オカダ・カズチカ「簡単になれちゃった」王者から10年。結婚、子育てを経た変化

2023.1.9
オカダ・カズチカ

文=てれびのスキマ 撮影=須田卓馬 編集=梅山織愛


新日本プロレスが50周年を記念して入門希望者の一般募集プロジェクトを開催。年齢・身長制限を完全撤廃して行われる今回のプロジェクトでは、プロレス界の至宝、オカダ・カズチカが入門希望者を直接指導する。

今ではプロレス界を牽引する存在のオカダだが、自身はどのような新弟子時代を過ごしてきたのだろうか。下積み時代の苦労や先輩から学んだこと、さらに立場が変わるなかで変化した周囲の人々との接し方を聞いた。

オカダ・カズチカ
1987年11月8日生まれ、愛知県出身。新日本プロレス所属プロレスラー。IWGPヘビー級王座に何度も君臨し、同タイトルの連続防衛記録V12を達成している。2021年4月6日には、地元・愛知県安城市で東京オリンピック2020聖火ランナーを務めた。第6代IWGP世界ヘビー級チャンピオン。


まわりに支えられた下積み期間

オカダ・カズチカ

──まずオカダ選手自身の新弟子時代のことをお聞きしたいんですけど、中学卒業して高校進学せずに闘龍門に入門されたそうですが、高校進学は考えなかったですか?

オカダ・カズチカ(以下、オカダ) 足が早かったので、高校から特待生の話をもらっていたんです。でも陸上部には入らずに、そのままレスリング部に入ろうと思っていたんですよ。将来プロレスラーになるために。そしたら、そのレスリング部が廃部になったって聞いたので、それなら早くプロレスに触れたくて闘龍門に入りました。

──親御さんは反対されませんでしたか?

オカダ 1回だけですね。1回だけ、高校だけは行ってくれって言われたんですけど、そのあとはまったくなかったですね。

──実際に道場に入られて、15歳っていうとまだ子供だったと思うんですけど、いきなり大人の世界に入って戸惑いはありましたか?

オカダ 闘龍門は学校のような場所で、戸惑いっていうのはそんなになかったですね。ただやっぱり練習はキツくて、あんまりその時期の記憶がないですね。

──同期はだいたい年上?

オカダ そうです。みんな年上で、本当に家族みたいな感じでした。お兄ちゃんみたいな同期もいれば、もっと上の従兄弟のお兄さんみたいな感じの人もいて。でも、半年経ったころには、30人いた同期もほとんど辞めて8人になりましたね。ケンカっていうケンカもなかったんですけど、やっぱり僕が一番練習についていけなくて、いろんな人に迷惑をかけちゃいました。そんななかでも怒ったりせず、「がんばれがんばれ」って励ましてもらえたおかげで、こうやって今、プロレスをできているので感謝してます。そこで「お前、ふざけんな」って言われていたら辞めてたかもしれないですから。

──実際に辞めたいと思ったことは?

オカダ 1回だけありましたね。やっぱ練習があまりにもキツかったし、まわりはみんな楽しそうに高校に行っている。母親からは「いつでも帰ってきなさい」って言われていたんで、「もう辞めようかと思う」ってメールしたんですけど「あともう少しだけがんばりなさい」って返ってきて、おかしいなあって(笑)。でもそれからはもうなくなりましたね。本当に毎日、明日もがんばろうって言い聞かせながら寝てました。プロレスって不思議なんですよ。練習についていけているのに辞めちゃう人もいますし。僕の場合はメキシコに渡ってから、辞めたいという気持ちはなくなりました。

──それはどういったところで?

オカダ 闘龍門は当時、最初の半年間は神戸で基礎体力作りをメインにやっていたんです。そのあとメキシコに行って、やっとプロレスラーになるための練習を始められるんですけど、技の練習ができるようになって、楽しくなりました。神戸のころは、プロレスラーになる目標が見えなかったんですよね。それが、メキシコに行ったらプロレスデビューすることが具体的にイメージできるようになったから、もう辞めたいなんて思わなくなりましたね。

──そのままメキシコでデビューされたんですよね?

オカダ やっとデビューできたという感じでしたね。僕が同期の中で一番デビュー遅かったんですよ。だからやっとみんなみたいにいろんなところに試合に行けるんだなって思いました。メキシコって、スケジュールがハッキリ決まっているんです。日本でたとえれば、月曜日は横浜で、火曜日は東京、水曜日は千葉……みたいに。お祭りがたくさんあって、1日3試合したり、いろんな経験ができましたね。

二度目の新弟子もプライドはなかった

──19歳で新日本プロレスに改めて新弟子として入門されたそうですが、すでにデビューしているなかで、プライドもあったと思うんですが、それはじゃまにならなかったですか?

オカダ 全然ならなかったです。大したプライドじゃないですよね。やっぱり新日本っていう大きな団体からしたら、闘龍門でデビューしたっていうプライドなんてちっぽけなもんなんですよ。でも、そこで得た技術っていうのはあとから絶対活きるというのは思っていました。僕の中では闘龍門では、プロレスラーになったというよりはルチャドールになったという感じだったんです。だから、今度はプロレスラーになるためにまた一から学べるチャンスが来たと。ただ、誰よりも練習はしているっていう自信はありましたね。

──そのときの道場生の方もやっぱり年上だったんですか?

オカダ 内藤(哲也)さんとかYOSHI-HASHIさんも、みんな年上です。内藤さんのレベルの高さには驚きましたね。正直、新日本は団体としては大きいけど、細かい技術に関しては大したことないんじゃないかなんて当時は思っていたんですけど、内藤さんを見てそれが一気に覆されました。こんなすごい人がいるんだって。YOSHI-HASHIさんはまだデビュー前でしたけど、関節とかもたくさん極められてましたし、予想以上のレベルの高さを感じましたね。

──やっぱり一緒に道場で過ごした内藤さんたちには今も特別な絆みたいなのはありますか?

オカダ (即座に)ないっすね(笑)! 内藤さんは特に人見知りだったし、もうデビューしてたから巡業行っちゃうとしばらく会わなくなりますから。でもYOSHI-HASHIさんとはお互いデビュー前でずっと一緒にいたんで関係性が深い気がします。ずっとひとりで練習するのはキツいと思うんですよ。ひとりでスクワット500回やるのと、相手がいて500回やるのとは全然違う。だから闘龍門でも新日本でも同期の存在には救われましたね。

──ちなみに当時の野毛道場は『大改造!!劇的ビフォーアフター』(テレビ朝日)で改装される前ですよね?

オカダ そうです。すごい古い建物でした! 壁もボロボロですし、ひと部屋ごとにシャワーがついてたんですけど、倉庫のようになっていて開けていいのかなって(笑)。


先輩から学んだプロレスラーとしての意識

オカダ・カズチカ

──オカダさんは著書の中でご自身のことを「後輩体質」と書かれていますけど、先輩に愛される秘訣のようなものはありますか?

オカダ 甘えることじゃないですかね。やっぱり距離感っていうのは大事にしてます。あ、ここは冗談言っていいときだなとか、ここは怒られるかもしれないとか、そういうのはなんとなく空気でわかります。でも、すぐ甘えちゃうんですよね。たとえば、コンビニでばったり先輩に会ったときに「俺、出すよ」なんて言われたら遠慮なく「ありがとうございまーす!」って(笑)。「財布、今ちょうど出なくて困ってたとこなんです!」みたいなよけいなことも言って。そこは自分も後輩ができてわかるんですけど、やっぱ甘えてくれるとかわいいじゃないですか。だから僕はどれだけチャンピオンになっても先輩には甘えてます。

──先輩にかけられた言葉で印象に残っているものはありますか?

オカダ これは新日本の先輩じゃなくて師匠のウルティモ・ドラゴンさんに言われたことなんですけど、「プロレスは戦いだよ。そこだけは忘れるなよ」って。やっぱ派手な技とかもありますけど、根本は「戦い」なんだと。師匠も(アントニオ)猪木さんのプロレスを見て育っているので、気持ちが前面に出たプロレスっていうのを大事にされていましたね。

あと先輩とかを見て反面教師として思ったのは、常にカッコよくありたいということ。ちょっと前までのプロレスラーって、スーツとかでも、とりあえず腕が入るからこのサイズにしましたみたいな人が多かった。それを棚橋(弘至)さんとか中邑(真輔)さんの世代くらいから変えてくれたと思うんですけど、師匠のウルティモさんもよく言っていて、常に見られている意識はしてます。だからフェラーリにも乗ってますし、それは気をつけていることですね。

──30代半ばになってどんどん後輩ができていると思いますが、先輩として後輩に接する際に気をつけていることはありますか?

オカダ 後輩に接するときの僕は怖いと思います。僕自身も入ったときに怖い先輩がいたからいい緊張感のなかで試合をできた部分はありますね。必要以上に優しくして、あ、こんな感じでいいんだってなっちゃうとリングで危ないじゃないですか。大きなケガにつながるくらいなら、誰かしらが緊張感を作らないといけないと思っているので。もちろん、一人前になったら仲よく話せるような関係になりたいですけどね。距離感を大事にしています。

──初めてチャンピオンになってもう10年経ちましたけど、心構えの変化は?

オカダ 最初は簡単になれちゃったんで(笑)、そんなに自覚なくとりあえず戦っておけばいいやみたいな感じだったんですけど、やっぱりベルトを持っている影響力の大きさっていうのを日に日に実感して、自分がプロレスをどんどん広めていかないといけないなって思いました。もう自分がプロレス界の中心なんだと思ってやるようになりましたね。

──ベルトを失うときもあると思いますが、そのときは気持ちに変化はありますか?

オカダ そんなに落ち込むことはないですね。僕たちは年間150試合くらいありますけど、地方で応援してくれる人たちもいて、そういう方にしてみたら1年に1回とかしかないチャンスなのに、なんか慰めてもらうような感じになるのはおかしいと思うんですよ。だからそこはやっぱり切り替えて、発奮材料にしてすぐ前向きに動き出すように考えています。

──自分が子供のころに思い描いていたプロレスラー像と、今の自分に違いはありますか?

オカダ 全然違いますね。子供のころ見ていたプロレスラーより、全然カッコよくて、イケてるプロレスラーになっていると思ってます!(キッパリ)

子供と遊ぶためにけがなく帰る

──オカダさんにとって「カッコいい男」というのはどういう男性ですか?

オカダ やっぱり強い男ですね。それはいろんな意味での強さ。僕たちってどれだけダメージがあっても基本的には相手の技を受ける。どんなに技を極められてもギブアップせずにロープに逃げて、すごいチョップを食らっても何度も起き上がっていく。そうやって技を受ける力っていうのがプロレス以外でも必要だと思いますし、奥さんにぐいぐい言われても耐える──うちがそうなわけじゃないですよ(笑)。そうやっていろんなものを受け止める力がある人が強い人だと思います。

オカダ・カズチカ

──ご結婚されて生活は変わりましたか?

オカダ なんか落ち着いたというか、すごくいいですね。家に帰ってもひとりじゃないし、一緒に食事する相手もいる。ひとりのときでは考えられないくらい落ち着いた気持ちで試合できるようになりました。

──2022年にはご長男も生まれましたけど、心境の変化は?

オカダ これまで以上にケガなく帰ってこなきゃと思うようになりました。子供を世話したいというか、一緒に遊びたい(笑)。そのときに、どこか痛いところがあると思い切り遊べないじゃないですか。肩痛いから抱っこできないとか嫌ですから。

──プロレスラーの場合、巡業があるのでどうしても子供と接する時間が少なくなりがちだと思うんですけど、子育ての考え方はありますか?

オカダ やっぱり外に出てしまう時間が長いからこそ、一緒にいる時間を大事にして、妻の負担を減らさないといけないと思っていますね。この間も2週間巡業に出て帰ってきたら、うわ、こんなに大きくなってるっていうのはすごく感じたので、一緒にいるときは離れないくらいの感じで、やれることは全部やろうと思いますね。

それぞれの特性を伸ばせる指導者に

オカダ・カズチカ

──今回の入門希望者募集プロジェクトでは年齢も身長の制限もありません。

オカダ すごいいいことだと思いますね。身長が足りないから諦める、年齢が過ぎちゃったから受けられない人もたぶんいたと思うんです。その中に光るものを持った人がいなかったわけじゃないと思うので、そういう人たちにチャンスがあるっていうのはいいことだと思います。

──今回、オカダさんが直接指導されるそうですが、どんな指導を?

オカダ 昔ながらの新日本の指導ももちろんしますが、自己アピールで何をするかですね。体力があるから受かるわけじゃないと思うんですよ。試験官に、うわ、こいつおもしろいなって思ってもらえることを見せていかなきゃならない。そこを僕が見極めて伸ばしていきたいですね。

──このプロジェクトによって団体自体も活性化すると思いますが。

オカダ そうですね、今回のプロジェクトから生まれたプロレスラーがもしデビューまで行ったら、最初から注目されると思うんですよね。だけどそうやってテレビで扱われたからって調子に乗んなみたいなことを言うプロレスラーもいそうじゃないですか(笑)。その意地のぶつかり合いでおもしろいものが生まれるんじゃないかと期待しています。あと、今回の番組でプロレスラーのスゴさも伝わると思うんです。プロレスラーがどんな練習をしているのかもわかる。それで改めてリスペクトしてもらえるんじゃないかと思うので、その誇らしい気持ちを胸にまた戦っていけるんじゃないかと思います。

月曜PLUS!『THEスピリット ~闘魂レスラー発掘プロジェクト~』

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てれびのスキマ

1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。

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