aiko、年齢を重ねても“変わらない”理由「22年目にして、さらに前向きに」

2021.2.25
aiko インタビュー

文=もりひでゆき 撮影=神藤 剛
編集=渡部 遊


デビューから22年が経ったaikoは、変わることのない瑞々しさを保ったまま音楽活動を続けている。約2年9カ月ぶりのアルバム『どうしたって伝えられないから』においても、音楽に対する真摯な姿勢は一切ブレることなく、新たなニュアンスを織り交ぜながら最新の物語たちを繊細に紡ぎ上げてくれている。

彼女の音楽が多くの人の心を捉えて離さないのはどうしてなのか? 人間性に肉薄するインタビューでその秘密を紐解いていく。

※この記事は『クイック・ジャパン』vol.154に掲載のインタビューを一部抜粋し転載したものです。

安心と不安が背中合わせ

aiko クイック・ジャパン vol.154より
aiko(あいこ)1975年生まれ、大阪府出身、歌手

──この1年の間に生まれた曲たちには、コロナ禍での世の中の空気やaikoさん自身の感情が反映されていると思いますか?

うん、反映している部分はきっとあると思います。コロナ禍に書いた歌詞なんかは、今までとちょっと違っているのかもなって。

──今回は「部屋」とか「洗濯カゴ」とか「毛布」とか身近にあるワードの出てくる曲が多いような気もしますよね。もちろんこれまでのaikoさんの曲にもそういうワードは使われていたわけですけど。

でも家にずっとおったから、より日常的なことが目についたところはあったとは思います。

──お家時間を過ごす中で、今まで以上に自分自身と向き合うこともありましたか?

自分自身と向き合うということに関して言うと、私の場合は曲を作ること自体はそういう意味合いを持っているんですよ。だから曲を作ってる最中には自分としっかり向き合うことができていたと思いますね。

自分的にいい曲ができたなって思えたときは飛び上がるくらいの幸せを感じていたし、逆にそれが上手くいかないときは谷底に突き落とされたような絶望感を味わうことになるっていう(笑)。コロナの最中は余計にそういう感覚が強かったです。

──いい曲ができたときには自分自身を肯定できたような感覚になるんですかね?

肯定してるのかなぁ……。と言うよりは安心という気持ちのほうが大きいと思う。まだ続けられる、まだ行けるかもしれへんっていう一瞬の安心っていう感じ(笑)。

──その安心のすぐ隣には「曲が出てこなくなったらどうしよう」といった不安もあるわけですか?

あるある。全然ありますよ。曲が出てこなかったらね、すぐにやめてネットやラジオの世界に飛び込みますけど(笑)。今日はできひん日やったから、また違う日にやってみようって。

この20数年間、曲ができなくてもがき苦しむということからほんとに逃げて生きてきたんですよね。その苦しみを味わったら曲を作ること自体、絶対イヤなものになっちゃうと思っているので。

──曲ができるまで根を詰めることはあまりないですか?

ほとんどと言うか、まったくないです。そういうやり方になったのは『ナキ・ムシ』(1999年リリースの2ndシングル)という曲がきっかけだったかもしれないですね。当時のプロデューサーに「自分の好きな曲を好きなように歌うのがいいんだよ」って言われたんですよ。そのときは「自分の好きな曲ってどんなんやろう?」って思ったりもしたけど、じゃあ自分の直感を信じて、自分が楽しいものを形にしようと思うようになったんです。

悩んで悩んで何カ月もかけて作った曲が意外と届かなかったりっていう経験もありましたからね。それ以来、そういう作り方は一切変わっていないんです。

──aikoさんのクリエイトには瞬発力が大事だと?

うん。だからPro Tools(音楽編集ソフト)を使って曲を作るのは難しいんですよ。一個ずつ音を積み重ねていく作業ができる人はほんとにかしこ、天才ですよ! 私はもう30分同じことしてたら作っているものの良し悪しがわからなくなってしまうんですよね。

以前、岡村(隆史)さんの『オールナイトニッポン』にリモート出演させていただいたとき、岡村さんが賞味期限の切れた桃の缶詰を開ける企画があって。

──去年の4月ですよね。番組終了後すぐに「ホワイトピーチ」というオリジナル曲をツイッターにアップされていて。

うん。番組中に「aiko、これはもう『ホワイトピーチ』って曲ができるんちゃうか?」って岡村さんに何回も言われたんで、これはほんとに作るべきだなって思ったんですよね。ただ、30分くらいピアノに向き合って作業してたら、何が合ってるのかがまったくわからなくなってしまって。

横にいたマネージャーはずっと「大丈夫です!」って励ましてくれてたんやけど(笑)、私は「これでいいのかな……」って思いながら作り上げてツイッターに上げたんです。っていうくらい根を詰めた作業が苦手なので、だからPro Toolsもなかなか使いこなせないっていう話なんですけど(笑)。

──でもaikoさんのケータイサイト『Team aiko』内の有料会員コンテンツ「あじがとレディオ」ではPro Toolsで作ったジングルを披露していたじゃないですか。

ジングルはピアノとボーカルとコーラスを積むとできるんで、それくらいやったらなんとか大丈夫なんですけど。そんなんPro Toolsでできることのほんとの上澄みの部分くらいですから(笑)。

まあでも、ああやってジングルを作ったりするとまわりの人にほめてもらえたりするので、楽しみながらもっと使いこなせるようにがんばりたいです。ほめられて育つタイプなので(笑)。

好きなものは22年間、一貫している

aiko クイック・ジャパン vol.154より
aiko

──女性に年齢のことを言うのもアレですけど、aikoさんは昨年11月22日で45歳になられましたよね。

はい。

──ご自身の年齢、世代観みたいなものを強く意識する瞬間ってあったりしますか?

あーどうなんやろうな? ツイッターなんかを見ていて、「それ心の中で思ってたらいいことやん!」っていうようなコメントに遭遇したときに、「あ、私45歳やねんな」って思ったりすることはありますね(笑)。そのコメント書いた人の家に行きたいくらい。「ちょっとゆっくり話そうか」って(笑)。

──あははは。ちょっと失礼なタイプのコメントだったんですかね。

うん。あと、「俺のお母さん、aikoと同い年」って書いてる人を見たりしても、「そっかー!」って思ったりもします。そのコメントを書いてくれてた子は私の曲を聴いてくれてるみたいなんですけど、それってどんな感じなんやろうなって思っちゃいますよね。お母さんと同い年の人の曲をどんな気持ちで聴いてるのかなって。

──長く活動しているとファン層はどんどん幅広くなっていきますよね。

そうですね。私がデビューした年にはまだ生まれていなかった子たちがライブに来てくれたりもしているので、そういう部分でものすごく長い時間が過ぎたんやなってあらためて実感することはありますよね。

──でもaikoさんの場合、若い子たちが過去の活動をさかのぼったとしても、さほどギャップは感じないと思うんですよ。楽曲はもちろん、見た目的な部分に関しても。

そんなことないです! 優しいな(笑)。でも見た目的な部分を保つようにいろいろ気をつけてはいますよ。いっぱいお風呂に入って、めっちゃ保湿したりとか。いろんなビタミンを摂るようにしたりとか。

だってね、「いつまで恋愛の曲歌ってんねん」とかいろいろ言われるじゃないですか。今回のアルバムのタイトル(『どうしたって伝えられないから』)を発表したときも、「またメンヘラな曲が多そうだな」とか書かれたり。「もう、うるさいっ!」って思ったりはするんやけど(笑)、でもみんなの前に出たときに年齢的な部分で「アレ、なんか変わったよね?」って思われるよりはね、がんばって重力に逆らっていきたい気持ちはやっぱりあるので(笑)。

いろいろ自分なりに努力しながら、ずっと変わらずにおもしろおかしく笑っていたいなって思います。楽曲に関しては、さっきも言いましたけどあんまり若さを保つみたいな意識はないですけど。

──曲はずっと変わらず、好きなものを好きなように作り続けられているから。

そう。そうやって22年間やってこられたのは自分の中の好きなものが一貫してるからかもしれないです。22年間やってきてもあんまり変わらないから、きっとこのまんま変わらないんだろうなって思いながら今も生きてる。

ただね、そこが変わらへんのに外見は徐々に変化していくので、そこのバランスのズレに戸惑うことはあるんですよ。だから、それを解消するために家では子供みたいにパジャマをズボンにインしてみたりとか(笑)。

──あははは。それで解決するんですか?

わからんけど、年齢に抗ってみる。家で着るのをかわいいキャラクターっぽいものにしてみたりとか、誰も見てないのにツインテールにしてみたりとか(笑)。私の場合、心の成長が人より遅いんだと思うんですよ。

10代から20代前半の子たちがよく観てるYouTubeの配信動画でめっちゃ笑ってますからね。で、ふと鏡を見て「マジか……!」って思ってしまうっていう(笑)。なので見た目的な矯正はしていきたい。

悲しいときに悲しいと言える環境を

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