『虎に翼』の母娘像にも重なる“価値観の違い”。脚本家・吉田恵里香×月岡ツキ「自分らしい生き方」の選び方

2026.10.12

文=ねむみえり 撮影=飯田エリカ 編集=高橋千里


人生の節目で迫られる選択は、時に正解を求められるような息苦しさを伴う。「子どもを持つ・持たない」を入口に、私たちはどのように自分らしい生き方を選べるのか。

子どもを持たない既婚女性11人に話を聞いたノンフィクション書籍『今世は母になりません』(太田出版)では、連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)などを手がけた脚本家・吉田恵里香と、著者・月岡ツキの対談が実現。

月岡ツキ『今世は母になりません』(太田出版)
月岡ツキ『今世は母になりません』(太田出版)

QJWebでは、書籍に収録しきれなかったパートを特別にお届けする。

※本記事は『Quick Japan』vol.186にも掲載しています

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子育てが大変な時期に『虎に翼』の脚本を執筆

月岡 『今世は母になりません』は、母にならないと決めた人や迷っている人だけでなく、母になったけれど「もし自分が子どもを持たなかったら」という“if”の世界線をのぞいてみたくなった人にも手に取ってほしいと思っています。今、吉田さんのお子さんはおいくつですか?

吉田 もうすぐ6歳になります。『虎に翼』の脚本の話が来たときは2歳ぐらいだったかなと思います。

写真左:月岡ツキ(つきおか・つき)1993年生まれ、長野県出身。コラムニストとしてエッセイやインタビュー執筆などを行う。働き方・地方移住などのテーマのほか、子どもを持たない選択についても当事者として発信。Podcast『となりの芝生はソーブルー』『月岡ツキの月面通信』配信中/写真右:吉田恵里香(よしだ・えりか)1987年11月21日生まれ、神奈川県出身。脚本家、小説家。代表作に連続テレビ小説『虎に翼』、ドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』、ドラマ・小説『恋せぬふたり』など

月岡 これまでに吉田さんが出演されたインタビューも拝読したのですが、「ご家族のサポートがあって、なんとか乗りきれた」ということをお話しされていました。子育ての大変なタイミングで、朝ドラというとても重くて大きい仕事を受けることに、躊躇(ちゅうちょ)されたりしませんでしたか?

吉田 私としては「やる」一択しかなかったので、どうやったらできるかなという感じでしたね。うちの子は、比較的体が強くて、あまり体調を崩すことはなかったんです。

それでも寝込むことがあったり、コロナやインフルエンザのような感染症にかかることはあったので、思いどおりにならなかったことはたくさんありましたね。独身のときみたいに、24時間全部自分のために使えるというのは、すごく最高なことだったんだなと思いました。

月岡 そうですよね。昔から子どもが欲しいと思われていたそうですが、仕事への影響については考えましたか?

吉田 少し考えたんですが、最終的に母親のフォローが大きかったです。子どもが欲しいなと思って、人間ドックや検診に行ったら、「少しできにくいかもしれないから、いろいろ試してみて」と言われていたんです。なので、ぼちぼちやってみるかと思っていたら、ラッキーなことにすぐに妊娠したんですよ。

そのときに、まわりからは「子どもが2~3歳になるまでは、仕事はセーブして連ドラのセカンドライターとかで実績を積むのがいいんじゃないか」と言われていて、そういうものかとも思っていたんです。そうしたら、母親から「ここまでがんばってきたんだし、サポートするから、今までどおりの仕事量でやりなさいよ」と言われて。

月岡 お母様、すごくかっこいいですね。

吉田 母の言葉が、明確に自分の中の分岐点ですね。

妊娠中に『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京)というドラマを書いたんですが、それをきっかけに『恋せぬふたり』(NHK)のオファーがあったんです。そこで『虎に翼』のプロデューサーと出会って、そのあとすぐに「朝ドラを一緒にやりませんか」とお声がけいただいて。

もし仕事をセーブしていたら『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』は書いていなかったと思うし、今のこの人生のルートはなかったと思うんですよ。そういう本当に小さいきっかけで人生が変わったなと感じるので、“if”のルートについてはすごく考えるようになりました。

月岡 お母様の言葉がなかったら、今のこの人生はなかったと。

吉田 そうですね。仕事も、もともと脚本家を目指していたわけではなく、大学時代に事務所の人とたまたま出会って、脚本の手伝いを始めたことがきっかけでこの業界に入ったんです。だからこそ、子どもをきっかけにいろんな可能性とか選択肢を消したくないなという気持ちは特に強くなったかもしれないですね。

違う価値観を持つ人がいることに、世の中が慣れていない

月岡 私が、前著『産む気もないのに生理かよ!』(飛鳥新社)を書いたり、子どもを持ちたくないということを話していることに対して、私の母親は当初はあんまりよく思っていなかったんですよね。母親は子どもを産んで育てることが女の人の幸せだと考えていたから、たぶん、私が幸せから遠ざかる行為をしていると思ってたんだろうなと。

でも私が結婚して、夫と楽しく暮らして、仕事も楽しくやって、どんどん元気になっていく様子を見ているうちに、「こういうのもありなんだ」って最近思うようになったと言っていて。

そういう生き方を知らなかっただけで、いろんな人を目の当たりにしていくなかで変わっていくものもあるのかなと思って、母親の言葉にはすごく希望を感じたんですよ。

吉田 その人にとってはすごく大事な価値観があるから、「この人はそれが幸せと思ってるんだね」と切り離せるのはいいですよね。

月岡 母親は4人の子どもを育ててきたので、たぶん、子育てをすごくがんばってきたという自負があるんだと思います。私もそこは本当に尊敬してます。でも私と母親は全然違う性格で、小さいころから価値観が合わなかったんですよね。

私が生きたいように生きると、母親の価値観を否定しているような罪悪感を抱いてしまうんですが、母親の求める生き方をすると、私は全然幸せではなくなってしまう。なので、最近やっと「あんたの幸せはこういうことだったのか」とわかってもらえてうれしかったですね。

『虎に翼』で、石田ゆり子さんが演じるお母さんが、弁護士を目指す主人公・寅子に対して、「今、お見合いしたほうがいい。そのほうが間違いなく幸せになれる。それでも本気で、地獄を見る覚悟はあるの?」と言っていたシーンは、他人事とは思えなかったです。

吉田 親子とはいえ違う人間だから、価値観が違うのは当たり前なんですよね。でも、自分と違う価値観を持った人がいると、自分を否定された気持ちになっちゃうことはある。そこは慣れの部分もあると思うんですけどね。

月岡 そう思います。「子どもを持ちたくない」と言うと、子どもを育てている人からすれば、自分たちの暮らしや価値観を否定されている気持ちになるから、過剰なバッシングにつながるんじゃないかと感じています。

「“子なし”はこういう奴で、ヤバい」とか「こういう奴らがいるから日本が滅ぶんだ」とかネットで言ってる人の中には、子どもを育てている女性と思われる方もけっこういるんですよ。

吉田 自分を肯定する要素として子育ての割合が多いと、「子どもを持ちたくない」という意見が出てきたときに、自己肯定感が揺らいでしまう感覚はわかるんです。

でもこちらがその話題を出すときに、毎回「子持ちを否定したいわけではなく、それぞれの人生を肯定しております」と言うのは、あまりにも説明を求めすぎている気がしますね。

月岡 いろんな人がいて、お互い違う価値観を持っているけどそれでいいよね、ということに世の中全体がまだちょっと慣れていないですよね。

吉田 でも、「みんなちがって、みんないい」とか「世界に一つだけの花」みたいなのってすんなりと受け入れられますよね。なぜ多様性や人生の選択肢の話になるとダメなんだろうって考えちゃうんです。

対談の続きは『今世は母になりません』をチェック!

月岡ツキ『今世は母になりません』(太田出版)

本書では、月岡ツキが、子どもを持たないことを選択した既婚女性たちへ匿名インタビューを実施。顔出しでは言えないような本音まで徹底的に深掘るノンフィクション。WEBでインタビューを掲載した10名に加え、書籍限定で「女性パートナーと暮らす人生」を選んだもう1名のインタビューも。

本書の最後には、吉田恵里香と月岡ツキの特別対談も収録。「子なし」というくくりに押し込められる違和感や、自分が後悔しないための選択の軸などを話している。

『今世は母になりません 子どもを持たない私たちの本音と幸せ』
定価:1,980円(税込)
発売日:2026年9月9日(水)

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ねむみえり

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ねむみえり

1992年生まれ、東京出身。フリーランスのライターとして働きながら、現代詩の創作も行っている。本、舞台、お笑い、ラジオが特に好き。