秋元康の偉大な妄想力には、妄想力でしか太刀打ちできない
――その狙いあってか、海辺で、図書室で、LINEで……といろいろなパターンの告白のシチュエーションがありましたが、どう各メンバーに分けていったのでしょうか?
佐久間 実はそもそも、メンバーごとに当て書きしたんです。兼行(凛)は先生に告白しそう、川谷(花音)はLINEで告白しそう……みたいな感じで。むしろ、知ってるメンバーだからこそ、想像しやすくて自然と書けた部分もありますね。
松本 あと、すべての告白に成功と失敗を決めていったんです。それ決めているときが一番盛り上がりましたよね(笑)。
佐久間 こいつはフラれる、こいつは成功する……とかね。ひどい話ですよ本当に。
――松本監督のお気に入りのシーンはありますか?
松本 大曲(李佳)さんの図書室のシーンが好きですね。絵的にもいいし、大曲さんの演技も相手役の姜くんの佇まいもよかった。
佐久間 映画『花とアリス』でヒロインふたりに好かれる郭智博くんに、姜くんが醸し出す雰囲気が似ているんですよね。だからってわけじゃないですけど、あのシーン、岩井俊二感があるんですよ。映画『Love Letter』にも図書室が出てきますしね。
――基本的には佐久間さんの書かれた字コンテをもとに松本さんが絵コンテにして膨らませていく形で作られたそうですが、松本監督のアイデアを入れ込んだ部分はありますか?
松本 MVの後半に告白する瞬間のラッシュがあるのは、僕の案ですね。告白する瞬間は見せないほうがオシャレかも……と撮影前は話してたんです。でも、実際に撮影しているうちに撮りたくなって。
佐久間 だから、ショートバージョンのMVには“告白ラッシュ”が出てこないんです。本当は、ショートバージョンでも意味がわかるものを作らないとなんですが(笑)。
――佐久間さんが演技を見てグッときたシーンはありますか?
佐久間 みんな本格的な演技は初体験でしたけど、ガールズラブ告白のシーンで、前川(歌音)はうまいなあって思いました。
松本 あのシーンは僕も時間をかけて演出しました。台本をしっかり読んでもらって、実際にセリフも言ってもらって。実体験のないものは本人たちも想像しづらいと思ったので、感情をつくっていきました。そもそもMVではセリフが音楽にかぶさって聞こえないから言葉がない分、絵だけで、演技だけで見せなきゃいけないから難しいんです。
――ガールズラブのシチュエーションはもちろん、LINEでの告白があったのにも現代性を感じました。
佐久間 ほかのシチュエーションは、“ノスタルジーの中の青春”って感じですからね。青春高校の生徒たちが完成したMVを観ていて一番盛り上がったのは、LINEでの告白シーンでした。あれが10代のリアルなんじゃないですか。
松本 LINEでの告白の文面は、実際にあのシーンに出演している川谷さんに作ってもらいましたもんね。
佐久間 LINEで「好き」って書いて、送れなくて消しちゃう……とかは“あるある”らしいですよ。
松本 “あるある”の話で言えば、現代的にはなさそうで却下した “下駄箱にラブレターを入れる”案がありましたね。
佐久間 もう、岩井俊二の『ラストレター』の姉妹みたいな子はいないんですかね……。ギリギリ、クラスの中の回し手紙はあるらしいですけどね。授業中はスマホが使えないことの代替として。
――多少の時代感の差はあるにしても、佐久間さんの妄想力はすごいですね。
佐久間 秋元康さんの偉大な妄想力に立ち向かうには、こっちも妄想でいかないと太刀打ちできないんですよ! 50代で『ポニーテールとシュシュ』を書ける男ですからね! もちろん本人たちにヒアリングして作ることもできましたが、リアルを描いたからといってうまくいくとは限らないですから。
――演じる本人たちは、自分たちの告白の経験のリアルを反映させたりしたんですかね?
佐久間 メンバーの子たちに「告白をしたことがあるか」って聞いてみたんですけど、ほとんどの子が「実際に告白をしたことはない」って言ってました。そもそも、青春時代を謳歌してない・しなかったって思ってる子たちが青春高校に参加してるんですよ。だから今が一番楽しいんじゃないかと思います。「MV撮ってもらえるなんて夢みたい」って言ってましたし……思い返すとやっぱり企画モノにしなくてよかったです。