コスパの悪さが説得力を持つ 『いつか中華屋でチャーハンを』増田薫インタビュー

2021.4.26

文=松永良平 編集=森山裕之


8人組ソウルバンド・思い出野郎Aチームでバリトンサックスを務める増田薫が、初の漫画エッセイ『いつか中華屋でチャーハンを』を刊行した。

グルメサイトを見ても詳細がわからない、電話で取材依頼するわけにもいかない全国の中華屋にあるまだ見ぬメニューを求めてどこまでも歩き、食べつづけ、市井の人たちに話を聞いた記録。その先に見えてきたもの。

東京、京都、大阪、兵庫の4都府県に改正特別措置法に基づく緊急事態宣言の発令された今、お店で一杯飲めなくなった今、『いつチャー』を読み、全国の中華屋に想いを馳せる。


スタミナ定食を100食食べて、太った

増田薫(ますだ・かおる)多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒。児童向け絵画教室勤務。フリーランスで主に紙媒体のデザイン、イラストなどを制作。8人組ソウルバンド・思い出野郎Aチームのサックス担当。ウェブメディア『ジモコロ』の連載をきっかけにマンガを描き始め、本書が初の著書となる。

――初めての単行本『いつか中華屋でチャーハンを』。WEB連載中から読んでましたけど、1冊にまとまって、あらためておもしろさに感服しました。そもそも中華料理屋に行って本筋のメニューを食べない、というのはなぜ? そして、そういった行為はいつから始まったんですか?

増田 もともとインターネットがきっかけで知り合った、昔からお世話になっている「zukkini」という人が始めた〈ハイエナズクラブ〉というサイト(https://hyenasclubs.org)がありまして、そのzukkiniさんから「スタミナ定食の“スタミナ”ってなんなのか、ちょっと調べて記事にしてみてよ」と言われたんです。zukkiniさんは「3つ(事例が)集まったら“現象”だ」と言っていて、僕もスタミナ定食を3つ食べて記事にすればよかったみたいなんですけど、なんやかんやで結局100食とか食べて記事にしたり、あと「中華屋のカレーって誰が食ってるのか気になるから、それも調べてみて」とも話してたのでなんとなく中華屋で見つけたら必ず食べるようにしてみたり。

連載「いつか中華屋でチャーハンを」どこでも地元メディア ジモコロ sponsored by イーアイデム(https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/

――そうか、じゃあ最初は「頼まれ」仕事だったんですね。

増田 そうですね。カレーも3店食べて報告すればよかったんですけど、食ってるうちに中華屋のカレーもいろいろ種類があるなあと。さらに中華屋にあるオムライスや他のメニューも気になってくるじゃないですか。それで定番以外のメニューも食べるようになって、そうやって食べたものをTwitterでアップしてたんですよね。だいたい2015年くらいだったかな? そういうことをしていたら、大学の後輩が『ジモコロ』というWebメディアの編集を担当するようになって、「増田さん、何か描けないですか?」と依頼されまして。「たぶん、描けると思う」「じゃあ、中華屋の話でどうですか?」みたいなわりといい加減なやり取りで連載が始まりました。

──2015年くらいだと、「思い出野郎Aチーム」でバリトンサックス担当のメンバーとして増田くんと僕はすでに知り合ってました。確かにある時期、すごく太ったと言われてた記憶がありますね。

増田 まさにその頃ですね。スタミナ定食にカレー、オムライスと、炭水化物を鬼のように食ってたんで、まあ、太りました(笑)。

──その頃は、中華屋食べ歩きが原因だとは知らなかったけど、こうして1冊の本として実を結んでよかった(笑)。僕の知り合いで思い出野郎のことも知らない人があるとき、「中華料理をものすごく美味そうに描く人がネットにいてさ、この人知ってる? 本出したら絶対売れると思う」と見せてくれたのが、「いつか中華屋でチャーハンを」の連載だったんですよ。

増田 えー! いい人ですね(笑)。最初のラフのやり取りでは実際に食べた料理の写真を載せたらいいんじゃないかと言われたんですけど、僕から「全部絵でいきたい」と伝えました。紙でもWEBでも漫画読んでいて、途中に写真が入ってくるのは個人的にあんまり好きじゃなくて…。あと、僕が物心ついた頃、家に『クッキングパパ』(うえやまとち)が全巻あったんですけど、あれを読んでると料理の絵がドーンと出てきて、あれがいいじゃないですか。だから、この連載は『クッキングパパ』を下敷きにしているんです(笑)。キャラクターはシンプルにして、急にちゃんと描いた景色や料理が出てくるのも、あの画風を参考にしました。

『クッキングパパ』第1巻(うえやまとち/講談社)

エロ本をデザインしながらバンド活動を


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