俺たちももうちょっとがんばってもいいかなって気になってきた。

──マシンガンズのネタへの思いが再燃する大会となったんですね。

西堀 でも、どうなんですかね。我々は極限までメタ系の漫才やったじゃないですか。でもそれって大会の一回目だからハマったと思うんですよね。大会の趣旨が固まらないうちに、反則スレスレの漫才したからウケただけというか。来年あったとしても、俺たちどんな顔して出ればいいのか。

滝沢 「ネタ作ってきたぞー!」って宣言するか。

西堀 ネタ作ったとたん、全然ウケなくなったら怖いな!

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これまでの芸人生活について振り返った後編インタビューは6月17日(後編)に公開予定です。

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安里和哲

(あさと・かずあき)ライター。1990年、沖縄県生まれ。ブログ『ひとつ恋でもしてみようか』(https://massarassa.hatenablog.com/)に日記や感想文を書く。趣味範囲は、映画、音楽、寄席演芸、お笑い、ラジオなど。執筆経験『クイック・ジャパン』『週刊SPA!』『Maybe!』..

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