辻川幸一郎が絶賛。「僕にとってビックフォードは究極に純粋な映像」

2020.2.1


人生と作品にブレが1ミリもない

辻川 ビックフォードのアニメーションでは、同時多発的にいろんなことが起こり、常に変形しつづけていているのでどこを目で追ったらいいかわからないし、ストーリーの着地点もない。そこに僕は惹かれています。アニメーションの本質は、デザインやプロダクツのようひとつの形に帰結することではなく、変化しつづけることではないでしょうか。ビックフォードが表現している“終わらない状態”に、アニメーションが持つ原理的な魅力を感じます。

土居 作品が完成したら世に出したいという思いは持っていたそうですが、完成しないという。

辻川 頭に浮かぶ瞬間を形にしつづけるので、生きてる限りエンドがないんですね。頭の中と言えば、ビックフォード作品の特徴のひとつに独特の遠近感があります。遠くのものは小さく、近いものは大きく作るのですが、まさに頭に浮かんだ遠近感のまま力技で再現した感じ。さらに彼の映像には編集もコンテも介在しない。彼は自分の発想を“物語”と呼んでいますが、物語が頭に湧き出た瞬間を写し絵のようにそのまま作りつづけています。『モンスター・ロード』にも描かれていましたが、社会で働くことを不毛な時間と言い切り、次々と湧き上がるイメージを取り憑かれたようにおびただしい量のクレイ人形や線画にして記録する年月の途方もない長さ。初期衝動の持続量が普通のアニメーション作家とは段違いです。

映画『プロメテウスの庭』
代表作のひとつ『プロメテウスの庭』も上映される

土居 ビックフォードの仕事場に遺された品々は、映画芸術科学アカデミーに寄付されたそうです。これから先、彼の作品がもっと観やすくなるかもしれないし、何をやりたかったのか解明できるフェーズに入っていくかもしれません。

辻川 ビックフォードは70年代、ザッパとの共作で発掘されていたわけですが、その後アウトサイダーアートの文脈でビックフォードを評価する動きがなかったのは、どうも解せないんです。本人が拒んでいたとしか思えない。

土居 ある有名なギャラリーのオーナーからフィーチャーしたいという話が来たときに、寸前のところでビックフォードが降りたそうです。来日に合わせ日本で個展をしたんですが、彼の作品にはどんな文脈でもつかみきれないある種の得体の知れなさを感じました。そういう意味では、今後あらゆる分野で評価されるポテンシャルはあるのかなと。

ビックフォード02
シアトルの自宅アトリエで自身のクレイ作品を持つビックフォード

辻川 2016年に来日して僕がお会いしたときは、仙人や神のような超然とした雰囲気を放っていました。ここまで本人の容姿に説得力がある人は少ないですね。あれだけの人生を歩み、あれだけの作品を作りつづけ、最終的にこの“形態”に進化したのかと(笑)。活動すべてを通し、彼自身とその人生と作品にブレが1ミリもない状態なんです。

土居 確かに彼の活動を見ていると、襟を正すところがあるというか。

辻川 頭に湧き上がる妄想がフィルターを介さず、ここまで徹底的に映像化されたものって他にはないと思います。まるでビックフォードの頭から直接テレパシーが送られてるような感覚。僕にとってビックフォードの作品は究極に純粋な映像なんです。



  • 「ブルース・ビックフォードと(の)アメリカ、そして宇宙」

    プログラムA「ブルース・ビックフォード傑作選」
    <上映作品>
    『プロメテウスの庭』1988年/28分
    「初期8mm作品集」1960年代初期/3分
    「初期線画アニメーション集」1980年代初期/3分
    『猪頭 イノシシ アタマ』(抜粋)1990年代初期/2分
    『ビートニク詩人』(抜粋)1990年代中盤/4分
    『このマンガはお前の脳をダメにする』2008年/6分
    『インヴァージョン・レイヤー』2003年/11分
    『アッパー・ヴァレー』6分 *サイレント
    『アッティラ』2016年/2分 *サイレント

    ​プログラムB「ブルース・ビックフォードと宇宙」
    <上映作品>
    『モンスター・ロード』(ブレット・イングラム監督/2004年/アメリカ/80分)

    2020年2月1日(土)〜 シアター・イメージフォーラム
    2020年2月14日(金)〜 出町座


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