WAGEのプロデビューと、う大に生じた違和感
そしてついにWAGEは、アミューズ所属のプロの芸人になった。選抜されたのは森ハヤシ、井手比左士、岩崎う大、野中淳(現・手賀沼ジュン)、槙尾ユウスケ、小島よしおの6人(井手はTBSへの就職が決まったためすぐに脱退)。
岩崎 メンバーの選出は、まずプロになりたいかの意志を確認しました。みんな最初はそんなこと言ってなかったのに、チャンスがあるとなるとけっこうやりたい人が多くて(笑)。森さんと井手さんが中心になって、キャラが被ってなくて、実力がある人を選んでいく感じで決めていきました。僕が選ばれることはほぼ決定事項だと思ってたので(笑)、選ばれてうれしいとかはなかったんですけど、僕以外のメンバーで掴んだチャンスだったんで、そこはちょっと申し訳ないなという気持ちはありましたね。
僕と野中は同じ学年で、その下に槙尾と小島。槙尾はフレッシュなかわいいやつって感じでしたね。あんまりおもしろいという印象はなかったけど、お笑い的にはこういう人もいたほうがいいなって。小島はマッチョでパワーがあって。それはほかの人にはない。前に行く精神はすごかったけど、槙尾と同じくおもしろいやつではなかった(笑)。若手ふたり、おもしろさよりもポップな部分を担ってもらうっていう選出でした。
実は、野中はそのときの選考に漏れてるんですよ。野中は納得がいかずに泣いてました。後輩の家で選考やってたんですけど、なんかのCDを「これ借りるわ」ってむしり取るように部屋を出ていって、捨てゼリフのように「俺はもともとミュージシャンになりたかったからこっから1秒もムダにできないんだ!」って(笑)。次の日、ファミレスで第1回目の打ち合わせがあったんですけど、その直前にリーダーから「やっぱり野中は入れたい」って連絡があったんです。野中も嫌だろうなって思ったんですけど、ファミレスに行ったら、ものすごい姿勢よく待ってて(笑)。昨日のトーンからよく普通のトーンでいられるなってくらい上機嫌。あの背筋は今でも覚えてますね(笑)。
「WAGE」は大学サークル出身の5人組ということでにわかに注目を浴び、テレビなどにも出演していった。そうしたなかで、う大にはだんだんとサークル時代にはなかった違和感のようなものが生じ始めたという。
岩崎 始めのころはライブで楽しくいろんなネタをやってたんですけど、僕個人の感覚でいうと、やっぱりアミューズっていうお笑いをやってなかった事務所が新たに参入するってことで、もうちょっと戦略的にやらないといけないってことになったんです。ネタはリーダーと僕が持ち寄って、それをブラッシュアップしていく感じだったんですけど、リーダーのネタが採用されることが多くなっていきました。リーダーのネタは、システマチックできちんとしてる。ちょっと嫌な言い方をすると、お笑いの“保険”が効いてるネタ。僕はもっとまどろっこしいのが好きだから、そういうネタにあんまり魅力を感じなかった。僕のネタがないがしろにされるというと大げさですけど、テレビでやるとなるとリーダーのネタになっちゃう。俺はこれを客席で観てたら笑ってるかなって考えたときに「ん?」ってなり始めて、すごく葛藤してましたね。お笑いを職業としてるけど、自分の思うお笑いと違うお笑いをするっていうのはすごい苦行でした。
でも幸いなことに、WAGEは単独ライブに力を入れてて、単独ライブでは僕のネタもやれるし、槙尾と小島と組んでた3人のユニットでは、まさに今、かもめんたるでやってるような世界観のネタをやってたんです。だから、ずっと楽しくないわけじゃないけど、テレビとか大きな大会に行こうとするとリーダーのネタで行くから、そのへんがどうなのかなあっていう。俺はこんなタイプの芸人を目指してたわけじゃないんだけどなあって。誤解される苦しみというのが大きかった。
当時、『ゼベック・オンライン』(TOKYO MX)っていう番組があって、流れ星とかヴェートーベンと一緒に出てたんですけど、流れ星が好きなことをやってるって感じがしたのですごいうらやましかったです。 やっぱりプロになってお互いの関係性もシビアにはなってたし、リーダーに対しても口うるさい人になっていくんですよね。僕が体調崩したとき、お見舞いに来たリーダーが帰り際に「早く治してくれよ」って言ったんですよ。そんなこと誰よりも俺が望んでるわって思って、それがホントに嫌だなって(笑)。その冷たさがネタにも出てるなって思うようにもなってしまった。リーダーも大変だったと思うんですけどね。もともとはそれこそ一緒にナンパとかしてた仲だったのが、そういうふうになった哀しさはありました。
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