次の世代をサラブレッドに
――この本は世の夫婦関係、恋愛に悩む人々に語りかける、かなり実用的な本になっていますよね。
平子 その点は気をつけましたね。僕だけの感覚で言うならば「好きで好きでしょうがない、毎日抱いていたい」の一行で終わっちゃうので。自分の感覚を細かく紐解いて書いたつもりではありますね。
当時は芸人のアイドル視が今よりも強く、彼女ができても公表する芸人は少なかった。でも関係なかった。だって隠し切れないほど綺麗な彼女ができたから。今でも僕は真由美を「美人妻」と公言している。他人からの反応はどうでもいい。僕にとって美しい妻なのだから、それは間違いなく美人妻なのだ。
『今日も嫁を口説こうか』
――平子さんのこのまっすぐな愛妻ぶりはどこで培われたものなのでしょう?
平子 妻と出会う前からそうだったかというと違うんですが、ただうちの両親も妻側の両親も、お互いを好きで、それをちゃんと態度に出して言葉に出してっていう家庭だったんですよ。
――両家とも。平子さんのご家庭もですか?
平子 父は東北の港町の親父としては珍しいですけども、愛情はきちんと表現する男です。その影響はもちろん大きいでしょうね。その点でいうとサラブレッドなんですよね、うちの家庭は。愛情をちゃんと伝え合う両家が出会っているわけで。

――すごいです。なるべくしてなった夫婦関係というわけですね。
平子 そう、家庭環境って次の代に連鎖することがありますよね。だからこそ、たとえば親が乾いた関係ならば、自分たちの世代でせき止めるという気持ちを持ってほしい。自分たちが変わることで、次の世代をサラブレッドにすることはできるわけですから。
「好き」だけでどうにかなった
――奥様である真由美さんとの出会いから現在までのことが順を追って書かれている中で、芸人として芽が出る前の苦しい時期を真由美さんに支えられたというエピソードがありましたが、支えられていることに引け目を感じたり、金銭的に厳しいことでふたりの仲がぎくしゃくしたりということはなかったんですか?
平子 全部、「好き」だけでどうにかなりましたね。もちろん、妻を好きというだけで芸能活動はうまくいかないですけども、好きだからこそこの家庭の柱になるためには、夢であった芸能を捨てて構わないや、って。
駅広告の付け替え作業のバイト先でクビを告げられたその日の夜、僕は真由美に「もう芸人辞めて就職するわ」と告げた。
『今日も嫁を口説こうか』
僕は嬉しかった。ここまで下積みを続けてきた芸人という夢を、なんの後ろ髪を引かれることなくサラッと辞められるほどの女性に出会えたのだ。少し待たせてしまったが、この子への責任感が自分の夢を上回った。その事実が純粋に自分を高揚させていた。
ところが、だ。真由美は一瞬キョトンとしたかと思うと、ニヤッと意味ありげに笑った。不意に立ち上がると、口でドラムロールを奏でながら戸棚を漁っている。大げさな「ジャン!」のタイミングで僕に何かを手渡してきた。青い通帳だった。
――好きだけで乗り越えられた。
平子 乗り越えられました。乗り越えさせてもらった、ですけど。

「夫婦仲よし」は超ドライな考え方
――平子さんの考え方がテレビなどで特殊なものとして扱われることについては、どう考えてらっしゃいますか?
平子 そりゃ最初は面食らいました。でも結局、芸人として恐ろしいのは「真ん中」ですからね。鬼嫁エピソードと夫婦仲よしエピソードって対極だけど、どちらも幅が取れているから映える。振れ幅が大きいぶん、常に作り込みは疑われますけども。スタッフさんに「どこまで作ってるんですか」って聞かれたりもしますし。もし作ってたら、もうちょっと起承転結のある話しますよ(笑)。
――予想外に笑われてしまうことって、芸人さんとしては不本意な部分もあるのでは?
平子 まあ、思っていたところと違う部分で反応があって、そっちを伸ばさざるを得ないというのは芸人あるあるですからね。あとは、さんまさんなり千鳥なり、まわりの実力者たちがおもしろくしてくれたのは大きいです。僕はただ事実をしゃべっているだけなので。

――本を読んで、要は物事の捉え方のお話だなと感じました。みんながネガティブに考えがちな夫婦関係について、ポジティブに捉えるという。どうしたらそういう考えに至れるんでしょう?
平子 逆にドライなんだと思うんですけどね。「好きだから結婚して、仲よしで、何がおかしいんですか」って実はドライで、超現実的な考え方ですよ。ネガティブって、実はすごく気持ちよく浸れるものでもあるんですよね。だからどんどん沼にハマっていっちゃう。関係性で悩みを持っている人って、もちろん本当に困っている人もいるけれど、半分以上はその悩んでいる自分に酔っている人なんじゃないかな。明日食べるものがどうこうじゃなく、そういう「感覚的な悩み」を持てるって、実は恵まれてるってことですよ。まあそれでも、ただ背中をちょんと押してもらいたいだけってことなら、僕みたいなもんでも手を添えるくらいはできるかなと。
――お話を伺っていると、この本はだいぶ社会を救うかもしれないです。
平子 言ってみればこれって想像力の話なんで。全員がこういった感覚で想像力を持てれば、戦争なくなるはずですからねえ。
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