水着グラビアは“強くなれる魔法”だった。ひきこもり経験者の根本凪が得た「自分も救われている」仕事のやりがい



伊勢丹に経費でブラジャーを買いに行った物語

根本凪(でんぱ組.inc/虹コン)×もふくちゃんが語る「アイドルと水着の距離感」

──復帰してまわりについていけず、さらに落ち込んでいたところ、水着の仕事で「いいもん持ってるじゃん」と褒められ、自己肯定感が上がるところに繋がるわけですね。体型について、オーディションでは誰も気づかなかったのでしょうか。

根本 もふくさん、骨格しか見てないから。

もふく 今振り返ってみると、ブラジャーをつけてなかったから気づかなかったのかも。

根本 当時、ユニクロのカップ付きキャミソールが至高だと信じて、そればっかり付けてたんです。おなかが冷えやすい日本人代表みたいなおなかの弱さだったから、腹部まで覆うキャミソールしかしなかった。オーディションの応募写真も、普通は体型がわかりやすいワンピースとか着ると思うんですけど、私は部屋着のキューピーちゃんのTシャツでした。今思えば「受かる気あるの?」って格好でしたね。

もふく 普段から学校のジャージをよく着てたから、体型もわかりづらかったんです。初めて水着のフィッティングをしたときに、カップ付きキャミソールしか持ってないことがわかって、これでは形が崩れてしまう…!という謎の正義感が生まれまして。伊勢丹にブラジャーを買いに行くというストーリーが生まれました。

根本 懐かしい。あのとき初めて伊勢丹に行ったんですよ。

もふく 最初に一番いいものを付けたほうがいい。将来グラビアをやる可能性もあるから、これはしっかりとケアするべきという名目で、会社に「これは一大事です。一番いいブラジャーを買うので、経費で精算してください」と言って、伊勢丹でコンシェルジュの方にきちんと計測してもらって、体に合うものを買い揃えましたね。

根本 あのとき、今までのは体に合ってなかったんだなって思い知りましたね。感覚が全然違いました。

──そこからグラビアの仕事をして、自己肯定感が上がっていったと。

根本 自分のためにメイクさんやスタイリストさんがいてくれて、カメラマンさんにも「目がきれいだね」って褒めてもらえて、写真が本になって世に出て、ファンの人たちが買ってくれて「すごくいいね」って褒めてもらえて……。自分にも褒められることがあったんだなって思えました。

振り返ってみると、何もなかった自分のアバターに、スペシャルなパーツが付いた感覚に似てるなって思います。アイドルをつづけるうちに、ミントグリーンというイメージカラーの衣装が増えて、髪型のバリエーションも増えて、スキルもついた。

──過去のインタビューで水着を着ると別人格になると語っていましたが、ゲームにたとえるなら鎧のような装備が増えた感覚でしょうか。

根本 そうですね。甲冑というか、それを着ることでカメラの前では、アイドルとして少し強くなれる魔法がかかっている装備。

人の心を救えた喜び「同時に自分も救われている」

根本凪(でんぱ組.inc/虹コン)×もふくちゃんが語る「アイドルと水着の距離感」

──ファースト写真集のインタビューでは「顔と体は戦友みたいなもの」だと、一歩引いたような客観的な言葉も印象的でした。

根本 根がオタクだから、常にちょっと俯瞰で見るクセがついてるのかもしれません。アイドルに憧れたきっかけである夢眠ねむさんは、徹底的に客観視して自己プロデュースをしていたのも大きいです。というか、ねむさんしか見てなかったので、アイドルとはそういうものだと思ってたんですよね。

自己肯定感が上がったっていうのも、本来の自分に魅力があるって気づいたというより、「アイドルの根本凪」がいて、そのキャラの評価が上がった感じ。そのことで、キャラを動かしているプレイヤーの自分も「少しはうまくなったのかも」ってうれしくなる気持ちと同じかもしれないです。

──では、プレイヤーとしてアイドルをやっていたよかったと感じたことはありますか?

根本 一番うれしかったのは、オンラインで1対1のサイン会に参加してくれた男の子が「ねもちゃんを見て、久しぶりに家を出られた。この前はライブに行けたから、次はツアーにも行ってみたい」って伝えてくれたことです。

私自身、引きこもってたからわかるけど、相当な勇気が必要だったはず。そうやって人の力になれる仕事をできているのはありがたいです。人の心を救えたって感じることで、同時に自分も救われている気がします。

──2020年にはSNSでパニック障害を公表しました。その際に「活動をとおして同じように悩んでる子に少しでも元気を届けたい」と書いていました。インタビュー前編の冒頭でも、自分の体型に悩む人が自分の体を好きになれたと言われて、うれしかったとも語っていた。話を聞いていて、そういったファンたちの言葉が、アバターではなく、本来の自分の自己肯定感を上げているのでは、と感じます。

根本 そうかもしれないですね。自分が誰かのためになる可能性があるということが、引きこもってたころの自分を肯定してくれるような気がします。

根本凪ソロ公演『月と、真っ赤な目をした兎の夢』

出演:根本凪
ゲスト:相沢梨紗(でんぱ組.inc)、大塚望由・鶴見萌・中村朱里・大和明桜(虹のコンキスタドール)、電影と少年CQ
ナレーション:陶山恵実里
配信視聴チケット: 2,000円(販売期間:5月3日21時まで ※視聴は同日23時59分まで)
特典画像付き配信視聴チケット:2,500円(販売期間:5月7日21時まで ※視聴は同日23時59分まで)

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