岩井俊二×行定勲、師弟対談。これからのコミュニケーションのあり方を考える

2020.9.11

映画を作る上でのコミュニケーション法

『チィファの手紙』は中国の俳優やスタッフとの共同クリエーション、『窮鼠はチーズの夢を見る』は男性同士のラブストーリーである。両監督によってこれまでとは異なる撮影の環境で、どのようにコミュニケーションを取っていたのだろうか。

行定 縦割りの社会というものが、コロナ以降は問われるようになるはずです。そこで僕としては「縦じゃなくて横」だと思っています。つまり横の関係におけるいいものは取り入れて、その結び目を作っていくことがより重要になると感じています。

もし縦の関係で関わりたいのであれば、それは前を歩いている人たちが、その次の世代をフォローしていくことなんじゃないかと。『チィファの手紙』で感じたのですが、ピーター・チャンという中国映画界で前を歩いている人が岩井俊二という才能を認め、それをフォローしている。こういう縦関係なら、うまくいくんですよね。

岩井 ピーター・チャンのフォローは大きかったですね。でもコミュニケーションを取ること自体に関しては、さほど大変ではなかった。俳優陣とは「WeChat」というアプリでやりとりできましたし、簡単な英語も通じるので。ただ演出に関しては、日本の感覚でやるとリアルな中国の風俗や慣習からずれてしまう。だから、まず現地のスタッフに台本を基にしてベースを作ってもらいました。

これってすごく大事なことなんです。たとえば、海外の監督が日本で映画を撮ったとき、日本の俳優が日本語で演技しているのになぜかカタコトの日本語になっていることがあります。僕が一番避けたかったのはこれですね。中国の方々にとってリアルな言葉になるように作り変えてもらう。相手を信じて委ねる、これがナチュラルな映画を作る最適な方法だと思います。いかに自分が“わかっていないか”を晒せるのかが重要でした。もちろんこれは、日本で作るときでも重要なことではありますね。

中国で撮影する上で現地のスタッフにベース作りを任せたという岩井監督

行定 僕は『窮鼠はチーズの夢を見る』という題材をいただいたときに、自分自身の経験を作品に投影できることって少ないと思ったんです。恭一はヘテロセクシャルなので彼の気持ちはよくわかりましたが、今ヶ瀬というゲイの青年の感情のあり方はわからなかった。だから、僕は僕で、演じる成田くんは成田くんで、多くのゲイの方と出会い、コミュニケーションを取って知っていきました。

それにこれは男同士のコミュニケーションの話なので、ぶっちゃけた話ができるんですよ。これが非常におもしろかった。それと印象的だったのが、「自分たちは女性を知る前には、よく男同士で触れ合っていたよね」という話を主演のふたりとしたことです。そういう意味では誰しも、根源的に“男同士で意識し合う”ということがあったのではないかと。これからセクシャリティが変わる可能性だってあるかもしれませんし、それを探求する撮影でもありました。

撮影現場では俳優たちと密にコミュニケーションを取っていたという行定監督

岩井 なるほど。だから、真実味があるものに仕上がっている。

行定 この映画では、男同士の幸福感を描きたかったんです。でも脚本家の堀泉杏さんの狙いとしては「多幸感では終わりたくない」と。だからこそ、ふたりの間に女性を介在させることで、その関係に背徳感が生まれる。この背徳感まで感じさせられたら、本物の恋愛になると思って撮りました。

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  • 映画『チィファの手紙』

    2020年9月11日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
    原題:「你好、之華」
    原作・脚本・監督:岩井俊二
    プロデュース:ピーター・チャン、岩井俊二
    音楽:岩井俊二、ikire
    出演:ジョウ・シュン、チン・ハオ、ドゥー・ジアン、チャン・ツィフォン、ダン・アンシー、タン・ジュオ、フー・ゴー
    配給:クロックワークス
    (c)2018 BEIJING J.Q. SPRING PICTURES COMPANY LIMITED WE PICTURES LIMITED ROCKWELL EYES INC. ZHEJIANG DONGYANG XIAOYUZHOU MOVIE & MEDIA CO., LTD ALL Rights reserved.

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  • 映画『窮鼠はチーズの夢を見る』

    2020年9月11日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー(R15+)
    監督:行定勲
    原作:水城せとな「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」(小学館「フラワーコミックスα」刊)
    脚本:堀泉杏 音楽:半野喜弘
    出演:大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子
    配給:ファントム・フィルム
    (c)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会

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