「アホ、ヘタレ、おもんない」と言われた山崎邦正。なぜ月亭方正は40歳で落語の道を選んだのか
『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ)をはじめとする数々のバラエティ番組で人気を博し、「山崎邦正」としての立ち位置を確立していたが、40歳を目前に落語に出会い、新たな道を歩み始めた月亭方正。13年が経ち、落語家として大阪を活動拠点としていた彼が、再び東京に進出しようとしている。
20歳でお笑い芸人として東京に進出してきた彼が、53歳で再び落語家としてなぜ東京に進出するのか。前編では落語家転身当時の思いや、テレビに対する考えを語る。
ずっと落語をあえて遠ざけていた
——方正さんが最初に落語の魅力に気づいたのはいつごろですか?
方正 落語を初めてちゃんと聴いたのは39歳のときです。僕が仕事をしていたテレビの世界は、古いものをぶっ潰して何かを生み出すところだと思っていたので、落語や歌舞伎のような伝統文化はあえて遠ざけていたんですよね。まずおもしろくないだろうと思っていたし。
でも、営業に行ったときに、後輩のチュートリアルやブラックマヨネーズは漫才をやって爆笑を取れるんですけど、僕は20分与えられても、ひとりでできることがなかったんです。人前に出たときの芸がない。
40歳の不惑を前にして、テレビでこのまま誰かに助けてもらってやっていくのかと思ったら、それはもう嫌だなというのがあったんです。
それで、これはあかん、自分が描いている芸人像はこうじゃない、って思って東野(幸治)さんに相談したら「落語を聴いてみたら?」と言われたんです。それで桂枝雀の『高津の富』という噺を聴いたら、あまりのおもしろさに衝撃を受けたんです。そこからどんどん落語を聴くようになり、自分でもやってみたいと思うようになりました。
——方正さんは、ピアノを弾いていたり心理学を学んでいたりして、いろいろなことにチャレンジしている印象があるんですが、それも常に新しいものを探していたということなんでしょうか。
方正 そうです。やっぱりずっと不安だったんですよね。テレビの世界で20年やってきたから、そこの瞬発力はある。「方正さん、今から生放送なんですけど、来てください」って言われたら、何も持たずに行ってそこそこできるとは思うんです。でも、それってお客さんの前の芸じゃないんですよね。僕が求めているのはそれじゃなかった。
——方正さんは若手のころに『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』に出るようになって、何もできない「ヘタレキャラ」のような扱いを受けたときに思い悩んで、芸人を辞めようと思ったこともあるそうですね。
方正 はい、それは嫌でしたよ。僕もけっこう若かったですからね。21〜22歳ぐらいで「アホ、ヘタレ、おもんない」の3つがつくんです。ずっと学校でも「おもろい、おもろい」って言われてきて吉本入った人間が、世間から「おもんない」って言われるんですよ。それがまったく受け入れられなくて苦しみました。
でも、結局、25〜26歳で発想を変えたんです。こうなったら受け入れるしかないな、って。そこから仕事がめっちゃうまいこと回るようになりました。みんなが求めているものと僕が求めているものがすごく乖離していたんでしょうね。
——方正さんの「ヘタレキャラ」のイメージというのは、自分でそうなるように狙っていたわけではなかったんですね。
方正 ただ、別にウソじゃないんですよ。作っているわけじゃないし、自分にはそういう部分も絶対あるんです。ダウンタウンさんやまわりの人が、僕をなんとか商品にしようとしてそういうキャラクターをつけてくれただけなんですよね。結局、僕の実力がなかっただけで。
——「ヘタレキャラ」を受け入れてテレビの仕事が増えてからも、ストレスを溜め込んでいたそうですね。
方正 めちゃくちゃありました。だから、今テレビに出ている人はすごいと思います。それをずっとやっている人は尊敬します。
——芸人がテレビに出るというのは、具体的にどういうところが大変なんですか?
方正 テレビはずっと戦いなんですよ。それで下からもどんどん出てくるでしょう。今なんてすごいなと思いますよ。オズワルドでもコウテイでも、おもろいですもん。あんなやつらと戦っていかなあかんのか、という。そういうのがどんどん出てくる。
あと、グラドルとかが出てきて、そういう人に軽口を叩かれたりするんですよ。「スベってるじゃないですか」とか。もちろんその人も場を盛り上げようとしてそういうことを言っているわけだし、僕もそこはうまいこと「スベってないわ、コラー!」とか言うんですけど、内心では「なんでこんな言われなあかんねん」って思っていたりして。だから、僕にはたぶん合っていないんです。
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