佐久間宣行×藤井健太郎、新人を発掘するようになったきっかけとクロちゃんのおもしろさに気づいた瞬間
合同会社DMM.comが運営する動画配信サービス『DMM TV』。地上波では放送できない過激なコント番組『インシデンツ』を皮切りに、大スケールかつ過酷さ満載の脱出系ロケバラエティ『大脱出』が新たにラインナップに加わるなど、さらなるコンテンツの充実ぶりを見せている。
今回、『インシデンツ』と『大脱出』をそれぞれ手がけた人気プロデューサーの佐久間宣行と藤井健太郎にインタビュー。互いの番組に対する感想や番組作りにおけるプロセスの違いを聞いた。
佐久間宣行
(さくま・のぶゆき/福島県出身)テレビプロデューサーとして『ゴッドタン』や『あちこちオードリー』(共にテレビ東京)などの人気番組を手がける。2019年からはラジオ『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)のパーソナリティを担当。
藤井健太郎
(ふじい・けんたろう/東京都出身)2003年にTBSに入社し、『クイズ☆タレント名鑑』『テベ・コンヒーロ』などを演出・プロデュース。現在は『水曜日のダウンタウン』『クイズ☆正解は一年後』『オールスター後夜祭』などの演出を手がけている。
目次
番組の内容がカブることはない
──すでに親交のあるおふたりですが、ますます活躍の場を広げられているなかで、改めてお互いの印象をお伺いできればと思います。
佐久間 単純に藤井さんの番組は好きですよ。ほぼ全部観てるし。俺にはできないことたくさんやってるなって思いながら観てますね。
藤井 佐久間さんはいろんな枠を越えながら、現在のテレビ制作者を代表する人になってますよね。視聴率以外をあまり重要視してこなかったテレビ業界の中で、一部の人にであっても深く刺さる番組作りを大事にしてきた。それが時代にマッチしたことで高い評価を受けている。その点では、僕も同じ思いを持っていて。誰かがずっと好きになれる番組を作ることを大切にしているし、佐久間さんはその能力に長けた方だと思っています。
──同じ思いを持つ仲間であると共に、クリエイターとしてはライバル意識が芽生えることもあるのでしょうか?
佐久間 藤井さんをライバルって思ったことはないな(笑)。
藤井 僕も一度もないですね(笑)。
佐久間 マインドの面で近いところはあるけど、そもそも番組の作り方が違うもんね。
藤井 そうですね。僕と佐久間さんの番組が似てたってこともないですもんね。
佐久間 そうそう。番組を作っていると、意識してないのに偶然カブっちゃうってことはあるんです。ただ、俺と藤井さんの間にはそれすらない。
「ルール作り」と「お話作り」はマネできない
──お互いの番組を観るなかで、自分にはマネできないと感じるところはありますか?
佐久間 俺は藤井さんのマネはできないよ、ダウンタウンさんに会ったら緊張しちゃうし(笑)。好きなものの文脈も違うからね。俺は演劇とかアニメとかのカルチャーが好きなので、そういうものに必然的に寄っていくんですけど。藤井さんの場合は格闘技とかヒップホップとかだもんね。謎解きとかミステリーもそうかもしれない。
藤井 特に熱心に観たりしているわけではないんですけど、自分が作るときには謎解き風の要素が入ることが多いですね。
佐久間 多いよね。俺にはそれができないんですよ。俺の会議は「大喜利っぽい」って言われることがあって。大喜利の答えみたいなのばっかり言ってるんだって。論理的なルールよりも大喜利的なおもしろさを優先しちゃうからあとで苦しむんですけど……(笑)。藤井くんの番組はルールの設定が美しいんだよな、整合性があるというか。俺はおもしろさのためにルールを破壊しちゃうことがあるんですけど、それがあまりない。それはマネできないですね。
藤井 確かに毎週ルールを考えてますね。反対に、僕は佐久間さんのように「お話作り」をするみたいなことがほとんどないです。『ウレロ☆未確認少女』とか「キス我慢選手権」もそうですもんね。
佐久間 そうだね、大半はそういうストーリーがあるやつ。でも藤井さんが『水曜日のダウンタウン』でやってた「名探偵津田」はそうじゃん。
藤井 確かに、ちょっと「キス我慢選手権」っぽさがあるかもしれないですね(笑)。
佐久間 あれはダイアン津田(篤宏)のスケジュールを待ったのにも納得だね。
藤井 そういう瞬間ってありますよね。この企画はこの人にしかできないみたいな。
佐久間 もうその人でイメージが見えちゃったから打診するしかないみたいなね。俺でいうキングコング西野(亮廣)だな。劇団ひとりにめちゃくちゃにされても罪悪感を覚えない人が、どうやっても西野しか思い浮かばなかった。
配信番組ならではの新たな挑戦
──今回、佐久間さんが手がけた『インシデンツ』と藤井さんが手がけた『大脱出』。お互いの作品はおふたりの目にどう映りましたか?
佐久間 『大脱出』の1話目を観たときは、これからどんな展開にするんだろうなと思って。そのあと、2話目のクロちゃんパートである家電製品が出てきたときにすげぇワクワクしました。さすがだなって。ワクワクする要素と不穏な要素が散りばめられているところに、藤井さんの番組らしさを感じましたね。
藤井 僕は佐久間さんのコント番組『SICKS〜みんながみんな、何かの病気〜』(テレビ東京)がすごく好きで。『インシデンツ』は、それと似て非なるものではあるけれど、すごく近いものを感じました。今作はストーリー部分が本格的なので、そういう意味では集中して観ることが求められるから、テレビではなく配信に向いているとも思いましたね。全話観ないとわからないこともあるし。
──それぞれ、今回の番組作りはどういうところから始まったのでしょうか?
佐久間 最初は視聴者のターゲット層やほかの番組の並びがわからなかったので、8個くらい企画を持っていきました。その中に『インシデンツ』を入れてあって、選んでいただいたという感じです。
藤井 僕はクロちゃんを首まで埋めるっていうのはずっとやりたくて(笑)。でも、地上波には適合しなかったんです。今回は配信番組なので可能だということで、そこから肉づけしていって6話分の企画にしていきました。
──『インシデンツ』と『大脱出』において、新たに挑戦したことはありますか?
佐久間 ドラマみたいなコント番組って、同じシーンを何回も撮っていくので、ツッコミを入れると笑いづらかったりするんです。ただ、森田(哲矢)のツッコミならいいかなと思って。もちろん編集した部分もあるんですが、ドラマとコントの中間くらいを狙ったところのおもしろさがそのまま出せたのはよかったですね。
藤井 いろんな意味でテレビではできないことをやってはいるので、その点ではすべてが挑戦だったと思います。でも、番組の作り方としてはテレビの延長線上にはありますね。
「企画先行型」と「新キャラ引き出し型」それぞれのキャスティング
──キャスティングの絶妙さは両作品に共通するおもしろさだと感じました。
佐久間 きしたかの高野(正成)をここに使ってるんだっていうのには驚きましたね。俺はきしたかのがすごく好きで、『ゴッドタン』(テレビ東京)にも何度か出てもらったんです。でも正直、自分の番組でうまく使えた感覚がなくて。バッチリとハマる企画を用意できなかったんですよね。高野のエンジンがかかり過ぎていたことにも原因があるんですけど……(笑)。『大脱出』に出てきたときは「藤井さんが使ってる!」ってびっくりしました。
藤井 『水曜日のダウンタウン』で、「若手芸人、ドッキリ仕掛けられた怒りよりも水曜日のダウンタウンに出られた喜びが勝っちゃう説」という企画をしたことがあって。そのときに、まだ無名だった高野さんとザ・マミィの酒井(貴士)さんを使ってるんですよね。当時の僕はふたりのことをそんなに知らなかったんですが、今やドッキリスターになってますもんね。そう思うと、担当ディレクターのリサーチがしっかりしていたんだなと。
佐久間 確かにそうだね。
藤井 『インシデンツ』のキャスティングでいうと、僕は野呂(佳代)さんの役どころがすごい好きでした。
佐久間 その感想は本当にうれしい。野呂佳代を辛抱強く愛する人間として(笑)。
藤井 『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ)でも女優さんとしていい活躍をしてますもんね。
佐久間 昔、松丸(友紀)が産休に入ったときに、『ゴッドタン』のアシスタントを野呂と朝日(奈央)にやってもらったんだよね。ふたりには違うよさがあるからいいなと思ってたんだけど、すぐに朝日が売れちゃって。「差がついたね」って言われてた時期もあったみたいなんです。でも、『ゴッドタン』の「私の落とし方」っていう企画の1回目が野呂で、そのときに演じたコントがめちゃくちゃよかったんですよね。それで、コント番組をやるときは出てほしいと思ってたんだけど、ずっと機会がなくて。今回の「大家族のちょっといやらしいお母さん」という役どころは野呂しかいないなと思って、ようやく念願が叶いました。実際、バッチリだったので現場でセリフを増やしたりしもして。なので、そこを褒められるとすごくうれしいですね。
──おふたり共、番組を通じて出演者の知られていない魅力を発掘したいという意識はあるのでしょうか?
藤井 それは佐久間さんのほうじゃないですかね。僕はあんまりそこの意識はないかも。
佐久間 確かに、藤井さんは「発掘」って感じじゃないよね。たぶん、企画的に無名の人のほうがおもしろくなるときは、無名の人を使う。それがななまがりだったとか、そういうことじゃないかな。
藤井 そうです。あくまで企画先行ですね。「この企画に出てもらうとしたら誰が一番おもしろいか」っていうところから考えてます。派手めなドッキリだったら、しょっちゅうドッキリにかかってる人だと気づかれちゃうから、あまりかかったことのない人にしようとか。先に企画があって、そこに誰をキャスティングするか、そこのちょっと変わったチョイスを楽しんでいる感覚のほうが強いですね。
──佐久間さんには「発掘」の感覚があるんですか?
佐久間 ありますが、最初は必要に駆られてですね。なかなかテレビ東京にスターが出てくれなかったというところで。『ゴッドタン』の劇団ひとりとおぎやはぎも、ネタ見せの段階から会ってるんですよね。当時、テレビ東京には『やりすぎコージー』、その後継番組の『ざっくりハイタッチ』があって。吉本の芸人さんは主にそっちに出ちゃうんですよ。そうすると、吉本以外の芸人さんやタレントさんから新しいスターを輩出していかないと、番組のフレッシュさが保てなくて……。そのために発掘企画をやっていった結果、今も仕事をしている人たちと出会うことができたんです。
──おふたりがキャスティングしたくなる芸人さん、タレントさんに傾向はあるんでしょうか?
藤井 感覚だから言語化が難しいところもあるんですけど……。ただ、いろんな番組を観ているなかで、経験則的に「この人とこの人にこれを仕かけたらおもしろくなるな」みたいなのはわかりますね。「このシチュエーションだったらこういう動きをしてくれるだろうな」とかも。
佐久間 考えてみれば、クロちゃんってなんの企画から藤井さんの番組に出るようになったんだっけ?
藤井 クロちゃんは『クイズ☆タレント名鑑』(TBS)のころからちょくちょくおもしろい瞬間があったんです。でも、今の原型になっているのは『チーム有吉』(TBS)って特番ですかね。そこで初めて目隠しさせて、有吉(弘行)さんとおぎやはぎさんの3人と会話してもらったんですけど、そのときの返しとか、立ち回りに独特のおもしろさがあったんですよね。
佐久間 俺の場合は、ほかの番組で使われてない引き出しが見つかったときですね。たとえば番組を観ていて、「この人を怒らせてるシーンは見たことがないな」とか。川島(明)さんとか(博多)大吉さんがまさにそうでした。ほかの番組では「成立屋さん」を任されていることが多かったんですが、「こんなにたとえツッコミがうまいってことはキレたらおもしろそうだな」と思って、そこから企画を考えたりして。そんなふうに、俺の番組で新しい引き出しを開けてくれた人には、売れてるかどうかに関係なく次も声をかけたくなりますね。
おもしろいと思えば周囲との感覚のズレは気にしない
──番組を作るなかで、手応えを感じる瞬間はいつですか?
佐久間 視聴率とかに関わらず、番組を撮り終わったタイミングでわかるときもあるよね。
藤井 ありますね。「あんまりおもしろくならなかったな」とか。もちろん、ロケ中や編集時、スタジオ収録時、オンエア時など、タイミングごとに周囲の反応を見て手応えを感じる瞬間はあります。ただ、全部の反応が自分と同じかというとそういうことでもない。自分ではおもしろいと思ってるけど、スタジオでは全然ウケてないときとかもありますね。
佐久間 あるある。俺は自分で編集することもあるけど、ディレクターが編集してくれたものを確認するときもあって。自分が収録時におもしろいと思ってた感じとベクトルが違うときに悩みますね。
藤井 でも、周囲とズレちゃってマズイかなとかはあんまり思わないです。SNSの反応も見なくはないですが、反応がよくなかったからやめようみたいな考えはないですね。あまのじゃくなので、みんながあんまりだったっていう企画は逆にもっとやってやろうって思うくらい(笑)。
──根本的には近い考えがありながらも、番組作りの手法はまったく異なる佐久間さんと藤井さん。いつかおふたりがタッグを組んで、ひとつの番組を作ることもあるのでしょうか?
佐久間 それはなかなか難しいな……。
藤井 重なる部分がほとんどないですもんね。
佐久間 でも、俺以外の人ともできないでしょ? 俺はやったことあるけど、そのときも分担したんですよ。「お互いに口を出さない」って決めて(笑)。
藤井 確かに、全体をふたりで作るみたいなのはできないと思います。もしそういう機会があれば、パートで分けることになりそうですね。
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『インシデンツ』
DMM TVにて配信中
企画総合プロデュース:佐久間宣行
構成・脚本:オークラ
監督:住田崇
出演者:森田哲矢(さらば青春の光)/東ブクロ(さらば青春の光)/伊藤健太郎/ヒコロヒー/みなみかわ/林田洋平(ザ・マミィ)/酒井貴士(ザ・マミィ)/岩崎う大(かもめんたる)/筧美和子
國村隼ほか関連リンク
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『大脱出』
DMM TVにて配信中
プロデューサー:藤井健太郎
メインキャスト:バカリズム、小峠英二(バイきんぐ)
出演:クロちゃん
トム・ブラウン/岡野陽一/みなみかわ/お見送り芸人しんいち/高野(きしたかの)関連リンク
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