森田美勇人「写真には自然と思いが詰まっている」初めてカメラを使ったロサンゼルスひとり旅の思い出

2023.4.15
森田美勇人

文=新 亜希子 撮影=山口こすも 編集=梅山織愛


5月25日(木)に発売される森田美勇人によるフォト&エッセイ『日常』。本書には2022年5月より森田が撮影・執筆を行ってきたQJWebでの連載「QJWebカメラ部」の写真とエッセイが収録されるほか、新たに取材を行った1万字以上のロングインタビュー&撮り下ろし写真が掲載される。

本稿では、写真を撮り始めたきっかけやクリエイティブに関する考えが垣間見えたインタビューの一部を公開する。

写真を撮るのは自分の心が動いたとき

森田美勇人
『日常』未掲載カット。実際に使用しているカメラと共に撮影を行った

──写真を撮り始めたきっかけは?

「なんだろう?」って改めて考えてみると、「写ルンです」で撮り始めたのがきっかけだったと思います。僕はあんまりトレンドに詳しくなくて、再流行していることも知らなかったんですけど、今思えば、そのときブームだったから売っていたんでしょうね。

デザインすることが当時から好きで、自分で撮った写真を使って、趣味でTシャツを作っていたんです。そこから、服のデザインを本格的にやるに伴って、もっと素材を集めたいなと。

そう、僕は洋服も好きなんですよ。服も靴も、山のようにあるんです。それを雑多に出して、集まったカラフルを適当に撮って、Tシャツに落とし込むみたいなことをやっていたら、なんとなく写真を始めていました。だから「写真を撮ろう!」と思って始めたというよりは、デザインや、それに関するものを撮りたかったっていう感じですね。

──森田さんの世代なら若いころから携帯電話も身近なモノだったと思うのですが、それで写真を撮ることは?

学生のころから携帯電話ではあんまり写真を撮らなかったですね。今も日常はほとんど撮らないんです。ご飯屋さんでの料理とか、どこどこ行って、みたいなものを収めたい気持ちはあまりなくて、写真を撮るのはあくまで「仕事に活きるものを」という考えですね。

──現在愛用しているカメラを買ったとき、最初に何を撮ったか覚えていますか?

何年くらい前かな、ロサンゼルスにダンス留学に行ったことがあったんです。自分で行きたいと思って行ったんですけど、初めてのひとり旅、初めてのひとりでの海外、これはさすがに写真に収めたいなと。

ベタに「ルート66とか行って、荒野の中を走りたいな」と思っていたんですけど、ひとりだしツテもないので、最初は街並みを撮っていました。新鮮だなって満足していたんですけど、たまたまそこで、ダンスの舞台をやっていたんですね。観に行ってみると、舞台を撮っているカメラマンさんが日本人だったんですよ。そこで知り合って2日後にはその人とルート66に行って、デスバレーに行って……。本当にすごかったです。荒野があって、現地の方の集落にも巡り会えて、そこでワーっと撮りましたね。

──カメラに収めただけではなく、記憶にもしっかりと残っているようですね。

収めたいと思う瞬間って、自分の心が動いたときというか。そういうときにシャッターを切りたいと思うことが多いので、自然と思いが詰まっているんです。撮ることに夢中になっても、ちゃんとその風景を見ているし覚えている。

それこそ、デザイン的な感覚に近いんですよね。「写真に収めておきたい」というよりかは、その空間にあったことを「集めたい」みたいな気持ち。撮ることにすごく集中しているのではなく、「この空間をコレクトしたい」という気持ちで撮っていますね。だから、見返すことも多いです。「あのとき、こういう空間で自分は過ごせていたな」って確認しているんだと思います。

──ロスでの写真は、実際にデザインに使ったんですか?

あんまり自分の集めたものを人に披露したいっていう気持ちがなかったので、自分の趣味でやりました。だけど、自分にとって大事な肥やしになったかなと。アウトプットするときの材料として、自分の中ではすごく貴重なもの。それに、僕はダンスがすごく好きだから、写真は「ダンスにおける引き出し」という感覚もあるんです。

森田美勇人

東京について綴った連載初回

──2022年5月より「QJWebカメラ部」の一員となり、森田さんの「引き出し」である写真と言葉を世に出すことになりました。最初はどういう思いでしたか。

だいぶ緊張しましたね。連載のお話をいただいたのが、インスタグラムを始めて1~2カ月ぐらいのころで、ちょうど写真を「人に見せるもの」として意識し始めた時期だったので。そんな僕が「写真好き」としてカメラ部に入るのは……と思っていました(笑)。

それに僕は基本的に「需要」というものを考えていないところがあるんです。ただ人に伝えたいこととか、世の中で気づいたこと、そういうものが自分という存在を通して、いろんな人の感性に響けばいいなと思うだけ。こういう世の流れの中で、自分はこういう存在でいます、みたいなことを素直に感じたまま伝えようとしているだけなので、それで大丈夫なのかな?って。

──連載を開始してから写真と共に言葉を綴るのはどういった感覚でしたか。

自分をさらけ出す感覚だったので、恥ずかしい気持ちが大きかったです。僕のことを知らない方も観てくれる環境ですから、「第1回、何から書いたらいいんだろう?」って。「自分が何をしてきたのか」ということを説明しなきゃと思いつつ、僕がカメラマンであれば写真で語れるだろうから話は早いんですけど、そうじゃないし、文章もあんまり書いたことがない。だから、まずは自分の存在と、自分が存在しようと思っている理由をちゃんと伝えようとしたのが第1回でした。

──載せたのは、夜の東京の写真でしたね。

はい。東京について語りました。僕は東京生まれ、東京育ちなので、自分にとって一番身近なものかなと。最も自分を説明しやすくて、なおかつ好きな情景を題材にして、まず話したいなと思ったんです。

──東京生まれであることは、森田さんのアイデンティティみたいなもの?

そうですね。アーティスト仲間や友達に福岡出身の人が多くて、僕はやたら「シティボーイ」って言われるんですよ(笑)。いや、自分ではそういう認識はなかったけど、ほかの人から見ると東京生まれというだけでシティボーイなんだなぁ、自分の当たり前と人の当たり前って違うんだなぁって、気づいたきっかけでもありました。そもそも、シティの中でもだいぶ自然派ですけど?とは思いつつ(笑)。

僕を「シティボーイ」と呼ぶ皆さんが感じているものと、僕のシティでの生き方はだいぶ違うと思うし、福岡には福岡の自然があるように、東京には東京の自然があるよなって思うんです。だから初回は、僕が自然だと感じているものを、東京代表の自然派として話してみようかなと。東京への偏見、たとえばコンクリートジャングルや雨の日の反射、多過ぎるテールランプとか、そういうものが僕の中では自然だし、それが好きだなと思って書きました。

森田美勇人

──初期のころと比べて、連載での成長や変化は感じますか?

本当は成長していたいんですけど、あんまり感じないんですよね。約1年間、連載をやらせていただくなかで、目に入るものはあまり変わってないかもしれない。ただ、そこに春夏秋冬それぞれの時間があって、その流れの中で感じているものはありますし、収めるものが変わったところはあるかもしれないです。

──変わったというのは、自然体に身を任せているがゆえのごく自然な変化なのか、あるいは連載を通して視野が広がったのか。

どっちもありますね。需要と供給じゃないですけど、飽きられないようにしなきゃなっていう感情もあるし、だからといって無理に自分からかけ離れたものを撮っても、結果としておもしろくないものになる可能性もあると思うし。これは、人と関わるときと同じですよね。見てくれる人がいる以上、人間関係で心がけていることをそのままカメラでやればいいかなと思うんです。日々、前に進まなければ関係は長くつづかないだろうから、そのスタンスは心がけていますね。

トレンドに対しての考え方

──自身の「需要と供給」については、連載でも綴っていましたね。

書きましたね。僕の性格なのかな。流されたいわけでもないけど、かといってすごく逆らいたいわけでもない。ただ、あえて逆らうことで生まれるものも時にはあるとは思っていて、それってたぶん、逆らっているというより、流れを大きくするためのひとつの衝突みたいなものなんですよね。そういうエネルギーも必要だと思う一方で、0から1を産み出すにあたって、極端に「斬新なことをやりたい」と思っているわけでもないです。世の中に、すでにあらゆるものがいっぱいある中で、「これ、まだやってないでしょ」って新しさや隙間を狙って何かを作ることはあんまりない。たとえば洋服を作るときには、自分が感じた矛盾とか、洋服が好きでファッションを楽しんでいる環境の中で感じた疑問がベースになっていますね。

──奇をてらいたいわけではないと。洋服作りのベースになっている、矛盾や疑問とは?

僕は「トレンド」というものがあんまりわからないし、それぞれが好きなものをチョイスすればいいっていう気持ちが根底にあるんです。トレンドを発信する世界にいる一方で、自分自身がそういうポリシーを持っていることに気づいたので、これは自分で発信をしたほうが、僕の中にあるつっかえもなくなるのかなぁって。

やっぱり、僕が服を選ぶ基準において、「踊る」という要素が占める割合は大きいんです。洋服や衣装を、「自分が表現する動きの延長線上にあるもの」として考えているなかで、「日常生活にも活用できて、なおかつ自分の一挙手一投足が美しく見えたらいいな」っていうところから、洋服を作ろうと思ったんですよね。

たとえば僕は、踊るときには絶対に白シャツを着るんですけど、その白シャツへの「こだわり」は、日常生活に落とし込めるんじゃないかと。白シャツが素敵なのか、自分が表現したいものや伝えたいものの延長線上に素敵な白シャツがあるのかって、違うじゃないですか。

──矢印が違いますよね。

そう。僕は後者の意図で服をまとうことが多いので、その感覚を人に伝えたいという想いがあるんです。そうするとやっぱり「トレンド」というものについて、僕の中で引っかかるところがある。去年着ていたものが古く見えてしまうのは、「何をもって古かったのか?」と思うんです。「自分の考えが古かった」という話ならいいんですけど、モノ自体を「古い」と定義するのは腑に落ちない。だから古着が好きっていうのもあるんですけど。

──時代を選ばないものですしね。

それに加えて、ブランドのコンセプトを体現していた時代、60年代70年代を純粋に感じたいという意味で着ているところもありますね。僕の場合、自分の好みを選べる環境がたまたま古着にあっただけで、それが新しい服の中にもあれば、もちろん買いたい。古いか新しいかに対してこだわりがあるかといったら、それもまたあんまりないんです。

『森田美勇人フォト&エッセイ「日常」』

森田美勇人

発売日:2023年5月25日(木)
予約開始日:4月3日(月)16時
予価:3,200円(税別/送料別)
仕様:B5判/48ページ
販売ページ:QJWebショップ(https://qjweb.myshopify.com/products/morita
発行:太田出版
※発売日や仕様などは変更の可能性があります

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    『森田美勇人フォト&エッセイ「日常」』

    発売日:2023年5月25日(木)
    予約開始日:4月3日(月)16時
    予価:3,200円(税別/送料別)
    仕様:B5判/48ページ
    販売ページ:QJWebショップ
    発行:太田出版
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新 亜希子

(しん・あきこ)エンタメ系ライター。音楽・アイドル・映画を中心に、インタビューやレポート、コラムやレビューを執筆。『シネマトゥデイ』『リアルサウンド』『日経エンタテインメント!』ほか。

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