幕張とオートバックスが変えたひろゆきという男
──大宮セブンメンバーにとって今や大宮と同じくらい欠かせない場所が、よしもと幕張イオンモール劇場と、オートバックス大宮バイパスだと思うのですが。
坂本 ふたりはどう思ってるかわからないですけど、僕は大宮セブンは最初にユニットを立ち上げた初代大宮支配人のプロデューサーX氏の団体やと思っているんです。だから、今X氏が支配人をやっている幕張が、大宮なんですよ。
ひろゆき そうやなあ。
坂本 初期の大宮セブンはいま幕張でやっているようなことをずっと大宮でやってたんで。だから僕にとっては違和感なく、幕張もオートバックスも、大宮。
福井 オートバックスの配信イベントでやってみて「これはいいな」というものが幕張で有料で上演されるという流れが今できていて、あの2か所は直接つながっている感じなんですよね。ただそれが、ルミネtheよしもとや無限大ホールなどのほかの劇場とか、テレビやラジオには一切つながっていない。
ひろゆき ふははは!
福井 幕張とオートバックスのふたつは、もうそこだけ独立しているんですよ。そこでやっている笑いの種類がほかとは違い過ぎて、もうお笑いなのかどうなのかもみんなわからなくなってきているくらい。僕自身はそれはそれで楽しんでいますし、ほかの現場であったストレスとかをすべて吸い上げてくれる場になっていますね。僕にとっては心のオアシスです。
──特にオートバックス大宮バイパスで行われる配信ライブが、どんどん先鋭化しているように見えます。トークにニッチなテーマが設けられたり、さまざまな芸人さんが出禁になるという展開があったり。
ひろゆき はい。僕は先日までオートバックスのライブを5年間出禁になっていたんです。それもジェラードンのアタック西本くんが10年出禁だったのを「じゃんけんして僕が勝ったら5年分肩代わりしてください」と言われて食らったもので。でも先日アタックくんが「アタックリセット」というすべてを無効にする技をかけてくれたおかげで、その出禁は無事消滅しました。
──そういう、個々の配信プログラムをまたいだストーリーのようなものが生まれていますよね。
ひろゆき 僕が出禁の間は、福井くん坂本くんのふたりだけが出た『ひろゆきを語ろう』という配信イベントに僕によく似た謎の女子プロボウラー・柏木レミ選手が登場したり、別の配信では僕そっくりのベトナムのアーチェリー代表ミヤン選手が出てきたり……。自分が子どものころ思い描いていたお笑いの道にはない経験をさせてもらっています。
──謎の女子プロボウラー・柏木さんの出た配信を観ましたが、リアリティのある話し方やバックボーンに驚きました。
ひろゆき 配信の前日に存在しない女性プロボウラーの一生を家で考えながら「一体何をしてるんやろう」とは思いました。
──そんな入念な準備が。福井さんはよく「ひろゆきは大阪時代は今とは別人だった、すごくトガッていた」という話をされますよね?
福井 そうですね。それもすべて幕張とスーパーオートバックスという異質なふたつの空間で変えてもらったというか。たぶんほかの劇場にずっと出ていたら、こんなに変化できていないと思うんですよね。オートバックスで女子プロボウラーとかをやらされて、今まで鍛えてなかった筋肉をつけてもらっている。
坂本 ひろゆきの演じたプロボウラーキャラが、最初ちょっと引き気味のリアクションやったんですよ。そしたら1公演目が終わったとき、共演者みんなに「その引き気味のキャラやめろや」と怒られて。やらされて、怒られて……。
福井 もしあの1公演目の感じでルミネのイベントに出てたら、観た方に「なんでこんなのにお金払わなあかんの」と言われていたと思うんですよ。でもそれが『お笑いバックスちゃんねる』という無料のYouTube配信だから許される。
ひろゆき それはありますね。
福井 そこでどんどん鍛えてもらっているんですよ。
──ひろゆきさんは今の状況をどう受け止めていますか?
ひろゆき 本当に感謝しかないです。いろんな無茶振りによって、自分ひとりやったら絶対に使わない脳みそと筋肉とを使わせてもらっている。大阪のころやったら「なんでそんなんせなあかんねん」とか「いや、やれへんわ!」とか言っていたと思うんですが、一度舞台に出たら何があるかわからないという環境が今はありがたくて。
福井 彼の大阪時代の口癖が、「ボケはボケだけやっとけばいい、ツッコミはツッコミだけやってボケんでいいねん」だったんですよ。その人が今これだけボケさせられてる。幕張とかスーパーオートバックスにお世話になってよかったな、って。
坂本 ほんとですね。
福井 今の時代はツッコミだけやるとか、ボケだけとか、そういうことじゃなくなってきてると思うんです。全部できる人たちが売れているなかで、僕はツッコミだけ専門でやります、みたいな人はよほどでなければ淘汰されていく気がする。だから彼は幕張とオートバックスにだいぶ助けられてるんですよ。彼をここまで変えるのは、僕らふたりだけでは絶対無理だったと思います。
大宮セブンにおけるGAGの立ち位置
──囲碁将棋のおふたりが、大宮セブンのリーダーは福井さんだとおっしゃっていましたが。
福井 リーダーですか!? 大宮セブンは照れ屋が多いので、みんな「自分じゃない」と言いたくて、なすりつけ合いをしているんだと思います。僕からしたらやっぱりリーダーは根建(太一、囲碁将棋)さんとか野田(クリスタル、マヂカルラブリー)さんとか、今だったら西本くんとか。そういう人たちがみんなで空気を読み合いながら前に出てやっている感じかと。
──なるほど。ひろゆきさんはさまざまなライブでMCとして華麗に場をまわしていますよね? でも大宮セブンのライブではほかとは違ってやや放置気味にも見えるのですが。
ひろゆき 大宮セブン内で屋号を決めるときに「まわし」という屋号を与えられて今もやってますけども、自分は大宮ではMCじゃないと思ってます。皆さんが何かをやられてるのをただ見守って、時間が来たら止めるだけの役割。男子校の先生の感覚です。
──男子校の先生。
ひろゆき 通常はライブって作家さんが作られた台本に沿って進むものですけど、大宮セブンのライブでは何が起こるかわからないので、台本から外れても、予定にない対決が始まっても、止めずに「じゃあそれでいきましょう」と見守る。何かあったら真ん中に引きずり出されることもありますので、MCという意識は本当にないです。
──では、大宮のライブは「時間が来た」以外の理由では止めない?
ひろゆき 時間と、あと舞台袖にいる女性スタッフさんが「止めて!」という顔をしたときだけ止めます。以前女性スタッフさんに「私たちは袖の中にいて、ひろゆきさんしか止める人がいないので」と言われたことがあるので、それだけは守ろうと。
──ひろゆきさんが大宮最後の砦。
ひろゆき そんないいものではないですけど(笑)。
──一方、坂本さんは大宮でもほかの場所でも変わらず、フラットにいるイメージがあります。
福井 坂本くんはガツガツしていないというか、売れたいとかお金持ちになりたいというのが一切ない人で。
坂本 まったくないですね。
福井 吉本に入ったのもただ「楽しいところに身を置きたい」という理由なので、彼からしたらもう今の時点で大成功なんですよ。
坂本 マジでそうです。大宮セブンなんて、楽しいだけの塊じゃないですか。別に僕が前に出なくても出る人はいっぱいいるので、それを観ておけばいい。特に、内弁慶で外のライブではなかなか前に出ない福井が、大宮セブンライブではむちゃくちゃ楽しそうに、ほかの現場の100倍くらい出るんですよ。
福井 そうですね(笑)。
坂本 そうなったらわざわざ割り込んでまで出なくてもいっか、という感じですかねえ。「福井が出ないから代わりにやったんぞ」というのは別の現場でやればいいですし。大宮ではただただ楽しい場所にいるという感覚です。