オーイシマサヨシが「けっこう分離している」と語る、大石昌良の人格と現在の活動

2021.8.22


なぜオーイシマサヨシになれたのか

——だからこそ聞きたいのですが、なぜ大石昌良はオーイシマサヨシになれたんですか?

オーイシ 内省的って言われましたけど、バンドのときはやっぱ自分の心の中と向き合って曲を作ってたので、答えのない答えをずっと探していて。結局は昔の恋人が忘れられないとか、悩んで悩んで、結局答えにたどり着けないまま終わるとか。でも当時はそれが心の拠りどころだったんです。

でも30代になって、少しずつ心が外に向き始めたんですよ。シンプルに言えば「もっと誰かを楽しませたい」って。きっかけがあったんです。サウスケはありがたいことにけっこう早くデビューできました。それこそ21歳とかで。でもバンドが解散になって、シンガーソングライター・大石昌良でデビューしたのが20代後半だったんですけど、そこでいろんな方々と対バンをしたんです。そこで改めて、自分の実力のなさに辟易とさせられたんですね。だからたくさん練習しました。

練習して練習して練習して、「俺のアコギの技術、弾き語りの技術すごいやろ?」みたいな感じでステージをやったんですけど、全然ウケなかったんですよ。「なんでだろう?」って思って、パって隣見たら、僕よりも後にデビューしたシンガーソングライターの方々がめちゃくちゃお客さんの心を掴んだステージをやっていて。たくさんお客さんを呼ぶとか、フェスのような大きなステージとかそういう場所ではなかったんですが、とにかくそのステージにおいては誰よりも輝いていて、お客さんの目も輝いてる。そこで気づいたんですよね、「これがエンタメか」と。エンタメって目の前にいる人をどれだけ幸せにできるか、目を輝かせられるかであって、僕はただの自己満足とか自己顕示欲でステージに立ってしまっていた。じゃあこの「俺うまいだろ?」をどうやってエンタメに昇華できるかを考えるようになったんです。

たとえばMCを勉強して、「これってフィギュアスケートにたとえるとトリプルアクセルくらい難しいことなんですよ!」とト書きで説明するようなことをしたり。そこでやっと拍手をしてもらえたり、聴いてもらえるようになっていって。喜んでもらう、聴いてもらうための技術を学び始めてから、どんどんどんどん心が外に向いていきました。書く曲も変わっていき始めたのが、30代の頭ぐらいだったかな? たまたまそのころに[email protected]と出会って、『ダイヤのA』の主題歌をやることになり、一気に人生がセカンド・ストーリーに向けて動き出したんです。

オーイシマサヨシコーシキブック_オーイシ1
オーイシマサヨシ

——オーイシさんの中にあったエンターテインメントの解釈が大きく転換された時期だったんですね。

オーイシ そうですね。「音楽ファンにだけ届けばいいや」という意識がなくなったんです。もっと言えば「音楽ファンだけに向けて音楽やってたら、メシ食えなくなるわ」っていう瞬間があったので。大道芸に近いんですけど、道端でパッと見たときに、まったく興味がなかったのに足を止めて見てしまうパフォーマンスってあるじゃないですか。そういう技術にどんどん魅了されていったり、食うためにそれを身につけていったり。あのころの経験が大きいと思いますね。

そのころにアニメソングに出会ったわけですけど、アニソンってエンタメに特化した音楽だと僕は思っているので。アニメに出会い、自分がアニメソングを歌い始めたのはかなり運命的なものを感じます。ステージ上での立ち居振る舞いとか、お客さんとのコミュニケーションの取り方とか、アニメソングを歌い始めてから「やっぱこれでよかったんだ」って思うことがたくさんあったので。自分の中にある「エンターテインメントってこれが正解なのでは?」という問いに対する答え合わせが、アニメソングでできたんですよね。

大石昌良/オーイシマサヨシ
1980年生まれ、愛媛県宇和島市出身。シンガーソングライター。アニメやゲームの楽曲はオーイシマサヨシ名義で活動している。また、Sound Scheduleのボーカル・ギター、[email protected]とのユニットOxTのボーカルを担当。ほかにも多くのアーティストに楽曲提供を行っている。8月25日には1stアルバム『エンターテイナー』をリリース。9月19日には、アルバムを引っさげたワンマンライブ『エンターテイナー』がパシフィコ横浜にて開催される。また今秋には、『世にも奇妙な物語 ’21秋の特別編』(フジテレビ)に出演し役者デビューも果たす。


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冨田明宏

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