「なぜこんなに若い方がたくさん亡くなっている?」日本人僧侶が明かす“技能実習生の実態”

2021.6.30

無言の帰国をさせないために

ともいき支援会では6年間の活動で、これまで合わせて5000人以上の人を支援してきたという。そこまでできるのは、なぜなのだろうか。

──吉水さんがここまでしてベトナム人技能実習生の支援をする原動力は、いったいなんなのでしょうか。

吉水 私はお寺の僧侶で、ベトナムとのつながりは1963年、ベトナム戦争のころに父がベトナム人の僧侶の方の支援を始めたことに遡ります。子供のころから、家にベトナム人のお坊さんがいるのが当たり前の環境で育ったんです。さらに2011年の東日本大震災のときに大使館から在留ベトナム人の受け入れを要請されて、84人の方を受け入れたことから在留ベトナム人にお寺の名前が知られるようになりました。

そこから大使館の依頼で、日本で亡くなった在留ベトナム人のお葬式もするようになったんです。それで、6年前から困窮しているベトナム人技能実習生を支援するともいき会の活動をスタートさせました。このような支援は、僧侶として、人として当たり前のことだと思ってやっています。

吉水氏と彼女が支援しているベトナム人たち

──今の日本社会において、技能実習生はなくてはならない存在となっていますが、お話を伺って、使い捨てのように扱われている現状を知ってとてもショックでした。

吉水 実習生が働いているのは、農業や水産、製造業など日本人がきついと嫌厭するような業種ですが、それはベトナム人にとってもきつい仕事なんです。でも、彼らは僻地であろうがきつい仕事であろうが給料を払えば仕事してくれるのだから、大事にしなければなりません。

実習生は家族に送金したり、貯金したりするために、借金というリスクを背負ってまでも日本に来ています。無言の帰国をさせないためにも、まずは死なない支援が必要です。そうしないと、命を落とす人は減りません。

実習生を「人」ではなく「コマ」のように扱う様子は『海辺の彼女たち』でも描かれていた。仕事で失敗すると「早くして」「ベトナムへ帰すよ」といったひどい言葉を投げつけられる。

しかしそれでも3人は指先が凍りつきそうな寒さのなか、立ちっぱなしで黙々と漁港で水揚げされた魚をより分け、洗い、発砲スチロールの箱に詰めて、働きつづける。彼女たちのような実習生の重労働によって出荷された魚が、スーパーで売られたり回転寿司のネタとなったりして、私たちの口に入る。

コンビニなど目につくところで働いているのは一部の日本語が上手な人で、実習生の多くは実際、工場や第一次産業のような場所で働いており、日本社会から見えない存在として扱われている。しかし身のまわりにはいなくても、実習生は日本中におり、その存在が社会を支えている。『海辺の彼女たち』を観たり本稿を読んだ方の中から、少しでも技能実習生や失踪問題に関心を寄せる人が増えてくれたらと願わずにいられない。

映画『海辺の彼女たち』メイキング写真

■参考文献
『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』望月優大/講談社現代新書/2019年
『ルポ 技能実習生』澤田晃宏/ちくま新書/2020年

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