「最初はコミュニケーションも取れなかった」BiSHアユニ・Dが活動の中で学んだ他人との向き合い方
2021年12月24日に開催した、中野heavy sick ZEROでの緊急ライブ『THiS is FOR BiSH』で2023年をもっての解散を発表したBiSH。2022年1月からは「12ヶ月連続リリース」をスタートし、7月は第7弾シングル『SEE YOU』をリリースする。
彼女たちが表紙を飾った『クイック・ジャパン』vol.144(2019年6月発売)では、それぞれ単独インタビューの中で解散やBiSHの未来について語っていた。そこで「BiSHラストイヤー記念」として、6カ月連続でこの単独インタビューを掲載。
BiSHのメンバーの中で妹的存在のアユニ・D。もともと口数は多いほうではなかったが、しっかりとした意思を持っていた彼女。自らがベースを弾き歌うソロプロジェクトPEDROをはじめたことによって、突如性格が前向きになったという。曲がらない芯を感じさせるアユニの現在の心境に迫った。
完全にアユニ・Dを演じているわけではない
──最近、アユニさんはよくしゃべるようになりましたよね。
アユニ・D(以下、アユニ) ここ数カ月で性格がすごく前向きになったんですよ。変わりはじめたころ、自分で自分に「どうした?」と思って(笑)。最近はそんな自分にも慣れたんですけど、ライブも楽しくて。これまでライブ中に笑うことがあまりなかったんですけど、いきなりすごく笑ってしまうこともあるんです。最初は自分では気づかなかったんですけど、ファンの人から最近すごく笑うねとか、すごく元気だねみたいなことを言われて「あ、そうなんだ」と思って。それは私がこれまで以上に音楽を好きになったからライブも楽しくなったんだと思うんです。
──PEDROをはじめたことも大きいんじゃないですか?
アユニ たしかにPEDROをはじめてから関わる人が増えて、いろいろな人とお話しする機会が多くなったんです。これまで私はBiSHの端くれみたいな存在だったけど、自分ひとりで全部やらなきゃいけなくなったことで、自分から興味が湧くものが増えていったというか。そういう意味でavexの篠崎さんには本当に感謝しています。音楽の知識を教えてくれて、私の音楽の幅がすごく広がった。
──自分自身の性格が変わっていくことは、アユニさんにとってうれしいこと?
アユニ うん、そうですね。今までは結構ひねくれていて。みんなが楽しんでいたら、自分は絶対に楽しまないぞという気持ちがあったりして。それは私の根の性格なので今もあるんですけど、素直に物事を楽しめるようになりました。この人はこういう人なんだって全部受け入れられるようになったし、ちゃんと人間と接しているんだと考えて行動できるようになりました。今までは普通にガキだったので、ちょっとは大人になったなって思います。
──そうやって前向きになるまでのアユニさんは、BiSHの活動で悩むこともあったんですか?
アユニ めちゃくちゃありましたよ! まずBiSHに加入した瞬間、ついていけないって思っていましたもん。覚えることが多かったというのもあるし、今はWACKって若い子多いじゃないですか? 私が入ったときは、一番下っ端だったし、慰め合うみたいなことも一切なくて。ましてや当時私は人とコミュニケーションも取れない状況だったから。でも、辞める勇気も逃げる勇気もなかったので、耐えていましたね。
──そんなアユニさんはBiSHで活動するにあたって、アユニ・Dというキャラクターを演じているところってあると思いますか。
アユニ んー、難しいですけど、自分を作っているとかは一切ないです。仕事だっていう意識はあるし、BiSHのアユニ・Dだという意識はちゃんと持っています。でも、笑っちゃダメなときでも、笑えるときは笑っちゃう自分もいるから、完全に演じているというわけでもない。
──クールでなきゃいけない場面でも笑っちゃうみたいな。
アユニ 何か発言しなきゃいけないときも、私自身に発言したいこと自体がなかったら別に言わないです。だから、私はもっと演じる力を持ったほうがいいって自分でも思います。ハシヤスメってプライベートと仕事が本当にはっきりしていて。寝る時間もないようなスケジュールで疲れていても、スイッチが入るとちゃんと笑顔になっていたりしてるんです。そういう意味で言うと、私はまだまだその力が不足しているなと思います。
ダサい解散でもいい
──10年後、BiSHやPEDROがあるかどうかってことは考えますか?
アユニ どうなることやら。死ぬかもしれないですしね(笑)。
──(笑)。メンバーによっては、おばあちゃんになってもやりたいって人もいれば、一人ひとりがやりたいことを叶えて幸せになることが大切って意見もあります。
アユニ バンドは何年も続けてこそ、そのバンドの道というものができるから、何十年も続けたらかっこいいんでしょうけど、私はやりたくない(笑)。バンドは、そのバンド自身で作り上げるみたいなところがあるじゃないですか? BiSHはそれとはまたちょっと違うから。別におばあちゃんになってもBiSHをやりたいとか思わないです。だからこそ、今できることを頑張る。一人ひとりがそれぞれのやりたいこともあるし、できることも昔より全然増えたから。誰かが脱退とかして終わるのは嫌ですね。終わるなら円満な解散がいいです。
──なし崩し的に崩壊していくみたいなことは嫌だと。
アユニ 普通に一人が抜けても続けて、その後に解散するとか気持ち的に悲しいので。一人が抜けるんだったら、その場で全員解散したい。それは客観的に見てどうとかじゃなくて、普通に自分自身の気持ちの問題。そういう意味で、別に私は終わり方がダサくてもいいと思う。
──BiSHとPEDROとは別に、プライベートでの生活もあるわけじゃないですか。この先、家族を作るとか、この先の自分自身の人生のことは考えたりしますか?
アユニ 結婚はいつかはしたいです。芸能界に残りたいとは思わないので、普通の人になって結婚をして、子どもを産んで……普通な回答ですけど。
──前からそういう意見でしたっけ?
アユニ 前は違います。失踪するとか言ってました(笑)。コンビニでバイトするとか(笑)。
──そうですよね(笑)。そういう考えに変わったのも最近のことなんですか?
アユニ そうですね。やっと自分の思う普通の人になれたって感じ。普通の人が経験してきた感覚を、自分もわかるようになってきたみたいな感じなんです。
──ちなみに、BiSHでいるときのアユニさんと、PEDROでいるときのアユニさん、プライベートのアユニさんで全部別な雰囲気ということはない?
アユニ ではないです。別に嫌なことがあったときはどの自分も嫌になるから。感性が豊かになったというか、愛がないとダメなんだなってすごく思います。
──どうしてそういう考え方に至ったんでしょうね。
アユニ 気づいたらそれがわかっていたのかな。今までって、自分が誰かのことが嫌になったら、その人のことはシャットアウトみたいな感じだったんです。一度嫌いになってしまうと、ずっと嫌いになってしまうというか。先生とかに1回怒られたら、その先生は一生嫌いとかというところがあったんです。
──一度嫌いになっても、もしかしたらその人にはその人の理由があるのかもみたいに考えられるようになったのかもしれないですね。
アユニ いや、そこまで考えてはいないんですけど(笑)。誰かのことを嫌いにならなくなったというか。言い方が難しいけど、自分で決めていこうっていう生き方になった。私はこう考えているけど、ほかの人は別の考え方をしているし、嫌いって態度をしたらその人も傷つくだろうしって。
──周りに期待していたからこそ、嫌いになってしまっていたというか。
アユニ うーん……。
──最初から何も思ってなかったら、別に嫌うこともないと思うんですよ。
アユニ その人はそういう人だから仕方ないと思うようになったんですよね。世の中にはいろいろな人がいるってわかったので。それまでは、この人に嫌われたくないからこういうことはしないみたいなことをすごく考えていたんですけど、今は一切そういうのを考えないし、どうでもよくなったというか。
言葉で伝えること
──世の中から見られているアユニ像と、本当の自分が言いたいことの間に葛藤みたいなものはありますか?
アユニ BiSH云々ではなく、インターネットとかは特に言いたいことを言っても、言った通りに解釈されないことが多いから、そういうのはちょっとムカつきますね。別に伝わらないのであれば、そこまでムキになって言わなくてもいいやという考えになりましたね。
──それで自分の想いは解消されますか?
アユニ 自分がわかっていればいいやって。自分が見ている世界は自分が中心だしと思うようになって、気持ちは楽になりました。
──そのぶん、BiSHでの表現だったり、PEDROでの作詞作曲だったりで昇華されているのかもしれないですね。もともとアユニさんはマンガとかも好きですけど、人が作る制作物という点で音楽への関心も深まったんじゃないですか。
アユニ そうですね。そっちに全部興味がいったので、ほかの人がどうこうっていうことが気にならなくなったのかもしれない。
──アイナさんは言葉は嘘が入ってしまうことがあるから、ダンスが一番自分のことを偽りなく伝えられると話してくれて。確かに、たとえば絵とか抽象的なもののほうが、気持ちはストレートに出せるのかなと思うんですよ。
アユニ たぶん私の場合は、ダンスで嘘をつけてしまうと思うんです。今別に踊りたくないと思っても踊れてしまうだろうからアイナちゃんとは考え方が違う。それより私は言葉の方が本当のことを言えると思っていて。絵とかもたぶん嘘ついて描いてしまうだろうし。音楽とかも考えるんですけど、今はベースで表現できる技術を持っていないし、そんな段階までいっていないので。だから私の場合は、まだ言葉しかないと思っています。
『クイック・ジャパン』vol.144には、まだまだ撮りおろし写真を掲載。さらにほかの5人のインタビューだけでなく、松隈ケンタによる『CARROTS and STiCKS』制作秘話も。購入はこちらから。
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