Aマッソ加納愛子「この人の孫でよかった」。最期まで家族を笑わせた祖母と、芸人としてのルーツ

2022.7.28
加納愛子

文・編集=梅山織愛 撮影=興梠真穂


7月30日(土)に放送される『レギュラー番組への道 お笑いインスパイアドラマ ラフな生活のススメ』(NHK総合)で、脚本を担当したAマッソの加納愛子。本作は“お笑い好きの家族”をテーマにした物語だが、彼女自身も「“お笑い”が身近にある家族の中で育った」語る。『女芸人No.1決定戦 THE W 2021』で決勝に進出するなど芸人として躍進しながら、プライベートでは結婚していることも明らかになった現在の加納にとって、家族と“お笑い”はどんな存在なのか──。

加納愛子
加納愛子(かのう・あいこ)1989年2月21日生まれ、大阪府出身。2010年に幼なじみの村上と「Aマッソ」を結成。『女芸人No.1決定戦 THE W』では、2020年、2021年と2年連続決勝進出。Aマッソ単独ライブ初の東京・名古屋・大阪の3都市ツアー『与、坐さうず』が今夏に控えている。個人としては2020年11月に、エッセイ集『イルカも泳ぐわい。』(筑摩書房)を刊行。『文藝』や『文學界』などの文芸誌で短編小説も発表している。

笑わせるカッコよさを見せてくれたおばあちゃん

加納愛子

──本作はお笑い好きの家族の物語ですが、加納さんの家族もみんなでお笑いを観ることは多かったですか。

大阪というのもあって、お笑いは身近なものでした。お笑いの話を家族でするのとかも、特別だとは思ってなくて。まわりもみんな観てたし、それが普通だと思ってたんですけど、東京に出てきてからお笑いにあんまり触れてこなかった友達の話とかを聞いたときに、過剰に観てたんだなって気がつきました。

──特にみんなで観た印象が深い番組とかはありますか。

なんでしょうね……。でも、小学生のころに新喜劇を家族で観に行ったのとかは覚えてます。あと、おやじが千鳥さん好きで私と兄貴が笑い飯さん好きだったんですけど、『M-1(グランプリ)』のときとかは、おもしろかった、おもしろくなかったとかでケンカになったりもしてました。

──家族で“お笑い”を話題にできるっていいですね。

そうですね。でも、お笑い番組を家族で観るということだけじゃなくて、単純に家族の中で何かあったときに“笑い”という感情がエッセンスとしてあるって大事だと思います。家族の中で何か問題があったときに、“笑い”があることで気軽に物事を考えられる補助的なものになるじゃないですか。

おばあちゃんが危篤のときに、家族みんなでお見舞いに行ったんですけど、ひとりずつ話す時間があって、まずはおかんがおばあちゃんの横に行って、次は私が行くみたいな。その流れで、おやじが入ろうとしたときに、おばあちゃんがカーテンをシャーーって閉めたんですよ。それがおもろ過ぎて。おばあちゃんも苦しそうなのに、めっちゃ笑ってて、なんか、この人カッケーなって思ったんです。死にそうなのに、家族を笑わせようとしてるやん!って。私もめっちゃ笑ってたんですけど、なんか泣きそうになりましたね。この人の孫でよかったなーと。

──素敵な家族ですね。

貧乏でしたけど、仲もよかったので。はい(笑)。

──お笑いが身近にあった家族だと、お笑い芸人になることを伝えても反対はされなかったですか。

全然反対されなかったです。勝手にやればって感じでした。

──現在の活動についても特に何も言われず?

いや、それは死ぬほど言われます。ダメ出しばっかしてくるんでムカつきます(笑)。なんであのネタで『M-1』行ったんか、とか言われますね。

──でも、見守ってくれている証拠ですね。

どうなんでしょうね(笑)。ここ2年くらいはテレビに出させてもらえることも増えたので、わかりやすく活動を見せれてるんかなと思うんですけど、こうなるまでの10年くらいはずっと「いつ売れんねん」って言われてて。「東京ではライブとか、がんばってるんやけどな~」とか言っても「嘘やろ。結果を残せ」って言われたんで。

身近に“お笑い“がある家族でいたい

──加納さん自身もご結婚されてますが、本作のように温かい家族を築きたいみたいな理想はあるんですか。

いやー、無理でしょうね(笑)。今も仕事しかしてないし、本当に申し訳ないなとは思いつつ、家には寝に帰るだけなので(笑)。

──今は仕事が中心ですか?

そうですね……。不思議なことに、1日は24時間しかないので(笑)。今は仕事が100ですね。でも、家庭も大切にしたいと思うときが来れば、そのときは身近に“お笑い”がある家族でいたいなとは思います。

──結婚されていることが世間に知られてからも、家庭との向き合い方に変化はなかったですか。

なんにも変わらないです。でも、気持ちはちょっとだけ楽になりました。しこたま嘘ついていたので(笑)。今も自分から望んで結婚の話はしないんですけど、つかなくていい嘘をつかなくなったので、気は楽になりましたね。

でも、自分から言うタイプじゃないんで、報道がなければ言わなかったと思います。


「自分で一から考えろ」が教育のベースだった

加納愛子

──家にいる時間が少ないというのは、最近になってからですか。

いや、上京して村上と住んでたときとかも、なんか家にはあんまりいたくなかったんですよ。仕事していたいというか……。

──実家に住んでいたときもですか?

そうですね。不思議ですよね、家族も好きだったし。でも家にいるくらいなら、友達と遊んでたかったんですよね。でも家族とは仲もよかったし、反発とかもしなかったので。好きにさせてもらってました。

──両親からの信頼があるからこそ、自由だったんですね。ほかのことでも強く言われることはなかったですか。

まあ、自由だけど頭使えみたいなのは言われてましたね。脳みそ労働みたいなのは強いられてました(笑)。勉強しろみたいな感じではないんですけど、何をするにも誰かのまねするんじゃなくて、「自分で一から考えろ」っていうのはウチの教育のベースだったかもしれないです。

──独特だけど立派な教育ですね。

おやじがコピーライターだったので、それも理由のひとつかもしれないです。

──“自分で考える”ことを大事にしてきたのは、お笑い芸人の仕事にも活きてるんですかね。

そうですね。自分で考えたことで仕事をしているっていうのでは、ベースにその教育があるからかもしれないです。

「おもしろい人の横にいる」小池栄子の女優としてのすごさ

加納愛子

──本作では、これまでの経験も活かして脚本を担当されましたが、依頼を聞いたときの心境はいかがでしたか。

お笑いの番組を作っているスタッフさんと一緒にできると聞いたので受けたんですけど、普通のお話だったら「無理です」って言ってたと思います。脚本はやったこともないし、わからないことだらけだったので……。

──普段のネタ作りと脚本を書くのはまったく別物という感じですか。

そうですね。私たちのネタはコントでもそんなに何かになりきって、みたいなことはやらないので。それぞれが言いやすい言葉でセリフを書くんですけど、ドラマの脚本ではキャラクターを作り上げるところから始まったので、新鮮で楽しかったです。

それに、みんなで設定を出し合うとかも経験がなかったので、なんかいいなって思いました。普通、何かを作るってこうやんなって(笑)。脚本というか、番組を作るっていいなって思いました。

──普段のネタ作りでは村上さんから意見が出ることはないんですか。

ないですね……。言いにくいとか、理解できないフレーズについては聞いてきますけど、内容に関しては一切言ってこないですね。最近気づいたんですけど、あいつそんなお笑い好きじゃないですし。自分で言ってました、「ウチそんなにお笑い好きじゃないかも」って(笑)。

──自分でおっしゃってたんですね……(笑)。本作の「家族とお笑い」というテーマには、最初どんなイメージを持たれましたか。

なんとなく温かい作品になるんだろうなって思ったので、あんまり温かいタイプの芸人じゃないので私が脚本でいいのかなとは思いましたね。

──Aマッソとしてネタパートにも参加されないんですね。

そうですね。今回、お願いした芸人は根底に温かさが感じられるネタをするメンバーだったかなと。私が好きなメンバーというのもありますが、家族がテーマの作品なので家族で観たときに、ネタの中にみんなが何かしら感じられるものがあるメンバーにお願いしました。

私たちは家族で観てもらうタイプじゃなくて、自分の部屋でこっそり観るタイプの芸人なので、今回のドラマのイメージとは違いますね。

──ネタパートに出演される方たちとは、やってもらうネタについてお話しされたんですか。

いや、この芸人さんにこのネタをお願いしようと決めてからは特に関与してないです。ただ、物語の中で、テレビで観るシーンだったりタブレットで観るシーンだったりと、ネタの登場の仕方はそれぞれ違って。そのネタをどんな場面で観るのが自然かは脚本を書くときに意識しました。

加納愛子

──本作ではドラマパートの撮影にも立ち会われたんですよね?

自分が書いた脚本で、すごい方々が演技をしているのには感動しました。でも、合間とかに「ここってどういう意味なんですか」とか聞かれたときは、ウッてなりましたけどね(笑)。

芸人って自分が考えたことをやっているので、ある種わがままにできるけど、俳優さんは制作側のことを信頼して言われたとおりにやってくださるので、感謝の気持ちしかないですね。

──主演は小池栄子さんですが、お話しされましたか。

話したかったんですけど、挨拶程度しかできなかったんですよ。でも、小池さんの演技を見て改めてすごっ!て思いました。小池さんって、おもしろい芸人の横にずっといるじゃないですか。今回の演技を見て、あれだけ女優としてちゃんとコメディを演じられるんだから、そりゃそうなるよなっていうのを実感しました。

──改めて脚本を担当されてみていかがでしたか。

制作側に携わって改めてスタッフさんへの感謝も感じました。普段は収録に行ったら当たり前に台本があるけど、それができるまでの苦労がわかりました。

──お笑い好きの方はもちろん、お笑い番組を普段はあまり観ない方にも観ていただきたい作品ですね!

“お笑い”って音楽とかアニメみたいにひとつのジャンルとしてしゃべられることが多いと思うんです。でも、“お笑い”って感情なので。家族という小っちゃい団体に対して“お笑い”がどういう影響力を持てるのか。“お笑い”で家族がつながれるんだ、というのを見せられればうれしいなって思います。


『クイック・ジャパン』vol.164の表紙・巻頭特集はAマッソ

『レギュラー番組への道 お笑いインスパイアドラマ ラフな生活のススメ』

お笑いをこよなく愛し、お笑いに支えられ、お笑いで人生が動かされる……。そんな家族の物語を楽しみながら、同時にお笑いネタや芸人の魅力を味わえる、新感覚ドラマであり、新しいスタイルのお笑いネタ番組。

ドラマには、生粋のお笑い好きである俳優3人が集結。クズ芸人好きの母親役に小池栄子、お笑いオタクの娘役に桜井玲香、ふたりの影響を受けてお笑いに興味を持ち始めるちょっと頼りない息子役に中川大輔。お笑いへの温かい共感を持ってそれぞれの役を演じる。

<ストーリー>
お笑いが大好きな家族の話である。天然ボケで「ラフ」な性格の母(小池)。そんな母に小気味よくツッコミを入れるオタク気質な姉(桜井)。両親の離婚後しばらく父のもとで暮らしていたが、数年ぶりに母・姉と同居することになった弟(中川)。常に「お笑い」中心の日常……もはやお笑いに振り回されているような生活に弟は戸惑うが、「お笑い」がやがて3人の家族の生活にポジティブな影響を与えていくのだった。

2022年7月30日(土)23:30~23:59(29分)総合テレビ
【脚本】加納愛子(Aマッソ) 
【出演】小池栄子、桜井玲香、中川大輔
Yes!アキト、かが屋、空気階段、ジェラードン、ハナコ、ぱーてぃーちゃん ほか


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梅山織愛

(うめやま・おりちか)1997年生まれ。珍しい名前ってよく言われます。編集者・ライター。自他共に認めるミーハーなので、いろいろハマりますが、アイドル、お笑いが特に好きです。あと、チョコレートも詳しいです。

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