辻川幸一郎が絶賛。「僕にとってビックフォードは究極に純粋な映像」

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ビックフォード_01

文=神武団四郎 編集=森田真規
Photo by Gottingham(トップ写真)


クレイを駆使して混沌とした映像世界を展開し、カルトな人気を誇った孤高のアニメーション作家、ブルース・ビックフォード。2019年4月28日に急逝した異才の追悼上映「ブルース・ビックフォードと(の)アメリカ、そして宇宙」が、渋谷のシアター・イメージフォーラムで2020年2月1日から、京都の出町座では2月14日から公開される。
フランク・ザッパとのコラボでも知られ、幻想的な映像で多くのクリエイターを虜にしたブルース・ビックフォード。コーネリアスなどのMVや数々のCMを手がけ、イマジネーション豊かな作風で高い評価を得ている映像作家の辻川幸一郎氏と、アニメーション研究家でビックフォードを積極的に日本に紹介してきたニューディアー代表の土居伸彰氏が、その魅力を解き明かします。

人の意識を拡張するようなエンタテインメント作品

まずブルース・ビックフォードのバイオグラフィーを紹介したい。ビックフォードは1947年2月11日、米ワシントン州シアトル生まれ。幼いころから絵が好きで、17歳のときにクレイを使ったアニメーションを作製する。ベトナム戦争に従軍後、60年代後半より自宅でクレイや線画による創作活動を開始。人やものが延々とメタモルフォーゼを繰り返し、殺し合うさまを描いた独特の作風で熱狂的なファンを生み出した。

70年代から80年代にかけ、フランク・ザッパと共作で『A Token of His Extreme』や『ベイビー・スネイクス』など多くの短編を発表。1988年には代表作『プロメテウスの庭』を手がけ、その評価を決定づける。アニメーション以外にもグラフィックノベルに着手するなど精力的に創作活動を行っていたが、いくつもの未完プロジェクトを抱えたまま2019年4月28日に72年の生涯を閉じた。

追悼上映「ブルース・ビックフォードと(の)アメリカ、そして宇宙」では、代表作をはじめ、8ミリによる初期習作や未発表作を含むアニメーションのほか、2004年に製作されたビックフォードの長編ドキュメンタリー映画『モンスター・ロード』も上映される。

この作品にはビックフォード本人と、撮影当時に存命していた唯一の家族である父ジョージが出演。風変わりな日常や創作の舞台裏に加え、事故や自殺で命を落とした兄弟の思い出などパーソナルなエピソードも明かされる。映像作家の辻川幸一郎氏は、死が身近にあった環境がビックフォードの作品に色濃く反映されていると指摘する。

「ブルース・ビックフォードと(の)アメリカ、そして宇宙」予告編

辻川 ここまで次々と家族の死に見舞われる心境は、ちょっと想像がつきません。ビックフォード作品では「死」が主要なモチーフとして繰り返し描かれていますが、実際の彼の人生も兄弟や母の死、自身のサディズム、ベトナム兵役で受けた暴力などに取り憑かれています。しかしドキュメンタリーではそういった壮絶な体験を、物静かに淡々と客観的に語るんですよね。まるで本来の感情の熱量がすべてクレイや線画に移し替えられたかのように感じました。

土居 『モンスター・ロード』を観ると、ビックフォードの作品にはドキュメンタリー性があると気づいてもらえると思います。ただ生前ビックフォードに創作活動の目的を聞いたら、エンタテインメントだと答えたんです。といっても狭い意味での娯楽ではなく、人の意識を拡張するようなエンタテインメントだって。いくつもの作品で描かれた、小さな人たちが大きな人を倒す姿には『ピーター・パン』的な勧善懲悪も見てとれますね。

『モンスター・ロード』予告編(オリジナル版)

辻川 過酷な人生を送るなかで、自分の状況を客観的に捉えながらエンタテインメント映画として消化しているのでしょうか。自分のまわりで起きていることと、頭に浮かんでくることが渾然一体となって、それをさらに創造主=神の視点でも観ているような不思議な感覚です。

土居 彼はライブパフォーマンスもやっていて、頭に浮かんだことを1時間くらいずっとしゃべっていたそうです。語り出すと止まらなくなり、何重にも物語が重なっていくという。