呪縛から放たれたニューヨーク「今以上に何があるんだろう?」テレビでの活躍から目指す場所

2023.6.19

文=てれびのスキマ 撮影=長野竜成 編集=梅山織愛


2021年4月に発売された『芸人雑誌 volume2』(太田出版)「“2021年の顔”あるいは予言として」で、表紙を飾ったニューヨーク。同年「好きな芸人ランキング」でも1位を獲得し、もれなくそれは“事実”となった。

今ではゴールデン番組でもMCを務めるなどその地位を確立。さらに、彼らのYouTubeで取り上げた後輩・同期芸人が話題なることも。そんな次のステージに向かうニューヨークにブレイク前後での変化、そして改めて気がついた芸人としての核を聞いた。

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嶋佐和也(しまさ・かずや/1986年5月14日生まれ、山梨県出身)と屋敷裕政(やしき・ひろまさ/1986年3月1日生まれ、三重県出身)によるコンビ。2019年の『M-1グランプリ』で決勝初進出。2020年には『キングオブコント』でも決勝に進出し、準優勝。『文春オンライン』による「好きな芸人ランキング」では2021年より2年連続で1位。

芸人でありつづけるための芯

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ニューヨーク(左:嶋佐和也、右:屋敷裕政)

──以前、単独ライブを開催した際は「このスケジュールでどうやって単独ライブのネタ作るんだ」とキレてたと話されるほどしんどかったそうですが、今回の準備は順調ですか?

屋敷裕政(以下、屋敷) 一番ヤバかったのは一昨年ですね。去年はマネージャーもスケジュール感をだいぶわかってくれた感じで。でも、結局バタバタしたんで、今年はもうちょい余裕持ってやれたらええなと思ってますけど。あと2カ月くらいで週1~2回スケジュール空けてもらってネタ合わせしているので、こっからっすよね。

嶋佐和也(以下、嶋佐) そうっすね。毎回なんやかんやでギリギリになるし、今回もなりそうな気はしますね。今年もなんとか仕上げて無事にできたらいいなって感じっすね。

──ものすごく忙しいなか、毎年単独ライブを欠かさずやっている理由は?

屋敷 いろいろ理由はありますけど、一番は、テレビはいろんな方々に携わっていただいてみんなで一緒に作っていくものなんですけど、単独は僕らと作家さんだけで全部やれるんで。そういう自分らが100%おもしろいと思えるものをそのまま見せられる環境がないと、なんか変な感じになりそうというか、バランスが崩れそう。テレビのレギュラー番組とかYouTubeの再生回数はやっぱ流動的なところがあるんで、逆にこれさえしっかりやっときゃ、まあ、大丈夫なんじゃないかっていう思いもありますね。

嶋佐 あとはやっぱダイレクトに感じられるっていうのはありますね。お客さんに生の舞台で直接僕たちのネタをたくさん見てもらえる。僕たちもお客さんが僕たちのためにこんだけ集まってくれるんだっていうのを直接感じられると、やっぱりうれしいし、張りが出る。そういう年に1回の機会がないと張りがなくなりそうなんで本当にやるべきだと思いますね。

──忙しくなった実感を感じたのはいつごろからですか?

屋敷 まあまあ、昔から休みはあまりなかったですけどね。

嶋佐 2020年くらいからは特に。

屋敷 2019年に『M-1(グランプリ)』で決勝行って、2020年に『キングオブコント』準優勝して、忙しくなったというより、仕事の種類が変わってきた感じですかね。なんかテレビ局に行くのが普通になってきて、逆に芸人に会う頻度がちょっとずつ減ってきた。ダラダラ芸人と一緒におる時間が少なくなってきましたね。

嶋佐 確かにな。みちょぱとかゆうちゃみとかジャニーズの方とか。たまにそいつどいつとかと一緒になると、すごい久しぶりって感じがしますもんね(笑)。

──そういう状況はブレイク前と比べて楽しいですか?

嶋佐 仕事は楽しいっす。

屋敷 確かに芸人とダラダラしたり、次の日夕方からやからむちゃくちゃ飲んだりとかはなくなっちゃいましたね。だからほかの芸人のニューラジオとかを聞いていると、めちゃくちゃ飲んでて羨ましくなることはあります。でも、仲のいい人たちと一緒にロケに行ったりすることはちょいちょいあるんで、今も楽しいですけどね。

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賞レースは呪縛

──賞レースがブレイクのひとつのきっかけになったとは思いますが、昨年は出場しませんでした。おふたりにとって賞レースはどんな位置づけなんですか?

嶋佐 それこそブレイクのきっかけになったものって感じですね。

屋敷 でも昔はとにかく出たかったっすね。決勝の舞台に立たな話にならんと思いながらやってました。だから呪縛になってた部分もありました。一回もう意識するのやめようって活動した年に決勝に行けて、やっぱり決勝に行ったら仕事が増えた感じはあるんで、呪縛っすね。全然仕事がない若手の子らにアドバイスを求められたら、結局「賞レースが一番大事やったから」って言っちゃう気はします。でもそれってすごい残酷やから。本当はいろんな可能性があっていいとは思いますけどね。

──屋敷さんはお母様に誕生日プレゼントに何がいいかを聞いたら「『キングオブコント』の決勝に行ってほしい」と言われたというエピソードが印象的です。

屋敷 ああ、あったなあ(笑)。確かそれが準優勝した年っすね。だからすごく喜んでくれたし、たぶん、いまだに出てほしいと思ってそうですけどね。やっぱみんな好きっすよ、戦いが(笑)。

──今後出る予定は?

屋敷 いやまあ、今年はたぶん出ないですね。いろいろ思うところがあります、それに関しては。ネタがないから出んっていうわけでもないんで。

お笑い界の世代交代

──おふたりは「売れなかったら解散したかも」というようなことをおっしゃっていましたけど、売れたことでコンビの関係性は変わりましたか?

嶋佐 まあ、よくはなりました。結局、仕事をいっぱいいただけると、いろんなことをやらなきゃいけないし、モヤモヤした時期から比べると自然と良好になっていきましたね。

屋敷 単純に毎日仕事をしてるとおもしろくなりますね。

嶋佐 あとはやっぱちゃんと生活できるってのも大事だと思います。心の余裕も出てくるから。

──先ほどおっしゃっていたように仕事の種類が変わって見る景色も変わってきたと思いますが、最近のバラエティ番組自体に何か変化を感じることはありますか?

屋敷 もう完全に知り合いが増えましたね。だいぶ出ている芸人の世代が変わったんじゃないかと思います。普通にチョコプラ(チョコレートプラネット)さんとかかまいたちさんとかの世代が特番やゴールデンのMCをやるようになってきたなという印象がありますね。

嶋佐 お笑いブームなんだと思いますね。ネタ番組がいっぱいあった時代とは違いますけど、いろんな番組に芸人がいっぱい出ているんで、実はめっちゃブームなんだと思います。

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──YouTubeでは屋敷さんが「大ドキュメンタリー時代」とおっしゃっていましたね。

屋敷 YouTubeとかで自分のチャンネルを持って、いろんな部分を見せられて発信できるようになった。だから、たとえば『M-1』でいえば、決勝の漫才を楽しむというのが俺らが学生時代の『M-1』やったんですけど、今は予選から、その人が受かる・落ちたで、そのときの喜びの声とか全部合わせて楽しんだりする。それは『M-1』に限らず、その芸人の成長していく様を追いやすい時代。だから、ファンというよりはサポーターのようになっている感じはしますね。

嶋佐 そういうトーク番組も多いっすよね。『あちこちオードリー』(テレビ東京)とか。裏話をしゃべるみたいな。YouTubeでもあのときこうだったみたいな話はやっぱおもしろい。

屋敷 あと俺らのYouTubeチャンネルで、よくそういう芸人のいざこざみたいなことを取り上げてライブとかにすると1万枚売れたりするっていうのもおもしろいなって思いますね。

──まさに「ザ・エレクトリカルパレーズ」にしても「東京15期未解決事件」にしてもおふたりのジャーナリズム精神を感じます。

屋敷 まあ作家さんがそっち寄りっていうのもありますけどね(笑)。俺らも好きは好きなんで。自分のことを棚に上げると、やっぱ芸人になった時点で、普通の人生からするとだいぶヘンじゃないですか。俺は田舎育ちなんで、同級生で芸人になったやつなんていないですから。人生の選択肢の中で芸人を選んで、今に至っているっていうだけで、だいぶその人に興味はありますね。

嶋佐 売れてる・売れてない関係なしに、生い立ちとか芸人になってからの相方の関係性とか、みんな漏れなくおもしろいですよね。聞いていて飽きない。

NSC東京校17期生の中に存在した「エレパレ」に迫ったドキュメンタリー

──今やたくさんの後輩から慕われる存在になっていると思いますが、東京吉本の生え抜きとして引っ張っていこうみたいな意識はありますか?

屋敷 引っ張っていくというよりは、俺らの番組に来てくれたりするっていうのはちょこちょこあったんで、そういう機会が増えればいいなと思いますね。たとえば、尊敬しとったり、おもしろいと思ってる先輩の番組に呼ばれたときって後輩もがんばろうって思うじゃないですか。そういう先輩でありたいなって思いますね。この人におもんないと思われたくないという先輩になりたい。そういう人の番組のほうがおもしろい番組になるんやろうなって最近思ってるので。

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『キングオブコントの会』のすごさ

──最近うれしかった仕事は?

嶋佐 うーーーん、うれしかった仕事……。

屋敷 何ひとつ覚えてないっすよ、嶋佐は(笑)。

──『ラヴィット!』(TBS)でオアシスを歌ったときの反響はスゴかったですね。

嶋佐 ああ、びっくりしましたね。歌うのってちょっと恥ずかしいし無駄に緊張してたんですけど、あんなに反響があったのは予想外でしたね。あれはうれしかった、じゃなくて、びっくりした仕事ですね。

屋敷 僕は『キングオブコントの会』(TBS)がうれしかったですね。

嶋佐 あー、それだ!(笑)

屋敷 自分らが書いたネタをスゴいメンバーでやってもらった。ネタを作ってるときは別に何もうれしいという感じではなかったんですけど、いざ収録ってなったときに、自分が考えたネタがそのまんまかたちになって、衣装をみんなが着て、こっちのほうがおもろいっすねみたいなことを言いながらやってるのが幸せでしたね。

嶋佐 超豪華なセットで、超豪華なメンバーで、ね。

屋敷 スタジオでみんなで観るときは緊張しましたけどね。あれ、だいぶしんどいっすわ(笑)。

──嶋佐さんは演者としてたくさんのコントにも参加されていましたね。

嶋佐 そうっすね。あれも楽しかったっすね。本当に好きな超一流の方が書いたコントに呼んでもらって、それを純粋に演じるっていうのでテンションが上がりましたね。しかもそれを松本(人志)さんが観てくれて。

屋敷 書いてもらったコントをみんなでやるユニットコント番組ともちょっと違う感覚でしたね。自分らで考えて、それをめっちゃ金かけてやってるっていうのが新鮮でした。また出たいっすね。

──テレビで活躍するようになって目指す場所は変わりましたか?

屋敷 昔「テレビに出てもライブは出つづけたいですか?」って聞かれたときに、「テレビに出てみなきゃわからない」って答えてたんですけど、今テレビにちょっと出させてもらえるようになったら、やっぱ単独ライブとかもしっかりやりつづけたいなって思うようになりましたね。こっから先もたぶん単独はやってたほうがいいし、やってたいなと思いますね。

嶋佐 なんすかね、いろいろやらせてもらって今以上に何があるんだろうって感じはします。もう一個この先に何かあるのか、それがなんなのかっていうのを楽しみにしている感じですね。

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  • 「虫の息」

    『ニューヨーク単独ライブ「虫の息」』

    ■<名古屋>名古屋市芸術創造センター
    2023年7月12日(水)18:00開場/19:00開演
    ■<福岡>よしもと福岡 ダイワファンドラップ劇場
    2023年7月22日(土)①12:00開場/13:00開演 ②16:00開場/17:00開演
    ■<大阪>梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
    2023年8月5日(土)①12:00開場/13:00開演 ②16:00開場/17:00開演
    2023年8月6日(日)①12:00開場/13:00開演
    ■<北海道>共済ホール
    2023年8月11日(金・祝)①12:00開場/13:00開演 ②16:00開場/17:00開演
    ■<東京>東京芸術劇場 プレイハウス
    2023年8月17日(木)18:00開場/19:00開演
    2023年8月18日(金)18:00開場/19:00開演
    2023年8月19日(土)①12:00開場/13:00開演 ②16:00開場/17:00開演
    2023年8月20日(日)①12:00開場/13:00開演 ②16:00開場/17:00開演

    チケット価格:前売5,000円(税込)

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てれびのスキマ

1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。

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