舞台を観られなくても、“演劇”が忘れられないように
ただでさえ膨大な時間と労力がかかる芝居の稽古をオンライン上で行うには、俳優陣にも相当な苦労があったという。根本は「まずは自分のノートパソコンのどのあたりに内蔵マイクがあるのかを探るところからスタートしました」と笑い、そのまま画面上で自分のキーボードを指差して「このへんの、真ん中にマイクがあるらしいんですよ」と教えてくれた。
「オンラインのお芝居って稽古も大変そうですよね」と尋ねると、彼女は矢継ぎ早に稽古時のエピソードを話してくれた。
「たぶん私たちの探り方がすごいアナログだったんですけど……。まずは私も含めて、役者それぞれがパソコンのいろんな場所に近づいて、声を出してみて。『ここに近づくと声が割れちゃう』みたいなポイントがひとりずつあるので、なるべくそれを抑えられるように声を出してみるっていう作業を地道にやりました。普段の俳優にはまったくいらない能力が鍛えられたというか(笑)。撮影する時間帯も、回線が混んでないタイミングを探りつつ撮っていって、でも誰かがトチると最初からになっちゃって。編集なしのワンカット収録なので、撮影は2日間で5時間ずつくらい撮って一番いいテイクを使いました。最後にNG集も入ってるんで、数々の失敗した部分も観られるんですけど……」
『超、リモートねもしゅー』のプロジェクトが始動してから1週間、根本をはじめ俳優の椙山さと美、安川まり、ゆっきゅんの4人は毎日3〜4時間ほどオンライン上で稽古を重ねた。そして作品がある程度できあがった段階でチャラン・ポ・ランタンの小春に劇中楽曲の制作を依頼し、ようやくリモート版『あの子と旅行行きたくない。』が完成する。出演者だけではなく気心の知れた関係者にスピーディに動いてもらったことで、2週間という短期間での配信が実現した。
「まず1本目を出すまでのスピード感が大事だな、と思って。お客さんが一番退屈してる時期に作品を出したかったというか、みんなが『観たいな』って思ってる時期に観られるものがあることが大事かなって。演劇が忘れられないように、じゃないですけど……。でも、稽古しないで台本見ながらやってもおもしろくないし、俳優にある程度の負荷がかかってるほうがいいものになると思ったので、みんながそれなりにプレッシャーを感じる状況を作って、でも演じてるほうも楽しめるっていうラインを探りながらやっていました」
試行錯誤の末に完成したリモート芝居『あの子と旅行行きたくない。』には、彼女自身も手応えを感じているという。
「次は『超、リモートねもしゅー』でやることを前提に新作を書いてみたいと思ってます。演劇だけじゃなくてミュージシャンの方も、いろんな形で配信をしてるじゃないですか。そういう新しい表現を観るのも楽しみだし、自分でも新しいことを思いついたらどんどんやっていきたいです」
不安ばかりで、せっぱ詰まった状況だからこそ
劇場は、今も再開のめどが立っていない。先人たちの情熱と努力によって受け継がれてきた演劇という文化の灯が、儚く消えてしまうかもしれない。リモート芝居という形でいち早くアクションを起こした彼女もまた、演劇人のひとりとして苦境に立たされている。
「まずは演劇をやれる場所がなくなってしまわないか、劇団や劇場、プロデュース会社がどれくらい持ちこたえられるのか、っていう不安はとってもあります。私も個人でやってるので、公演を中止にしたらキャンセル料を払わないと劇場が終わっちゃうし、でも払ったら払ったでこっちも危ないっていう。興行が公表される前に中止になってるものだって数え切れないほどありますし、生活が危ぶまれてる俳優さんも多いし、そういうことを考えると自分も含め、かなりせっぱ詰まった状況だと感じてます」
根本自身もすでに構想していた作品のいくつかが延期や中止の選択を余儀なくされた。舞台に出演する予定だった俳優に電話でそのことを直接伝えるのが、一番心苦しいのだという。
「ただ、どうしよう……って悩んでるよりは、こうやって何かしら作品を作ったりしてるほうが自分の精神衛生上もいいですし、お客さんにも楽しんでもらえるから。同じ演劇業界の人からしたら『根本は呑気そうだな』って思われてるかもしれないですけど(笑)。個人だから、私が止まったら全部が終わっちゃうから」